009 雨天決行!ギリヤーク新宿公演 [Oct 13, 2014]

平成26年10月13日、台風19号は九州から四国に向けてゆっくりと進んでいた。東京の降水確率は80%。台風本体の雨雲は遠いものの、気圧の谷が近づいて雨はほとんど決まりという状況であった。とはいえ、2、3日前にはちょうど台風が来る日にぶつかるという予想だったから、不幸中の幸いだったといえなくもない。

気が付いてみると、もう今年も残り2ヵ月余り。北海道・旭川までギリヤーク師を見に行ったのだけれど空振りに終わり、今年はまだ師匠の演舞を見ていない。今年やるとすれば10月の新宿と冬の川越しかない。新宿公演は、体育の日の振休と決まっている。

これまでギリヤーク師を見に行った時は、ずっと天気に恵まれていた。公演のお知らせには「雨天決行」と書いてあるし、トークでは雨の中で客が2人しかいなかったという話もしていたから、暴風雨でなければおそらくやるだろうと思い、10月13日の午後2時前、三井ビル55広場に向かったのでした。

雨の中、どうやって着替えや化粧をするのだろう。傘もささずに、あのおんぼろカートを引いてくるのだろうか。果たして何人くらい見に来ているのだろうかと思うと、雨に濡れて踊るギリヤーク師には悪いけれど興味津々というところである。幸いというか、三井ビル前に着いたときにはまだ雨は降っていなかった。

早くも、いつもの場所に10人くらいが陣取り、周りにいるのはそれらしき客層である。ただ、いつもの贈・近藤正臣「じょんがら一代」の幟りが見当たらない。ろう石で書かれた「青空舞踊公演・午後2時~」もない。旭川のときもそうだったのだ。本当に来るのかなあと思っていたら、三井ビルの飲食店案内のあたりで、壁に手をついて腰の曲げ伸ばしをしているギリヤーク師が見えた。

2時ちょうど、三井ビルのチャイムが鳴るとギリヤーク師は中央に進み出た。久しぶりに見た第一印象では、去年とそれほど違っていないようだ。御年84歳、大したものである。荷物をほどくと、例の幟りが出てきた。竿を組むのが面倒なのか、布だけ適当なチェーンに結びつけておしまいにしようとする。化粧の間に世話役の人がいつものように組み立てて付け直していた。

台風はまだ動きが遅いようで、本格的に雨が降って来ないのが何よりである。いつもの身支度も、そんなに影響はないように見えた。いつもと違ったのは、ガムテープで補強したカセットレコーダーにビニール袋をかぶせて保護してあったことである。あれが壊れると同じ機械はないだろうし、ギリヤーク師にデジタル機器の操作など難しいだろう。

さて、観客の方は台風モードである。着いた時には20人ほどだった観客は、いつのまにか50人以上いて、ほとんどの人がレインコートor雨合羽をかぶっての観戦である。すでに傘を差している人もいる。私はというと、モンベルの登山用レインウェア上下で万全の構えである。ただ、カメラを持つのに傘をさしながらではやりにくいので、閉じてベルトにかけてある。

いよいよ支度が終わって、ギリヤーク師「じょんがら一代」の触れである。「腕時計!腕時計したままだよ!」と声が飛ぶ。あらかじめ言っておかないと、踊りの途中で気付くと流れが分からなくなってしまうのだ。何回も見ていると、これも一種のお約束ではないかと思ってしまう。そしてこの頃から、雨が強くなってきた。


物陰で準備体操をするギリヤーク。腰の伸び方は84歳には見えません。リュックの人は観客だろうけど、歩いてくる女性は違うだろうなあ。


「じょんがら一代」の幟りをチェーンに結わえ付けるギリヤーク。後から世話役の人がちゃんと幟りを組み立てて付け直しました。


身支度するギリヤーク。この頃まで雨はぽつりぽつりで大したことはなかったのですが・・・。

 

「じょんがら一代」を触れる時にはかなり本格的に降り出していて、メニューの布はびしょびしょになっている。薄いフェルト地の衣装も、みるみる水を含んで色が変わっていく。それでもギリヤーク師は、エア三味線を懸命に弾き踊る。

しかし、曲がまだ中盤になるかならないかくらいだった師匠は三味線を置き、笠を外し、白の上っ張りも脱いで、赤の襦袢1枚になって座り込んでしまう。

後から説明したところによると、「心臓が苦しくなっちゃって、今日のじょんがら一代は最低の出来でした」とのことであった。「やる前からちょっと苦しくて、踊る前に赤いお薬を飲んだんだけど・・・」

茣蓙の上に座り込むと、荷物を探ってよされ節で使うバラの花を取り出した。それを扇子のように前に置くと、昔の「念力」のような振りで腕を上げ下げする。それだけ見ていると深呼吸しているだけのようなのだが、なにしろ雨が降っているのである。来ているのは襦袢1枚である。雨天決行の大道芸とはいえ、84歳のギリヤーク師にとって負担は大きい。

じょんがら一代の曲がずいぶん長く続いたように思えたので、それだけ早くエア三味線を中断してしまったということだろう。気が付くと、師匠は腕を前後左右に振りながら何事かつぶやいている。「南無阿弥陀仏」と言っているように思えて仕方がない。まだ、念仏じょんがらになっていないのだが。

