010 天祖山再挑戦 [Oct 13,2012]

10月の第二週、週末の天気がよさそうだったので山に行くことにした。狙うのは8月に途中で雷雨となり撤退した天祖山。歩き出しの東日原から山頂までの標高差は約1000m、日帰りの限界である。朝一番のバスに乗るため、青梅に泊まって始発で奥多摩駅に到着。東日原までのバスは、先日と違って半分くらいの人数。さすがにこの時間に奥多摩に来れる人はあまりいないのであろう。

週末のバス終点となる東日原から林道を歩いて、登山道入口に着いたのは7時45分。前回はすぐに登り始めたのも大バテの原因だったように思うので、意識してゆっくりと身支度する。スタートは8時過ぎ。ところが導入部の急坂を難なくクリアし、緩やかな尾根道まで前回1時間10分かかっていた登りを30分で着いてしまった。

コースに慣れたせいなのか、あるいはここ数ヵ月で何回も山登りをしているからか。とにかく急激に時間を短縮できているのはうれしい。予定どおりここでいったん休憩した後、再び登る。基本的に、ずっと急傾斜が続く。

前回、雷雨のため途中撤退した地点を過ぎると、次の目標になる水道局のロボット水量計は、ほんとにすぐ上だった。ここまで休憩時間を除いてほぼ1時間。驚くべきことに、ほとんどコースタイムで来ている。水量計の地点は、南向きに林を切り開いてあり、太陽光発電のパネルが向こう側の稜線に向かっている。方向的に、鷹ノ巣山のあたりと思われる。

このコースで緩やかな傾斜なのは、尾根道に上がってすぐ(950m付近)、水量計から大日大神のあたり(1100m付近)、1350m、1400mの鞍部の計4ヵ所くらいで、あとはほとんど急傾斜である。しかも、広葉樹林なので落ち葉が多くて登山道が分かりにくい。とはいえ、尾根を上に向かえば大丈夫のはずだ。

ところどころに置かれている水道局の標識、古い登山道のため昔から敷かれているであろう細かい石を目安にする。一定間隔で幹や枝に巻かれている赤テープもうれしい。ただし、ところどころ倒木で道がふさがっていたり、どうにも赤テープが見つからずとりあえず上に進んでみるなんてことも多かった。

息を切らして急坂を登り、赤テープの幹をつかみながら次のコースを探すことをくり返す。このインターバルがちょうどいい小休憩になったようで、8時半、10時半の2度の休憩をはさんで、11時45分には山頂直下の天祖神社会所まで着いた。休憩時間を除くと登山口から3時間半くらい、ほとんどコースタイムでクリアしてしまった。

会所前の広場に荷物を置いて、空身で少し先にある山頂へ。山頂には1723mの標識があり、天祖神社の本殿がある。本殿を裏に抜けると長沢山に向かう長沢背稜の登山道になるが、私の実力では1日で戻れないことになるから、会所に戻って昼ごはんにする。風もなく、いい天気で、絶好の山登り日和である。


前回最高到達地点のすぐ上にあった水道局設置のロボット水量計。南向きの平坦地を切り開いているので、だいたい標高1100mくらい。向こうに見えるのはおそらく鷹ノ巣山。


1500mあたりから、尾根は石灰岩の露岩になります。ちょっと見えにくいですが、木の根元は岩。

さて、奥多摩の中で天祖山を選んだのは、あまり人が来ないということもあるが、山頂に天祖神社の置かれている山ということもある。そしてこの神社、WEB等をみるとほとんどメンテナンスされていないようなのだ。

天祖神社が開かれたのは明治時代初め。天学教会の創始者である服部国光師が当時の白石山、現在の天祖山に百日間の山籠もりの後、天啓を受けて開山したものである。最盛期には信者十数万といわれるが、現在はHPも開かれていない。敗戦による国家神道の衰退が一因とされるが、しぶとく生き残っている新宗教も多いので、それだけではなさそうだ。

横浜市青葉区、たまプラーザの近くに千坪にのぼる教祖の大邸宅があるという。地価は大変なものになるだろうが、WEB情報では建物は古びており、天祖山の状況と似ているのかもしれない。

標高1100mにある大日大神(大日天神と表記している資料もある)も天祖神社の支社と思われる。こちらは標高が低い分荒廃の度がひどい。周辺には神社の中にあった備品が壊れたのか綿の破片が散乱しており、扉はこわれるか開けっ放し、中にはゴミが積まれている。もともと荒れていたのか、避難した人がきちんと片付けなかったのか。

奥の扉の向こう側にはご神体と思われる鏡が覗いている。おそれ多いことである。個人的に霊感もないしパワースポットも信じないのであるが、かつて多くの人が拝んだであろうご神体が打ち捨てられているのを見るのは、信仰心とは別に心が痛むものである。この建物の屋根には巨大な倒木が2本のしかかっている。今後メンテナンスされる可能性はおそらくないのであろう。

