009 尾瀬・燧ヶ岳 [Sep 27-28, 2012]

さて、半年ほど山歩きを復活してきて、次なる課題は山小屋である。小学校~高校の林間学校以来、山小屋に泊まったことはない。もちろん単独行では初めてということになる。

WEBを見るといろいろな山小屋があるようで、あまりすごいところに当たってしまい、次から行く気がなくなってしまうと、結構投資してきている山道具が無駄になってしまう。家の奥さんによると、「ユニクロで千円のものが、無印で買うと三千円になる。それが山屋になると一万五千円。」だそうで、少なくとも元を取れるくらいやらないと後で何かと言われてしまう。

調べたところで最も無難なのは尾瀬のようなので、9月の平日の休みに予約してみる。尾瀬は十年ほど前に環境問題があってから予約して入山するのが基本である。原発問題で来訪する人が減っているとも言われ(何しろ尾瀬の大地主は東京電力)、震災復興で平日2千円引きというのもうれしい。

東武と野岩鉄道で会津高原尾瀬口まで、そこから会津バスに約1時間半乗って桧枝岐から御池(みいけ)、沼山峠まで入る。尾瀬に来るのは三十年以上ぶりで、その頃はまだ野岩鉄道が通っていなかった。鬼怒川温泉の少し北、五十里ダムからバスで3時間位かかったような気がする。五十里ダムにあった大きなバスターミナルは現在はなくなってしまった。

沼山峠からスタートしたのは2時半すぎ。ここから歩いて尾瀬沼まで。うっかりしたのは、沼山峠はすでにゴミ持ち帰り区間だったことである。バスの中で飲んだペットボトルは、そのまま持って入山することとなった。ここから本日の宿である尾瀬沼ヒュッテまで約1時間。前はここから尾瀬沼までの往復で日帰りしたのだけれど、今回は泊まりである。

途中、シニアの団体2組、それぞれ30人ほどが休んでいた。やっぱり尾瀬だけあって混んでいるのかなぁと思ったけれど、その後これだけの大人数のグループとすれ違うことはなかった。峠道が下りに入ると大江湿原。いつの間にか前後左右誰もいない。右手に明日登る予定の燧ヶ岳(ひうちがたけ)、木道の周辺は草紅葉、この景色を独り占めである。

途中で景色を見たりしていて、4時過ぎに尾瀬沼ヒュッテに着いた。平日ですいていたため、4畳半の個室を一人で使える。石鹸使用禁止ではあるがお風呂もあり、歯磨き洗面可、廊下には電気ポットがありお湯が使えて、トイレもきれいでしかもウォシュレット付き、それで2000円の震災復興補助がついて6500円というのはお安い。

お風呂に入って荷物整理をしていると、すぐに5時になって夕食である。大きな食堂には部屋ごとに食事が置かれていて、よく聞くところの先着順・入替制でない。ヤマナの一夜干し、山菜の天ぷら、ロールキャベツ、ポテトと野菜サラダ、桧枝岐そばの小鉢などなど。茸の炊き込みご飯と味噌汁はおかわり自由。こうなると生ビールも頼まずにはいられない。

 


尾瀬・大江湿原から望む燧ヶ岳(ひうちがたけ)。この日はよく見えたのですが・・・。


この日の宿、尾瀬沼ヒュッテ。初・山小屋なので安全策をとってみました。


この日の夕食。山小屋とは思えません。ビールはオプションです。

翌日は6時から朝食。夕食より人数が少ないのは、早立ちした人がいるためだろう。前日は7時半には寝たので睡眠は十分、朝もしっかり食べて、準備万端と思って外を見ると雨。急きょ雨具とスパッツを装備する。

天候が良ければ燧ヶ岳登山、悪ければ山麓を周回するコースを予定していたのだけれど、それほど大降りではないし風もなく、昼ごろには止みそうな予報だったので登ることにした。6時45分に出発、7時ちょうどに登山口の分岐を通過。登山道はもっとも傾斜がなだらかとされる長英新道である。