ようやく、曲が振りに追いついて、普段見ているじょんがら一代になった。そして曲が終わると、師匠手早くテープを操作しに行く。触れもなしに、「よされ節」スタートである。なにしろ、すでにバラは用意してある。例によって、3、4人を中央に連れてきてよされ節を踊るのだが、みんな傘を置いて出てくるのでギリヤーク師と一緒にずぶ濡れである。

それでも、晴雨関係なくよされ節は盛り上がった。下の写真のように、ギリヤーク師もじょんがら一代の停滞から立ち直って大ハッスルである。踊りの終わりに、最初に出てきた白髪のじいさんが雨で足下が滑るものだから見事にすっころんでいた。大丈夫だったろうか。

よされ節の終わりくらいから、雨が本降りになった。私自身は傘をささずに登山用上下で観戦していたのだが、周りは傘を差している人も多い。雨が強いものだから、ひとの傘から伝ってくる雨がかなりの勢いで落ちてくる。体は大丈夫なのだが、リュツクとかカメラが濡れてしまうのが困る。かと言って、傘を差すなとはいえない状況である。

仕方がないので、ギリヤーク師の背後にあるデッキに登ることにした。カメラを構えている人が2、3人上がっているものの、スペースは十分にある。この場所はもともと飲食店のオープンテラスになっていて、例年ここで見ている人も何人かいるところなのだが、今年はテーブルも椅子も片づけられているし、店全体に白く目張りがしてある。はじめは台風のせいかと思ったが、あるいは店仕舞いしてしまったのかもしれない。

テラスまで移動する途中で、ギリヤーク師は例によってよだれかけ(?)の紐をしばれのきついのやっているようだったが、雨音が大きくて何を言っているのかよく分からない。いよいよ雨が勢いを増す中、ようやく師匠の支度が整った。ずぶ濡れのメニューを持ち上げるが、雨に濡れてくっついているので「念仏じょんがら」がなかなか見つからない。

ようやく見つかって、大雨の中、「ねんぶーつー、ねんぶーつー、念仏じょんがらー。」と触れの声が響く。心なしか、雨に押されて声が小さいようだ。


雨天決行!じょんがら一代!


雨が降っても踊る!よされ節!

 

雨はとうとう本降りになった。いつもはろう石で書いた「青空舞踊公演」沿いに楕円形に陣取る観客は、この日は一列になって観戦している。おそらく傘がさしにくいからだろう。だから、念仏入りの杖を引いて歩くところ、遠くから師匠が歩いてくる図柄はなかなか迫力があった。

茣蓙を広げ、数珠をたぐり、念仏を唱える。最初のじょんがら一代は途中で振りが変わってしまったが、念仏じょんがらはいつもどおりの進行だ。ひときわ高く雨音が響く中、頭巾をはずし、よだれかけを外し、数珠を振り回す。一声気合いを入れると、舞台右手の階段に向かって走り出す。

足取りは決してふらついてはいない。むしろ、昨年の負傷明けの時よりも動きが軽快である。階段の踊り場と、遊歩道の中ほどで、観客に向けて両手を上げてアピールする。左手階段から下りてくる。例のバケツを持ち上げる。いまさら水をかぶってもかぶらなくても同じだが、お約束なので頭から水をかぶる。「日本一!」と掛け声が飛ぶ。

寝っ転がりのた打ち回る。ここぞとばかりに投げ銭が飛ぶ。色とりどりの投げ銭が濡れた路面にあざやかだ。私も、雨に備えて防水の包装紙に包んだ投げ銭を用意してきたが、みなさん準備は万端のようである。

「これで終わりにします。」さすがにずぶ濡れの舞台、曲が終わると早々に師匠が宣言した。いつもより終わりがあっさりしているなと思ったのだが、雨なので仕方がない。この後のトークも例によって続くのだが、いつもより短く20分くらいで切り上げた。初めはずぶ濡れのままやっていたのだけれど、後から川越後援会のおばさんだろうか、傘をさしてあげていた。

来年は体を治して、もう少し踊れるようにします。あと4年で50周年、88歳までがんばります。」といつもの調子でトークは始まった。この日は特に調子が悪くて、踊る前に薬を飲んだのだけれど、じょんがら一代の途中で苦しくなってしまったのだそうだ。「だけど、その分念仏じょんがらでがんばった。これまでで最高の出来だった。」

今回は体調が良くなかったので、公演のお知らせも出してなくて、こんなに多く集まってもらえるとは思わなかったそうだ。ペースメーカーが長持ちしているのをうれしそうに話していた。「ずっと独身だったけど、パリやニューヨークに行ってもファンの人がいるのでうれしいです」とのことだ。

最後に花束をもらって、せーの「日本一!」でトークは終了。後援者の方に階段の下に誘導されて、タオルを渡されていた。トランクも着替えもずぶ濡れになっていたはずだが、ちゃんと着替えて帰れただろうか、風邪をひかなかっただろうかとちょっと心配。まあ、川越後援会の人達が荷物や投げ銭の回収とかの世話をしていたから、きっと大丈夫だろう。

帰りの電車に乗ると、雨は小降りになっていた。台風本体の雨は、この日の夜遅くから明け方にかけて関東地方を縦断した。翌日は台風一過の秋晴れ。ずぶ濡れになった衣装や小道具も、おそらく乾いただろう。次は、冬の川越である。


いよいよ本降りになる中、念仏じょんがらが始まる。


本人も着替えも何もずぶ濡れ。色とりどりの紙は投げ銭。


雨の中トークは続く。師匠、風邪ひかないでください。

[Oct 22, 2014]