006 日原林道から天祖山[Aug 17, 2012]

高水三山をまずまずのペースで歩いた後、どこに行こうか考えた。このところ奥多摩を歩いていてとても整備されているので、再び奥多摩にしようとは思ったのだけれど、結構いろいろな山がある。あまり人が多くなくて、できるだけ藪とかがなくて、と探していて見つけたのは日原奥の天祖山である。

普通の初級者コースには載っていない山で、数年前には滑落死亡事故も起こっている。とはいえ、その後危険地帯は整備されたようだし、例年8月1日に山開きがあり頂上の天祖神社に信者が登っていると奥多摩町のHPに書いてあるので、それなりに人の手が入っていると思われた。私が大変苦手としているのが、整備されていない登山道なのである。

心配なのは登山道入口から始まる急坂と、コースタイム3時間という長い道のりである。おそらくこのせいで初級者向けにはなっていないのだろう。そして、私について言えばコースタイムの5割増で考えなければならない。ただし頂上にはこだわらないし無理そうだったら引き返せばいいので、ともかく行ってみることにした。

家から始発電車に乗って、奥多摩駅に着いたのは8時過ぎ。駅を出たところにちょうど東日原行8時10分発のバスが止まっている。しかし、座席は一杯でしかも後からどんどん乗ってくる。WEB情報によると混むのは川苔山(かわのりやま)登山口まで15分ということだから、狭い車中を何とか耐える。

確かにそこで学生の団体が下りたけれども、まだまだ席は一杯である。終点の東日原まで乗った人も30人近くいた。身支度をする人たちで待合所のベンチが一杯になってしまったため、早々に出発する。時刻は8時40分、ここから登山口まで4kmほどの林道歩きである。日原川をはさんで対岸には巨岩・稲村岩が立ちはだかる。

ところどころで道が狭くなっていて、車のすれ違いが難しい箇所もある。以前に車で日原鍾乳洞まで来たことがあって、こんな道だっただろうかと思うけれど、ずいぶんと昔なので思い出せない。でも道幅が広くなってことはあっても狭くなることはないだろう。20分ほどで鍾乳洞との分岐、ここから日原林道に入る。

p>日原林道より奥に進むのは、石灰石鉱山の関係者の車と、雲取山への登山者がほとんどのようである。この日も私の前に2組8人の登山者と、歩いている途中に7、8台の車が通っただけであった。そして、私の行く天祖山に向かうのはせいぜい1日に2、3組で、入山から下山まで全く人と会わないことも珍しくないといわれている山なのである。

上り坂のせいもあって、登山口に着いたのは9時50分。45分のコースタイムに70分かかってしまったのは「コースタイム5割増しの法則」があるので仕方ない。ここから、どのWEB情報を見てもハードだとされている登山道に入る。何しろ、25000分の1地図をみても等高線が密集していて、特に最初の標高差150mを一気に登る導入部は辛そうだ。


東日原から西側を見る。電柱の向こうが稲村岩。随分遠くに見えるが、あの大岩を通り過ぎて目的地はさらに奥である。


林道日原線起点。ここは舗装道路ですが、1kmほど進むと砂利道に。

ハードと評判の導入部の急坂、下の写真のように林道とは明らかに勾配が違う。石垣を組んで斜面を斜めに進むようになっているので、本来の角度よりはゆるくなっているが、それでもきつい。おそらく何件か続いた滑落事故を受けて、登山道を整備したと思われる。うれしいのは、ひと気のない登山道にありがちな、雑草が伸び放題で足下が見えないということがないところ。

ただし、登りはいつまでも続く。汗が噴き出るので5分おきくらいにプラティパス(プラスチック水筒)のお世話になる。道幅50cmくらいなので、座って休むことが難しい。もっとも他に登っている人も見かけないので、道に座ったところで特に問題はなさそうだが(実際、帰りは雷雨のため道に座り込むこととなった)。

それにしても、山で飲むスポーツドリンクは最高においしい飲み物である。プラティパスに入れてそのまま凍らせてあるので、ぎんぎんに冷えた状態で飲むことができる。ただし、チューブの部分がぬるまってしまうため、冷たいのが出てくるまで飲んでしまうのが玉に傷。飲みすぎて途中で足りなくなるのだ。

30分で着くという急斜面を休み休み登って、ようやく「日原→ここから急斜面」の標識のある尾根にたどり着いたのは、登り始めて70分後であった。なぜかここで携帯が鳴る。こんな山奥は当然圏外だろうと思ったのだが、開けた尾根筋は何とか電波が届くらしい。奥さんからのメールで、「庭仕事してたけど、暑いからギブ」ということである。

こちらも相当に体力を消耗している。思わず「こっちもギブじゃー」と言いつつ座り込みたい衝動にかられるが、残念ながら平らな場所がない。5分くらい歩いたところに平らなところを見つけてお昼休みとする。ここまで林道+登山道合計で約2時間半、まあこのくらいが休む頃合いだろう。

