026 津森山・人骨山 [Jan 25, 2014]


図表黄線部は通行できません。ご注意ください。この図表はカシミール3Dにより作成しています。

このシリーズは、中高年の単独山歩きというテーマで書いています。WEBとかガイドブックでは基本的に体力のある山慣れた人が書いているので、そんなに早く歩けなかったり、思った以上にきつかったというケースがままあります。体力があまりない中高年でも、やめろと言われる初級者の単独行でも、この程度なら歩けるということで読んでいただければ幸いです。
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2014年最初の山歩きは、年末に引き続いて房総である。

海抜400mくらいまでしかない房総の山でも、危ないところは結構危ないということが分かったので、今回は慎重に行き先を選んだ。人骨山(ひとほねやま)というおどろおどろしい名前の山があるが、房総のハイキングコースとしては結構有名である。近くの津森山からの巡回コースを計画してみた。

館山道の鋸南富山ICで下り、東へ向かう。目標は佐久間ダム。ここからぐるっと回るコースが大体4時間ほどで手頃である。ダム湖のまわりは公園として整備されており、駐車場もいくつかある。朝一番でどこも空いていたので、橋を渡った先の大きな駐車場に止めた。ここにはトイレがあるし、帰りに向こう側から歩いて来れるはずである。

身支度をして、渡ってきた橋を戻る。この公園は水仙の郷というのが売りで、谷間一面が水仙である。水仙は南房総の特産品で、栽培している農家も多い。このあたりの地名を大崩(をくずれ、と読むらしい)といい、ダムになっているくらいだから谷間である。その谷一面が水仙で占められているのは壮観だが、花粉症のわが身にはあまりよくないのであった。

なだらかな登り坂をゆっくり上ると、大崩の集落である。道端には、ずっと水仙が植わっている。周囲は山に囲まれている。町営バスの車庫があり、その先に集会所のような建物がある。しばらく進むと、ほとんど平坦な道となった。目の前が開けて、向こう側にこれから行く津森山への稜線が見える。

それほどきつい坂でなければ、考え事をすることが多い。この時考えていたのは、「不満があるかないかという観点から人生を見れば、それはまず上出来な人生だった。」(村上春樹「トニー滝谷」)というフレーズである。村上春樹のこの小説は何度も読んだのだけれど、今回はこのフレーズがなぜか気になっていたのである。

不満があるかないかという観点からでない人生の評価軸は、おそらく満足があるかないか、ということになるだろう。「不満のあるなし」を評価軸にとれば「やりたくないことをしない」になるし、「満足のあるなし」ならば「やりたいことをする」になる。しかし、「する」の中にはやりたいこともやりたくないこともセットでついてくるし、「しない」についても同様である。

だから、「やりたくないことをしない」ためには「やりたいこともしない」ことになるし、「やりたいことをする」ためには「やりたくないこともする」ことになる。わが身を振り返って考えると、若い頃は「する」の方向にウェイトを置いていたけれど、年を取るとともに「しない」の方向にウェイトが移ってきた。したくないことはやっぱりしたくないし、そのためにはやりたいことをあきらめざるを得ない。

そういう変化は、自分としてはいいことのように思うのだが、もちろんそれは程度問題であろう。「しない」方に90度舵を切ってしまえば食べていくことができないし、「する」方にしたところで1日は24時間しかない。人生の残り時間だって、せいぜい20~30年といったところだろう。

なんてことを考えて小一時間歩いていたら、何となく道が山から遠ざかってきた。あれ、どこか左折する場所を見逃したかなと思い地図を確かめるが、合っているようだ。まあ、間違えたとしても人骨山に行くはずだからいいやと思ってそのまま歩いていると、右手に廃屋らしきものが見えてきた。

そういえば、WEBに牛舎の廃屋のところを左折と書いてあったと思い出す。曲がり角に、「津森山登山口」と大きく案内が書かれている。ちょっと道は細くなるが、引き続き舗装道路である。次の目印は「人家の庭のようなところを抜けていく」と「必ず吠える犬がいる」のどっちだったかなあと考えながら、なだらかな坂道を上って行く。


のどかな大崩の里を津森山に向かう。


津森山登山口。廃屋の牛舎の隣が集会所で、その前を左折します。まっすぐ行くと人骨山登山口。

廃屋前の交差点を左に入り、少しずつ登って行く。ここからは目に付くところに「→津森山」の案内カードが下げてあるので、迷うことはない。鉄骨の骨組みだけ残った廃屋の横を抜けて行く。道はアスファルトからコンクリートになり、幅も狭くなる。この上に人が住んでいるのだろうかと思っていたら、景色が開けて、家が見えてきた。

WEB情報のとおり、道が家の庭を突っ切っているように見える。犬が吠えるかもしれないと思って身構えて進むけれど、私と目があってちらっと顔を上げたのは、真っ黒な牛だった。山の上に離れて一軒だけ建っている家は、畜産農家であった。さらに進むと母屋の横に白い犬が座っていたが、ちらっとこちらを見ただけで吠える気配はない。

畜産農家のすぐ先が本物の登山口で、ここからは土の道である。道はきちんと踏まれていて、坂もきつくはない。気持ちよさそうな広い斜面を過ぎて、最後の階段を登ると頂上。登山口から10分もかからない。3基の石碑がある背面には鴨川方面への展望が開けている。振り向くと南方面で、伊予ヶ岳と富山の特徴のある山容を望むことができる。