長英新道は、尾瀬の老舗である長蔵小屋の初代、平野長蔵さんの息子である長英さんの開いた道というところから来ているが、新道とはいっても戦前の話だからずいぶんと昔のことである。平野さん一族は尾瀬一帯をダム化する計画に反対したことでも有名で、もしここがダムになっていたらと考えると大変なことであった。

この長英新道、登山口から頂上の俎嵓(まないたぐら)まで4.5km、標高差は約700m、コースタイムは3時間である。25000分の1地形図を見ると最初はなだらかな山道が続いて、最後の1/4ほどが急斜面のようである。ところが、大分と歩いたのに急斜面に至らない。高度計をみても1800mくらいからなかなか上がらない。

2時間ほど歩きリュックを下してひと休みすると、そのすぐ先が急斜面の入口であった。このあたりからは断続的に木の階段が続く。WEB情報によると、この補修は最近行われたもののようだ。さらに1時間ほど歩くと、ときどき左右が開けた尾根道に出る。晴れていれば尾瀬全体を見渡すことのできるいい景色のはずだが、ガスって何も見えない。

小さな湿原を抜けてさらに登る。10時半を過ぎて連続行動4時間となる。そろそろゆっくり休みたいと思っていたら、突然、風景の開けたミノブチ岳頂上に出た。ここも前方は雲の中である。もっとも、そのためか誰も休んでいなくて、特等席で昼食休憩をとることができた。

宿でテルモスに入れておいたお湯を使って、アルファ米とレトルトカレー、インスタントカフェオレのお昼。時折肌寒い風が当たるので、温かいカフェオレがすごくおいしい。お昼休みの間、4~5人に抜かれたが、途中の登りで抜かれた人数を合わせても10人を超えたくらい。平日の雨天であまり登ってくる人はいないようである。

1時間弱のお昼休みで体力回復、俎嵓(まないたぐら)までの登り標高差約100mは余裕でクリアした。頂上まで休み時間を除くと4時間くらい。コースタイムを2、3割オーバーするのはいつものことである。燧ヶ岳の三角点はもう一つ別のピーク柴安嵓(しばやすぐら)にあるのだが、行ったとしてもガスの中なのでこのまま御池に抜けることにする。

俎嵓頂上で、御池から上がってきたと思われるグループの女性がかなり疲れていたように見えたのだが、そのことを思い出したのは下り始めてからであった。ここでもし柴安嵓まで往復して約1時間をかけていたら、最終バスに間に合わないことはほぼ確実であった。


朝の尾瀬沼。このあたりから燧ヶ岳が見えるはずなのに、雲の中です。この日は結局山頂付近も霧で、ほとんど展望が得られませんでした。


広場になっているミノブチ岳を過ぎると、巨大な岩塊でできている俎嵓(まないたぐら)頂上が見えてきます。あと少し!


燧ヶ岳のピークの一つ、俎嵓(まないたぐら)。標高2340m。頂上付近はこうした岩が重なっているところで、数十m下から岩をよじ登ってここまで来ます。

俎嵓(まないたぐら)頂上を出たのは12時20分。全体が岩で道がはっきりせず、おまけにガスで前方が見えないので行先に迷ったが、あたりをぐるぐる回っていたら「→御池」の表示が現れた。ここからのコースタイムは2時間半。下りはほぼ時間通りに進めるはずなので、3時過ぎに着いてゆっくり風呂に入れるだろうと思ったのだが、とんでもないことだった。

ここから御池への下りは、途中、熊沢田代、広沢田代という2つの湿原地帯があり、その前後の3区間はいずれも急傾斜になる。しかもぬかるみが多く歩きづらいという情報であり、迷いそうな場所も何ヵ所かあるという。その中で、迷いそうな場所にはテープが引かれていて問題なかったのだが、急傾斜とぬかるみは想像以上であった。