奥さんに、「こちらも昼休み」とメール。とりあえずリュックを置き、ゼリー飲料を一気飲みする。水分と栄養が補給できたところで、用意したお昼を食する。ヤマザキのランチパック、缶コーヒー、そしてレトルトカレーである。温めないレトルトカレーなんて初めてだったが、それなりにおいしい。これは次回からレギュラーメンバーになりそうだ。

ようやく人心地がついて、周囲を見る余裕ができた。前評判どおり、誰にも会わない。そして、適当に場所を選んだ割には、カエデやブナなど広葉樹の木陰で涼しい。木々の間から北東の方向に向こう側の山が見える。地図で確認すると、孫惣谷(まごそだに)を挟んでウトウの頭と呼ばれるピークのようである。

しばらく休んでいるうちに、何とか歩けそうな気分になってきた(あとから時間を確認したら1時間近く休んでいた)。でも、このペースで登っていたら頂上に着くのは午後4時過ぎくらいになるだろうし、それだと下りる前に日が暮れる。とりあえず、次の目標地点である「水源巡視道分岐」を目指すことにした。熟練者なら、登山口から30分で着くはずの場所である。


天祖山登山口。左に見えるのは林道。ここまで林道歩き70分。ここから急こう配の登山道になる。

再び歩き始める。勾配はかなりゆるやかになって、気持ちいい山道である。心配していた虫もあまりいない。雑草が茂っていることもない。広葉樹の木陰で木漏れ日の中を進む。下は落ち葉が一杯だが、要所には細かい砂利石を敷いてあるので迷うことはない。想定していたように、最近人の手が入っているのかもしれない。

15分ほど進む間に、2つの道標を通り過ぎる。道が濡れているのは「一杯水」という地点らしいが、集めて飲めるほどの水量ではない。勾配が少しきつくなったがどんどん登っていくと、目標の「水源巡視道分岐」に着いた。休憩地点から20分ほど。登山道から通算では1時間半。コースタイムでは30分なのに。

そういえば、中学高校の頃、年に何回か体育の時間に1500mのタイム測定があって、みんなは5分ほどでゴールできるところを、いつも7、8分かかっていたことを思い出す。その後30過ぎてからマラソンに凝った時に、大会では10kmを1時間くらいで走れたから、1500も10kmもほとんど同じペースで走っていたことになる。

このあたりで、この日唯一の登山者に出会う。あちらの方も単独である。足早に下りてきたのは、さきほどから空がごろごろ鳴っているためだろう。それほど暗くなっていないし雷は遠いのだが、そろそろ引き上げ時かもしれない。できれば廃屋の神社「大日天神」まで行けたらと思っていたが、見上げるとまだまだ登りが続くようだ。

高度計を持っていないので標高は不明ながら、1/25000地図から推定すると1200mあたりまでは登ってきているようだ。東日原がだいたい600mくらいなので、ほぼ600mの標高差。もう少し登りたかったが、頂上は1700mだからずっと遠く。それに雷が鳴っているのでは仕方がない。12時40分、潔く撤退を決断。

下りにかかってすぐ、雷が急に近づいて、雨も降りだした。広葉樹林の葉にさえぎられて雨具を使うほどではないが、急ぎ足で下る。しかし導入部の急勾配にかかり、頭上を覆っていた木の葉が少なくなったあたりで、いよいよ本格的に降られてしまった。

ちょうど大きな岩の下で雨が当たらない場所があったので、20分ほど待機する。木々の間から日差しが見える天気雨なので、そんなに長くは続かないだろうと思ったのである。

(ちなみに、先ほどすれ違った人は「ヤマレコ」に記録を残していて、この時林道まで下りていて土砂降りに逢ってしまったそうだ。それにしても、私が1時間かかって下りたところを30分かからないで下山してしまうのだからすごい。)

待機している間にレインジャケットを着け、急勾配を下っていく。下りはつま先から前傾姿勢で下りるのが鉄則なので、それを練習するのも今回の目的である。雨ですべる所もあるので、注意して下りる。それでも登りよりは大分と時間を短縮できて、約2時間かけて登ったところを1時間で登山口まで戻ることができた。

その後は再び林道を東日原まで1時間歩く。雨はいったん止んでいたけれど、この後1時間くらいで再び降り出し、今度は夜まで続く本降りとなった。日帰り温泉の露天風呂から空を走る稲光を見ながら、また近いうちに来てみようと思った。


水源巡視道の分岐。ここを左に進むと登山道ではなくなるとのことです。


この日の最高到達点付近。地面が傾いているのはカメラが傾いているのではなく、急こう配になっているのです。

この日の経過
東日原バス停 8:40
9:50 登山口 9:50
11:15 ハタゴヤ(昼食) 12:15
12:45 水源巡視道分岐 12:45
13:10 雨宿り(大岩の下) 13:30
13:50 登山口 13:55
14:50 東日原バス停

[Sep 3, 2012]