これに対し、山頂直下にある会所(宿泊施設)は、それほど傷みはひどくない。樋から天水を貯蔵するドラム缶の設備などをみると、何年も使っていないという感じではない。あるいは、毎年8月に行われる山開きの際に、手入れしているのかもしれない。ただし、「一般(登山者)の使用はご遠慮ください」と書かれている。

山頂には本丸ともいうべき天祖神社が置かれている。ここで驚いたのは、ヤマレコの8月あたりの記事では閂で閉じられていた門が開け放たれていたことである。閉めようと思ったのだが、閂が見当たらないし、ちょうど扉が動くあたりに何かの木の枝が伸びているので、そのままにしておく。

柵の外からみるとまだまだ頑丈に見える神社も、近くで見るとかなり傷みが目立つ。突風とか何かのはずみで本殿の扉が開いてしまうと、あとは大日大神への道をまっしぐらであろう。

「天祖」「大日大神」「国光」といったネーミングから推測すると、天学教会の宗旨は宇宙の原理を理解し人としての正しい生き方を目指していくというものであったろうと思われる。そこに教祖のカリスマ性、神がかり的な能力、庶民のアニミズム的な自然崇拝の風土といった要因がプラスされて、この深山にこれだけの宗教施設を建てることができたのであろう。

その意味では、同じ奥多摩の御岳山も、丹沢大山も似た要素で成長してきたと思われる。いまや観光名所でしかない丹沢・塔の岳も、かつては尊仏岩があり信仰を集めていたという。このように日本人のアニミズムは非常に古く根強いものであったのだが、現世利益的な傾向を強める現代の流れの中、いまや朽ち果てようとしているのだろうか。


天祖山頂上1723mに建つ、天祖神社。このままでは1100m大日天神の途をたどるのか?


頂上直下1700m付近に建つ天祖神社会所。こちらはしっかりしていて、ぽっかりと日当たりのいいところです。

話は変わってこの天祖山、ガイドブックにほとんど載っていないなど、人気のない山である。

実際にこの土曜日、私以外に登ったのを確認できたのは3人だけ(1人は抜かれ、2人はすれ違った)。不人気の要因は、登頂に時間がかかること、日帰りの場合、往路を引き返す以外にルートがないことであるが、もう一つ言われているのは、ほとんど展望が開けず延々と登り坂が続くということである。

時間がかかるというのは、基本的にどうしようもない。人気のある雲取山でも、よく登られるのはほとんど鴨沢、石尾根など奥多摩湖側からとか、三条の湯経由、あるいは秩父側からで、長沢背稜より東からというのはそれほどポビュラーではない。まして天祖山周辺の林道・登山道には、崩落のため使用不能というところが少なくないのである。

一方で、登りにくく景色もよくないという評判については、そんなことはないというのが正直な感想である。確かに広々とした展望台などはないのだけれど、木々の間から見え隠れする鷹ノ巣山から日陰名栗峰、七ツ石山にかけての稜線や、北側ウトウの頭を中心とするタワ尾根の展望は、独り占めするのが惜しいほどである。

登りはたしかに傾斜がきついが、落ち葉で不鮮明な踏み跡を追いかけていくのは楽しい。基本的に危険個所はないように思うが、雨上がりであれば下りがさらにすべりやすくなると思われる。かつて死亡事故があった急斜面にはテープが張られているし、登山道自体を改修しているようだ。

また、昼食休憩をとった会所前は南への展望が開けていて気持ちがいい。石尾根の向こうに富士山が見えたのはうれしかった。おそらくこの会所も、富士山を望むため林を切り開いたに違いない。一方で山頂の神社裏の広場はなるほど日が当たらない。休憩場所としては会所前の方がかなり点数が高い。一度上がってしまうと戻るのが面倒だが。

富士山を見ながら日当たりのいい斜面でのんびりしていたら、あっという間に1時になり撤収。東日原を4時15分すぎのバスに乗るために相当飛ばしたので、2回転んでしまった。1回は下の岩にまともに膝下をぶつけたのだが、この日から新調した新兵器、CW-X(ワコール製なんですね、これが)の効果で、幸いなことに痛かったけどケガはなかった。

登山道入り口まで、ほぼノンストップで2時間半、そこから45分で東日原。柄にもなくコースタイムでがんばってしまったため、3~4日は太もも前とふくらはぎが痛くて仕方ありませんでした。


会所前から南方向。はっきり写っていないのが残念ですが、富士山も見えていました。


頂上天祖神社裏の広場。なるほどこちらは日当たりが良くないですが、長沢背稜に向かう人は会所前まで戻る気しないだろうなあ。

この日の経過
東日原バス停 6:55
7:45 登山口 8:00
8:35 ハタゴヤ付近(朝食) 8:55
9:30 ロボット雨量計 9:35
10:30 1450m付近 10:40
11:45 会所前(昼食)空身で山頂往復 12:55
14:27 ロボット雨量計 14:30
15:25 登山口 15:25
16:10 東日原バス停

[Nov 7, 2012]