頂上からの急勾配をなんとか下ると、もとは溶岩流と思われるガレた沢筋の下り。足下が安定しないのでかなり歩きづらく、またスピードが出ない。でもここはまだ歩きやすかった方で、樹林帯の中に入ると1m以上の段差のある急な下り坂となる。ぬかるみどころか岩以外のところは水たまりになっていて、足を置く場所を選ぶのにも一苦労する。

なるほどここを上がってきたグループが大変だったのもよく分かる。はしごも鎖場もない初級レベルの道ではあるものの、相当に体力がいるし、下りの場合は滑るので転落の危険もある。ここで滑って岩に頭でも打ったら、かなりやっかいなことになりそうだ。

「慎重、慎重」と声に出しながら慎重に下る。このあたりから、抜いていく人もすれ違う人もいなくなった。もしかすると、御池に下る最終ランナーなのかもしれない。この時間から登ってくる人もいないだろうから、ここで大ケガでもしたら翌朝まで誰も見つけてくれない。携帯電話の圏外だから連絡も取れない。単独行の辛いところである。

1時間半くらいかかって熊沢田代に着いた。標高1900mと尾瀬沼・尾瀬ヶ原よりかなり高い場所にある高層湿原が、他に誰もいないため全くの静寂の中にある。時間があればぜひゆっくりしたいところなのだが、行程の1/3にコースタイムの半分かかってしまったので先を急ぐ。

熊沢田代と広沢田代の間も、またもや難しい岩道の下りである。これだけ水たまりやぬかるみが続くのは、日当たりの悪い北側の斜面ということもあるが、上に湿原があるので水の通り道になっているのではないかと思うくらいである。春先は雪が残ってアイスバーンになるというので、さらに困難な上り下りになるだろう。

思わず水たまりに突っ込んでしまったり、岩だと思って手を置くと苔の生えた地面だったり、だんだんと根気が続かなくなってくる。足下に気を取られて頭を太い枝にぶつけてしまい、いらついたあたりで木道になる。ようやく広沢田代、標高は約1700mである。

時計を見るともう3時。山時間でいうと行動を終えて山小屋に着いていなければならない時間である。時間設定の甘さにかなり反省。ほとんど休まずにそのまま御池に向かう。ここも引き続きの急坂で、思った以上に時間がかかる。疲れも出てしまい、ぬかるみにも水たまりにも突っ込み放題となる。

ようやく木道に入ったと思ったら、再び急坂となる。これは風呂も無理かなと思っていたらなんとか駐車場への道に出た。到着はちょうど4時。下りで3時間半、ほとんど休まないでコースタイムを大幅に超過してしまった。そういえばどこかのHPに、燧ヶ岳登山道は状況が良くないので、コースタイムより多めに見積もるよう書いてあったのを後から思い出した。

御池ロッジに急いで10分で風呂に入り、速攻で着替えてなんとか4時40分のバスに間に合った。そこから会津バス、野岩鉄道、東武鬼怒川線、野田線と乗り継いで、家に帰ったのが午後10時半。その日はそれほどでもなかったのに、翌朝になると足や膝が痛くてたまらなかったのは、やはり下り坂が予想以上に大変だったということなのでした。


熊沢田代まではこうしたガレた沢筋を延々と下る。でも、ここはまだ歩きやすい方。


熊沢田代を振り返るおなじみのアングル。晴れていれば絶景となるところですが、霧と小雨で煙ってしまいました。

この日の経過
沼山峠 14:30
16:00 尾瀬沼ヒュッテ(泊) 6:45
7:00 登山道分岐 7:00
9:00 1900m付近 9:15
10:45 ミノブチ岳(昼食休憩)11:30
12:05 俎嵓 12:20
13:40 熊沢田代 13:40
15:00 広沢田代 15:00
16:00 御池バス停

[Oct 26, 2012]