001 職業訓練・ポリテクセンター編 [Mar 22, 2017]

テーマ1   「入所説明会と入所式」

1.6倍の競争率をなんとか突破して、6ヵ月の職業訓練を受けることになった。暮れも押し詰まった12月の最終週、入所説明会があるので、三たび、四街道のポリテクセンターに向かう。

説明会場は選考時と同じイベントホール。集まっていたのは1月入所の約120名。席が少し前になったので、選考時より若干減っているのだと思うが、見た感じそれほど変わらない。ちなみに、11月の訓練説明会からこの日までの交通費は出ない。次の入所式からは交通費が(後からではあるが)出る。

入所説明会だから、訓練のスケジュールや日課時限、準備すべき服装やテキストの説明があるのだと予想していたらさにあらずで、最初に書類の受け渡しがあった後は、1時間が失業保険関係の今後の手続きと書類について、次の1時間が厚生労働省推奨のジョブカードの説明であった。

失業保険関係については、この日提出した「公共職業訓練等受講届」に続いて「公共職業訓練等通所届」の用紙が渡され、記入方法の説明がある。じつはこの2つの届け出、用紙は同じで書く欄が違うだけである。前者が受講手当、後者が通所手当を受けるために必要となる書類ということである。

通所手当は、自家用車で通う場合と公共交通機関で通う場合とで計算の仕方が異なる。私は公共交通機関で通うことにしているが、その場合は使用する交通機関や支給上限が定められている。成田線沿線の場合は四街道からバスと指定されているので、これまで3回来たのと同じ経路である。もっとも、運賃の高いことで有名な北総線を使ったら、あっという間に上限額に達する。

通所届の次は、「受講証明書」の説明である。この証明書は実際には入所してから書いてポリテクセンターに提出することになるが、ここで、正当な理由があって指示した証明書を提出しない場合は理由のない欠席となり、失業保険関係の手当はいっさい出ない旨が説明された。つまり、土日祝日を除いて、病気にならない限り毎日出ろということである。

再就職に関連して人と会うこともあるかもしれないと思うのだが、その場合は「就職活動証明書」により、訪問先・担当者名・連絡電話番号・訪問先の確認印を付けて申告しなければならない。したがって、打診とか顔つなぎといった程度では欠席は認められない。予想していたとはいえ、かなり硬直的な制度である。

次の1時間は新・ジョブカードの説明。「文部科学省、厚生労働省、経済産業省はジョブカードの普及に取り組んでいます」だそうで、厚生労働省の作ったジョブカード総合サイトからフォームをダウンロードして、入所式までに作っておいてくださいという説明がある。内容をみると、これまでの職歴やらアピールできるポイント等、履歴書に書く内容がメインである。

まあ、失業手当をいただきながらの講習なのでやむを得ない面もあるが、書く内容はともかくとして、作ったエクセルは暗号化しましょう、とか、セル内で改行するには「Alt + Enter」とか、エクセルの操作にかなりの時間が割かれていたのは、受講生のパソコンスキルが平均してかなり低いことが予想されているのだろうか。

家に帰ってから奥さんに、「溶接や産業機械やる人もみんなエクセル打つんだろうか」と聞いたら、「いまは職人さんでもみんなiPad使ってるから大丈夫じゃないの」との答えだった。それはそうなんだけど、iPadにキーボードやプリンタはないし、みんながみんなエクセルできる必要もない。ものづくりの適性ってそういう事務能力とは対極にあるもののような気がするのだが。

年が明けて1月5日が入所式。この日は午前中に型どおりの入所式とオリエンテーションがあり、午後はそれぞれのハローワークに戻って手続き。失業認定日は繰り上がってこの日になり、前日までの失業手当が手続きされる。

「雇用保険被保険者証は訓練終了までこちらでお預かりします。手続きについては、ポリテクセンターで指示されますので、その指示に従ってください。昨日までの手当は来週くらいに振込になります。」いよいよ、これから半年の職業訓練が始まる。

 

