014 三条の湯 [Dec 21-22, 2012]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

20日の午後になって、ようやく仕事の区切りがついて翌日休めることになった。21日からは4連休である。例によって土曜日の天気が怪しいけれども、金曜日が休めたら山に行こうと決めていたので予約の電話を入れる。目指すのは雲取山直下の三条の湯である。

尾瀬に続く山小屋経験の候補はいくつかあったけれど、その中で三条の湯を選んだのは風呂があるというのが大きい。昔何かの本で読んだことがあり(山と渓谷だったかもしれない)、行けたらいいなと思っていた。混むと相部屋になるようなので土曜日や連休は避けたいところであり、このように突然取れた平日休みに行けば、ストレスなく泊まれそうだ。

計画としては当日三条の湯に泊まり、翌日雲取山に登る予定で登山届も出したけれど(奥多摩駅に登山届のポストがある)、前線が近づいていて土曜日は雨の予報である。2000mの山頂は雪になっていると思われるので、その場合は撤退することになる。それでも、三条の湯は標高1100mにあるので、5~600mは登らなければならない。

奥多摩からバスでお祭まで。バスの本数はあまりないので、12時40分に乗って1時20分に着くというのが平日にはほとんど唯一の便となる。しかしながら、小学生やおばあさん達は次々と降車して、お祭バス停で下りたのは私ひとりだった。ここからはコースタイムで3時間という長い林道歩きとなる。

車道をしばらく進むと、後沢林道の入口である。けっこう立派な道だと思っていたら、しばらくは人家があって、電線も道路沿いに続いていた。その電線がなくなったのに気付いたのは30分くらい歩いた頃。そのしばらく先の片倉谷の分岐にはゲートが閉まっていて、ここから先は車両通行止となる。路肩が崩れたり落石があったりして、つい最近工事されたと思われるところも多くあった。

三条の湯への林道は青岩谷の分岐まで続いていて、そこまでに片倉谷、塩沢と二つの大きな谷があるので、ほぼ3分の1ずつに分かれる。青岩谷から先は登山道で、そこから標高差200mほど上がる。時間の目安として、林道の3区間を40分ずつ2時間、登山道を30分、ほぼ4時到着を見込んでいた。

さて、ほぼ中間点の塩沢分岐までは予定どおり登ったのだが、ここからなかなか進まない。地図で見るより距離があるのと、日が傾いてしんしんと冷え込んで足が思うように上がらなくなってきたのである。こうした場合は休憩をとればけっこう回復するのだが、何しろ寒いので体を止めるのがつらいのである。

林道は深い谷間に開かれているため、3時を過ぎるあたりからほとんど日は差さない。地面はところどころ地面が氷結していて、うっかり踏み込むと滑る。その足下から冷えてきて、体感気温で0度以下である。さすがに休む気がしない上、持っているのは冷たい水ときている。結果的に、三条の湯までほとんど休まないで歩くことになった。

青岩谷の登山道入口に着いたのは4時10分前。予定より30分オーバーしている。あたりはもう薄暗い。後からラジオを聞いたら、この日は冬至だった。1年で一番日が短いのだから当り前である。道幅はいっぺんに狭くなり、左手は深い谷。ちょっと怖い。

登山道に入る頃から左足のふくらはぎがぴくぴくしているのが気になっていたのだが、20分くらい進んだあたりでついに痙攣してしまった。右手を岩で支えて懸命に耐える。2分ほど動けない。昔、Saitohさんに、攣るのは水分の不足だと聞いたので、水分を補給する。狭い登山道だけれど、幸いに誰も来なかった。もっとも今回は、登り下りとも、誰にも会わなかったが。

ステッキで体を支えながら、何とか進む。傾斜がそれほどでもなかったのが幸いだった。しばらくすると、資材置き場のようなこじんまりした小屋が見えてきて、その先の曲がりを越えると三条の湯の建物が突然現れた。午後4時半。結局、3時間のコースを3時間10分で歩いたことになる。