「あと20mで富士山が見えます」という立札があるが、20m進んでも木立に阻まれて何も見えないのでご注意。さらに進んで坂を下ってから登り返し、100mくらい行くとようやく景色が開けていて、そこから東京湾越しに富士山が見える。ただ、この日は暖かかったのでちょっと霞んでいて、丹沢や伊豆半島までは見えなかった。

ゼリー飲料で栄養補給をして、9時半になったので人骨山を目指す。伊予ヶ岳の前に見えるピークが目的地なので、目の子では1時間足らずで着きそうだが、1/25000図に登山道は載っていないし、結構迷いそうな道なのである。牛小屋のある畜産農家まで戻って左に折れ、舗装道路を先に進む。

しばらく進むと結構な豪邸があるが、その他には人家はない。かなり坂を下ってきたあたりで、左右同じような道幅の分岐点に来た。左は鴨川方面、右は大崩方面とある。方向としては右なのでそちらに進む。木々の間から人骨山が見えてきた。標高差で100mほどだろうか。1/25000図の印象よりもなだらかに感じた。

左に開けて人家が見えるあたりで、近くの木に「←人骨山」のプレートがあった(もう少し先に登山口の表示がある。下りてから気付いた)。少し下って、人家の前を通り過ぎて行く。ここがWEB情報の「必ず吠える犬」の家らしく、ちょっと過ぎたあたりで茶色ぶちの犬が追いかけてきた。「怪しくないから」と言うと、ひとしきり吠えてから引き返して行った。


津森山山頂。後ろは鴨川方面の山々。立札には20m先に富士山展望スポットと書いてありますが、100m先です。


津森山から南方向を望む。左に伊予ヶ岳、右に富山、中央手前がこれから向かう人骨山。

山に近づくと要所に道案内のテープがある。水仙が栽培されている谷間を大きく迂回して登っていくと、頂上はもう少し。ロープのある急坂は、登りは使わなくてもなんとかなるが、下が堅い土で傾斜がきついので、下りは使った方が安全である。

頂上からは各方面に景色が開けている。先ほど歩いてきた津森山や頂上近くの畜産農家、下山路の豪邸もよく見える。西側には車を止めた佐久間ダム、内房の山々、東京湾の向こうには富士山が見える。津森山より頂上の木が少ない分、見通しが利く。だから三角点の設置場所にもなったのだろう。

WEBによると以前は大漁旗が掲げられていて、いまでも三角点のすぐ脇に鉄製の旗竿は残っているのだけれど、いまは旗はない。その代わりに、頂上すぐの木に原色のスカーフが結ばれていて、まるでチベットの山のようである。頂上付近は、WEB情報で書かれているほど狭くはなく、10人くらいは大丈夫で、空いていればお昼のスペースにもなりそうだ。

しばらく景色を楽しんでいたら、ちょっと騒がしい年かさの夫婦が来たので下りることにした。下りは登りよりも滑りそうなので、ロープのお世話になる。とても太くて綱引きの綱のようで、後ろ向きに下りながら昔の運動会を思い出した。

あとは佐久間ダムに戻るだけなのだけれど、これがまた大変だった。1/25000図には登山口からダム方向への点線があるのだけれど、現在この道はない(Google mapでもつながっていない)。最後の家のおばさんに挨拶しながら聞いてみると、「昔は道があったみたいだけど、今はどうだろう?」とのこと。

登り坂の上には太陽光発電パネルがたくさん置いてあって、その先は林である。100mほど先に民家の屋根が見えるので進む方角は分かるけれど、そこまでの道はあってなきが如しである。さっき道を聞いたおばさんが、「大丈夫ですか?」とわざわざ見に来てくれる。「あの家まで行けばいいんですよね。」と急傾斜の林の中を下っていく。

冬なので、藪がそれほど濃くないのが救いである。5分ほど格闘して、なんとか夏みかんの植わっている畑まで下りることができた。それから柵を2回またいだから、基本的にはひとの家の畑だったようである。これは通れない道だったなと反省したが、ともかく脱出。ここからは舗装道路である

途中で「←人骨山」の山道が下りて来ている(調べたところによると、頂上直下から南西に下りる道があった)。さらに進むと、今度は道が陥没して片側は崖になっていて、その先に「通行止」の表示がある。通るのに問題はなかったが、車だったら無理である。宅配便の人はどうするんだろうとちょっと心配になる。家はさきほどの民家一軒だけであったが。

あとはのんびりと田舎道を戻る。途中で畑仕事をしていたおじいさんに、「ええもんやろうか?」と呼び止められる。「なんでしょう?」と戻ると、軽トラックの荷台からレモンを5個取って、「絞って焼酎に入れるとうまいから」。うれしいことである。人骨山から下りてダムに向かうことなどをちょっとお話しし、お礼を言ってお別れした。

帰ってから焼酎レモンサワーにしたら、果実の新鮮な香りがした。


人骨山の最後の登りはロープが張ってあります。使わなくても大丈夫。


人骨山山頂。以前は大漁旗があったらしいですが、現在はチベット風の原色スカーフがたなびいています。

この日の経過
佐久間湖駐車場 7:45
8:35 津森山登山口 8:35
9:15 津森山 9:30
9:55 人骨山登山口 9:55
10:15 人骨山 10:25
10:50 廃道 11:10
11:35 通行止め看板 11:35
12:05 駐車場

[Feb 19, 2014]