テーマ2   「自己負担はあっという間に4~5万円」

入所式の翌日、1月6日からはさっそくフルタイムの訓練である。まず初めにオリエンテーションの続き。改めてセンター内の各施設について、使用する教室や実習室を中心に案内がある。訓練生ごとに個人ロッカーがあるのは、着替えが必要な訓練もあるので当り前ではあるが、その当り前のことをこの前まで勤めたバカ会社はやってなくて、個人ロッカーがなかったのだ。

教室に戻って、30名の訓練生それぞれが自己紹介を行う。私がいちばん年上かと思っていたら、すでに60歳という人がいて、私は2番目の年寄りだということが判明した。それぞれの自己紹介を聞いていたら、いろいろな経歴の人がいて、さまざまな事情があるということがよく分かる。こういう話を聞いているだけでも、いい経験になる。

自己紹介の後は役員決め。5人1組で班長を決め、班長の中からクラス長、副クラス長、会計、会計監査を決める。担任の先生から「特にやることはありませんから。会計は集金があるかな」と言われるけれども、できればやりたくない。そうなると、決定方法はじゃんけんである。クラス役員のほかにも、日直と掃除当番がある。仕方ないとはいえ、まるで学校である。

役員決めが終わると、さっそく今後のスケジュールについて説明がある。

「みなさん、この訓練6ヵ月で就職をめざしてもらう訳ですが、6ヵ月は短いです。あっという間に過ぎてしまいます。ですから、いまからお配りする就職支援票を週明けまでに作成していただいて、さっそく就職に向けて動き始めます。最初の2ヵ月でジョブカード、履歴書、職務経歴書を完成させ、個人情報を伏せた形で各企業に配布します。」

おお、6ヵ月は黙って勉強させてもらえると思ったのに、これではハローワーク以上にきつい縛りである。さすがに、お手当を基準以上いただくだけのことはある。でも、資格取得のための訓練はどうするの?と思っていると、

「早速ですが、2月21日の二級ボイラー技士試験、3月5日の危険物取扱者乙種4類の試験は受けてください。また、3月13日から15日のボイラー実技講習も受けてください。」

驚くべきことに、まだほとんど全員ずぶの素人なのに、来月にはもう試験を受けさせるというのであった。実技講習は試験に受かった人だけですか?と誰かが質問すると、

「実技講習は受けないと免許がもらえませんので、試験の合否にかかわらず受けてもらうことになります。その上で、履歴書には取得予定ということで書いてもらって結構です。」

「履歴書を作成したら、4月までに面接1社必須です。応募ではありませんよ。面接まで1社必ず行ってください。6月に訓練を終了して7月から就職というのが理想ですが、その前に就職して退所する方もいます。就職してからでも、資格取得の相談にはのりますので安心してください。」

もちろん、資格を取得してそれを足がかりに就職したいという人にとってはそういうことでいいのだけれど、まず資格の勉強をしようと思っていた私にとっては、かなり精神的に圧迫されるようである。

それはいいとして、試験を受けるのは半強制的なのであった。となると、受験料だけで1回5千円1万円と飛んでいく。ボイラーの実務講習に至っては2万円以上だ。その上に、交通費が1日2~3千円かかる。説明会ではテキスト代と作業服で1万円と少しが自己負担ということだったのだが、言われたとおりに試験や実務講習を受けるとあっという間に4~5万円必要になる。

もちろん、この訓練の目的のひとつは資格の取得だから、この費用はいずれ必要となる。とはいえ、訓練生は失業保険を受給中であるのだから、すぐに4~5万円を用意できる人ばかりではなかろう。そうでなくても、交通費や受講手当(1日500円、上限2万円)は後払いだから、資金繰りは非常に厳しいのである。

なんだか、考えていたのと違うなあと思ってこの日は帰途についたのだが、実際に訓練が始まってみると、別の意味でもハードなことが判明したのであった。


ポリテクセンター千葉。この歳になって、再び学校に通うようになるとは思いませんでした。

テーマ3   「いきなりV=IRはきつい」

連休が明けて、実質的な職業訓練の初日となった。オリエンテーションで渡されたスケジュール表によると、最初の講義は電気工事である。

「電気工事を担当します△△です。よろしくお願いします。まず初めに申し上げておかなければならないことは、この講義を受けて第二種電気工事士の資格取得を目指してもらう訳ですが、勉強しなければならない事項に対して、講義の時間が絶対的に足りないということです。ですから、スピードはかなり速いです。講義でよく分からなかったことはきちんと復習して付いてきてください。」