三条の湯は、お祭から後沢林道経由3時間の徒歩。写真は塩沢分岐を振り返ったあたり。ここまで約1時間半で、ほぼ中間点となります。


青岩沢の先から登山道。傾斜はそれほど急ではないが、この日はやたらと冷えました。右手は崖、左手は沢。

日が暮れる前に着くことができたけれど、寒いし足は攣るしひどい状態。受付で名前を書こうとすると、今度は手がかじかんで感覚がない。指定された雲取の部屋までたどり着き靴を脱ごうとすると、今度は右足が攣った。

10畳ほどの個室に、どうやら私ひとりのようだ。足を押さえながら必死に痛みが遠のくのを待つ。部屋の中は超寒い。奥にテーブルが一つと石油ストーブが置いてある。壁には「火気厳禁」と書いてあるが、ストーブはいいのだろうかと一瞬考える。

ところで、今回の山行では避難小屋泊まりが可能かどうか下調べするつもりであった。奥多摩にはいくつか避難小屋があり、ここを使えればいろいろなルートが可能となるが、営業小屋と違って常駐する小屋番の人などいないから、火の気もないし寝具も食事も自分で用意しなければならない。半面、費用はかからないし予約もいらないという利点がある。

今回も、前回断念した鷹ノ巣山を避難小屋泊まりでとちらっと考えたが、山の上はどのくらい寒いのかは山に泊まってみなければ分からない。-10度まで対応のシュラフを買ってはみたものの、それで大丈夫かどうかは分からないのである。実際に行ってみて、体は冷えるし手はかじかむし、とてもじゃないが火の気のない小屋では無理なような気がした。

夕食と風呂は6時からということなので、部屋で布団をかけて体温の回復を図る。まずは規定どおり掛布団1枚と毛布1枚を敷いてもぐりこんだが、なかなか温まらない。手の感覚も戻らなければ、ふくらはぎの痛いのも取れない。6時前に小屋番のお兄さんが呼びに来るまで30分以上そのままでいたけれど、あまり良くなったような気がしない。

夕飯は食堂に1人分だけ用意されていて、聞いてみると泊り客は私ひとりだった。私だけのために悪いような気がしたが、小屋番のお兄さんはウィークデイの間泊まり込みなのだそうだ。夕飯はおでんに岩魚の甘露煮、シュウマイ、キャベツとブロッコリー、山菜とこんにゃくの煮物と温かいご飯と味噌汁。冷えた体に温かい食事がありがたい。

食事の後は風呂である。ここの源泉は十数度なので、薪とかを使って適温に沸かしている。泉質は単純硫黄泉で、うっすらと硫黄のにおいがある。メタケイ酸イオンや炭酸水素イオンも多く含まれているので、肌にぬるっとくる。こんな山深くによく温泉(鉱泉)を見つけたものだと思う。切り傷の他リウマチ等に効果があるという。狩りをする人達にとって、切実な問題だったのだろうか。

小河内ダムの源流にあるため、石鹸・シャンプー使用禁止である。脱衣所も浴室内も冷え込んでいるので、体を流して浴槽につかる間にもお湯の温度が下がってくる。蛇口からお湯を足して温まる。少しずつ、手の感覚が戻り足の痛みも取れてきたようだ。

部屋に戻って、今度は石油ストーブをつけた。布団も掛布団2枚毛布2枚に増量する。ラジオで天気予報を聞く。翌日は、関東の平野部でも雪が積もると言っている。消灯時間の8時になったので、ストーブを消し、枕元にヘッドランプを置いて布団にもぐりこむ。綿の布団2枚はさすがに重いが、温泉の効果でさっきより大分と具合がいい。

真夜中頃に目が覚めた時には、体が大分温まっていて手のしびれも取れ、足の痛みも軽くなっていた。

注.帰ってから本を調べていたら、「筋力の弱ってきている中高年は、足に疲労がたまって冷えてくると、ふくらはぎがけいれんする」と書いてあった。なるほど、その通りの状況であった。