「この講義では、午前中に座学、午後に実習となります。食事が終わったら、1時に作業服に着替えて実習場に集まって下さい。それでは、今日はオームの法則、ハインリッヒの法則、合成抵抗についてやります。」

なんと、電圧、電流、抵抗の説明もなく、いきなりV=IRからのスタートである。電気について勉強したのは高校以来だから、半世紀を隔てている。頭の中で一生懸命思い出しながら、先生の話も聞いて追いかけなくてはならない。第一法則?第二法則?電圧が0?頭の中で必死に先生の説明を翻訳する。

「テキストにはいろいろな公式が書いてありますが、オームの法則とハインリッヒの法則を知っていればあとは展開できますから、その二つは覚えてください。抵抗の問題が出てきたら、直列・並列をそれぞれ整理して、大きな一つの抵抗にするとどうなるか考えること。直列はそれぞれの抵抗の和、並列の場合は和分の積です。このあたりは一番簡単なところです。」

話に付いていくだけで精一杯である。でも、四則演算と分数の計算くらいしか入所試験には出なかったのに、しかも1.6倍の競争率なのに、最初の講義からこのレベルというのは恐るべきことである。もっと難しい試験であればそのように心の準備もしていたのに、いきなり代数和とか言われても頭がすぐに回らないのであった。

なんとか講義に付いていければいいと思っていたけれど、これはかなり集中しないと置いて行かれてしまいそうだ。若い人だって、二十年もたっていきなりオームの法則と言われてもつらいものがあるだろう。「ほとんどの人は未経験者です」「中高年でも大丈夫です」のうたい文句はセールストークだったのかと不安になる。何をセールスするかは問題だが。

午後からは実習である。各自に工具箱と試験で使われる部品類のセットが用意されている。

「それでは、まずVVFケーブルの処理の仕方から始めます。一人だいたい2mずつ、VVFケーブルをカットしてください。」

「ランプレセプタクルに接続する場合。VVFケーブルの外装を5cmはがします。中から白い線、黒い線が出てきますが、そのビニールを心線被覆といいます。心線被覆を2cm残して銅線を出します。そうすると、銅線は何cm出ますか。5引く2で3cmですね。工具箱に入っている電工ナイフで作業します。必ず、ナイフの刃は下敷きのマットに向かって当てること。」

聞く言葉すべてが初めての単語である。そして、けっこうみなさん作業が早いのだが、私の場合工具など使ったことはほとんどない。ケーブルの被覆を剥いでいる間に、説明はどんどん先に進んでしまう。なんたって、電工ナイフを使うのは初めてなのであった。

「銅線を被覆から2mmのところで、ペンチを使って直角に折り曲げます。折り曲げた先を、さらに直角に折ってクランク状にします。その直角のところで、ペンチを使って銅線を切ります。少しだけ残りましたね。そこをつまんで丸めます。丸めてできた輪は、重なってもいけないし、3/4に達しないと試験でアウトになります。ネジが入りますので、必ず右巻きです。」

日曜大工さえほとんどやったことのない私には、難易度が高すぎる。そんな具合で午後の3時間はあっという間に過ぎた。帰りの電車の中ではもうくたくたで、会社の時には考えられないほど疲れて、寝そうになってしまったくらいである。

 

テーマ4   「今の時代にボイラーを勉強する」
電気工事の次の日はボイラーの授業である。今度は年配の講師の方が登場した。

「定年間際に石油関連の会社を退職しまして、ポリテクセンターでボイラーの講師をしております△△です。当時は周南市、千葉、北海道に勤めてきました。こちらに来て20年になるので、先生方はどんどん変わっているのに私だけがずっと残っています。」

おお、そろそろ80歳という大ベテラン。それでも、ずっと立ちっぱなしで1日講義である。私も現役当時、講師の時は立って話すことにしていた。慣れればその方が楽(声が出しやすいし)なのだけれど、お歳を考えれば大したものである。思うに、いまやボイラーを実際に扱っている人はあまり多くないので、後任の人材が不足しているのだろう。

「テキストの順序と違いますが、まず燃料・燃焼から説明します。ボイラー技士2級の試験は筆記のみで、構造から10問、取扱いから10問、燃料・燃焼から10問、法令から10問の合計40問出題されます。すべて5択で、合格点は60点。ただし部門ごとの最低点40点をクリアしなければなりません。」

「燃料には、固体燃料・液体燃料・気体燃料の3種類があります。かつては固体燃料、つまり石炭がボイラー燃料のほとんどで、蒸気機関車もあったくらいですが、現在は液体燃料である石油が中心です。液化石油ガスや液化天然ガスなどの気体燃料も最近増えてきました。他にも、サトウキビの搾りかすや古タイヤなどの燃料もありますが、あまり試験には出ません。」

こういう座学になるといままでのサラリーマン生活との違和感がほとんどない。思えば、学校を卒業してサラリーマンを始めて以来、さまざまな業界の方々とお付き合いしてきたが、いわゆる重厚長大産業とのお付き合いはなかった。その意味では新鮮である。C重油などは市況を見たことはあっても、実際にどういう油で何に使うのか知らなかったくらいである。

それにしても、ボイラーと言われての第一印象は、風呂を沸かすためのものだろうと思っていたくらいで、いまなら会社の寮とかせいぜい大規模ビルの空調しかないだろうというイメージだったのだけれど、講義を聞いてみてそうではないことが分かってきた。言ってみれば、ボイラーというのは産業革命以来の、人類が工業化という意味で積み上げてきたノウハウの蓄積だったのである。

考えてみれば、人類の歴史をさかのぼってみると、文明ができる最初の発明は「火」であった。人類は「火」を思い通りに取り扱うことによって暖をとり、夜も活動できる灯りを作り、調理することによって生のままでは食べられないものを食べることができるようになった。

そして、産業革命により、化石燃料(石炭)を燃やして動力に替えるという発明をして以降、製造業、運送業などがそれまでのものから大きく進展することになった。現代はコンピュータの時代と言われるが、コンピュータを動かしている電力の半分以上は火力発電であるから、いまだに産業革命以来の重工業の時代であると言えないこともない。

そして、例の原発にしたところで、その原理というのは蒸気機関とそれほど違うものではなく、原子力発電所もいわば大規模なボイラーなのである。半世紀前にはいろいろな場所にあったボイラーが、現在では目に触れるところにはほとんどなくなっているけれども、ボイラーを勉強するということは17世紀以降の人類の進歩を勉強することなのだ。

ボイラーの講義は2月一杯まで延べ18日間続く。ここで問題は、われわれが受験を奨励されている(半強制である)二級ボイラー技士免許の試験日は、2月の21日なのである。

だから、講義が始まると間もなく、過去4年間の問題集のコピーが配布された。試験準備は、それぞれが自分のペースで取りかかって下さいということである。そして、講義のペースは非常にゆったりしている。1ヵ月もしないうちに、講義のペースで勉強していては試験にはとても間に合わないということが分かってきた。

こういう場合には講師が気を利かせて講義のペースを調整するものだが、なんといっても齢八十近いおじいさんである。状況が変わったからといって今まで培ってきた講義のやり方を変えることはできない。仕方がないので、講義はよく分からないところだけ聞いて、それとは関係なく問題集を進めるということにせざるを得なかった。

そして、このおじいさん講師は18日間みっちりボイラーと危険物取扱いについて講義したにもかかわらず、残念ながら半強制の免許試験では落ちる人がちらほら出てしまうという結果となったのでありました。


ポリテクセンター6ヵ月コースの教材。1万数千円の自費負担。この他に、半強制の資格試験受験の受験料と交通費が必要になる。

[Mar 22, 2017]