日が暮れる前に何とか到着した三条の湯。この日の泊り客は私だけでした。一段下にある建物がお風呂場。


4時半過ぎなのに、この暗さ。明るくなっているあたりが受付。山小屋には早く着くようにしましょう。この写真を撮った時には、指の感覚があまりなかったです。

ヘッドランプを点灯して外にあるトイレまで歩く。外は真っ暗である。空を見上げると、山の影と雲の切れ間からわずかに星空が覗いていて、木星とオリオン座、ふたご座のカストルとポルックスの他に、数知れない小さな星が見えた。夕方ほど冷えるように感じられなかったのは、慣れたからだろうか。

次にトイレに起きたのは3時前。この時にはみぞれ交じりの細かな雪が降っていた。ううん、これは撤退するしかなさそうだ。しばらくすると、川の流れる音よりも大きく激しい雨音が聞こえてきた。5時の天気予報は、夜に聞いた時と変わらず関東地方は夕方まで雨、山沿いは雪。撤退である。

6時に朝食。ごはんと味噌汁に、しゃけ、海苔、漬物、つくだ煮。夕飯の時より大分と体調は良くなったが、天気に恵まれないのでは仕方がない。これで、鷹ノ巣山、雲取山と奥多摩で2つの宿題ができてしまったが、また来年がある。

「上は雪だと思うので、下りることにしました。」
と小屋番のお兄さんに言うと、
「そうですよね。この天気で登ると修行になっちゃいますから。気を付けて下りてください。」

とのことでした。このようにリスクミニマムの行動決定となるのは、単独なので当然のことである。

さて、帰るとなったら早く家に着きたい。行きと同じお祭りのバスは10時48分なのでかなり先。しばらく車道歩きとなるが、鴨沢西発9時半というバスがある。これに乗るには、登りで3時間10分かかったところを2時間半で下らなければならない。まあ、雨の中をのんびり休んだりできないだろうから、がんばってみよう。

モンベルのレインウェア“ストームクルーザー”を着て、アウトドアリサーチのスパッツを装着、ザックカバーも付けて、本格的な雨天歩行は初めてである。挨拶をして出発したのが6時40分。時折すごい勢いで雨が降ってくるが、さすがにゴアテックス、中に水を通すことはない。むしろアイスバーンになっていて地面が時々滑るのと、メガネが曇るのが気になる。

あまり時計を見ずにできるだけ急いで歩いていたら、中間点でほぼ行けそうだと見当がついた。下りは足が攣ることもなく林道終点までそのままノンストップで歩き続け、お祭りに着いたのは8時55分。2時間15分で下りをクリアしてしまった。鴨沢西のバス停には9時10分。

ぎりぎりどころか、バスが来るまで雨の中を待たなければならなかったが、間に合わないことを考えれば何ということはない。なかなか体力が付いたではないかと自分でもうれしくなった。この日は昼ごろまでずっと雨で、しかもだんだん冷え込んできたので、立ち寄り湯にも寄らずにまっすぐ家に向かったのでした。

さて今回の山、結局山頂までは行けなかったけれど、今年もう一回は行きたかった山小屋にも行けたし、本格的な雨天時の行動もできたし、この時期の山の寒さもよく分かったので、自分としてはかなり有意義だったと思う。この歳で新しいことにチャレンジできるのは、かなりありがたいことのような気がする。


食堂は一度に20人くらいは入れそうでしたが、この日は私だけ。温かい食事はたいへんにありがたかったです。


食堂の壁に貼ってある三条の湯の由来と、初代小屋番の写真(三条の湯HPにも載ってます)。

この日の経過
お祭バス停 13:25
13:55 後山林道ゲート 14:00
14:40 塩沢林道分岐 14:40
15:45 登山道入口 15:50
16:30 三条の湯(泊) 6:40
7:10 登山道入口 7:10
7:55 塩沢林道分岐 7:55
8:25 後山林道ゲート 8:26
8:55 お祭 8:55
9:10 鴨沢西バス停

[Dec 31, 2012]