032 笠取山 [May 31, 2014]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

笠取山に行こうと思ったのは、前回の丹波天平(たば・でんでいろ)の時に、のめこい湯に寄れなかったのでぜひ行きたいということが一つ。もう一つには、その当時遭難して1週間以上この山域に閉じ込められた人がやっと下山したのが一ノ瀬高橋、つまり笠取山の登山口にあたることから、ぜひ行ってみたいと思ったからである。

ただ、ここへ行こうとするとバスでは困難である。個人的には、できる限り公共交通機関を使いたいのであるが、タクシーを使わない限り2泊3日が必要であり、車を使えば日帰りが可能である。となれば、費用面を考えると車を使わざるを得ないのである。そして自家用車なら、1人も2人も高速代は変わらない。せっかくだから奥さんも誘って行くことにした。

家を出たのは4時半。夏至に近づいているので、この時間だとすっかり明るくなっている。京葉道路から首都高、中央道と乗り継ぐ。驚くべきことに、まだ6時前なのに中央道のSAは混雑していて、誘導員の人が出ているくらいである。勝沼ICを7時に出て、青梅街道に入る。あとは道なりに峠を越えて行けばいいと思ったのだが、これが結構距離がある。

柳沢峠を越えて、一ノ瀬高橋で青梅街道をそれて脇道に入る。すると、どんどん道が狭くなり、ついに舗装もなくなり砂利道になってしまった。すれ違い困難な一車線の上に段差だらけで砂利というよりも岩道である。これでいいのか心配になるが、断続的に人家が続いている。そしてとうとう、進入禁止のロープがある行き止まりになってしまった。

後から地図を調べると、どうやら「高橋」という集落の奥に入ってしまったものらしい。車を止めて林道を進んでもどこに行くのか分からないので、山梨側から入る方は注意が必要である(実際、われわれの後からこの道に入ってきた首都圏ナンバーの車があった)。作場平までの林道には舗装していないところはありませんので、舗装がなくなったらその道は間違いです。

(後から調べたところによると、進入禁止の先の砂利道は山を2つ越えて笠取小屋まで続いているようです。)

結局、高橋集落の中ほどに戻って「民宿村→」の壊れかけた看板に従って曲がり、しばらく進むと東京都仕様の林道に出るのでやっと安心。カーブは多いけれど人の手が入った林道を3~4km進むと作場平の駐車場で、朝早くから多くの車が止まっている。ぎりぎり最後の1台分のスペースを確保して、身支度をすませると8時半。道に迷ったせいで大分と時間をロスしてしまった。

ここの駐車場にはトイレもあるが、利用者に対して数が少なすぎるのではないかと思わせるところがあった。山の上ならバイオトイレでもいいのだろうが、車の通るところではオーバーキャパシティではなかろうかとちょっと心配。道路をはさんでトイレの反対側が登山口になる。

森の中のなだらかな登り坂を気持ちよく進む。登山道というよりも遊歩道である。空気が落ち着いているように感じられるのは、水源林なのでブナなどの広葉樹林であるためで、杉の植林ではこういう空気にはならない。他にも、コシアブラとかアオハダとか表示がある。奥さんは「これはミツバツツジだ」と喜んでいる。

30分ほどで分岐点となり、ここから笠取小屋まで、急坂とノーマル坂との2ルートに分かれる。ノーマル坂には大勢が進んで行ってさわがしいのと、登り得意の奥さんが急坂でも大丈夫というので急坂ルートを進む。ところが、うれしい誤算というのか、奥多摩基準でいえば登り尾根クラスの普通の登りだった。

奥さんはハイペース、私はマイペースで遅れてしまったけれど、そろそろ休もうと思ったところが笠取小屋直下の水場で、すぐ上が笠取小屋だった。ここまで1時間40分。標高差で450mだからこのくらいで着いていいのだが、コースタイムは2時間だから、すごく早く着いたみたいでうれしい。小屋前のベンチで、あんドーナツとスポーツドリンク、元気一発ゼリーでお昼にした。


笠取小屋への急登コースは、奥多摩水準の普通の登りでした。それでもしんどいですが。


登山口から1時間40分、標高差で450mほど登ると、笠取小屋に到着。この日は好天に恵まれ、多くのハイキング客が休憩していました。

休憩後、笠取小屋からさらに登る。登山道が二手に分かれていて、低い方は道幅は広く傾斜はゆるいのだが、下に木を敷いてあるので歩きにくい。そこで高い方の草原を進む道を行く。起伏はあるが下が柔らかくて歩きやすい。先行するグループもこちらを選んでいる。

10分も進むと稜線に出て、手前に「小さな分水嶺」のピーク、背後に笠取山が現れる。天気に恵まれて、雄大な景色である。左手には、雁坂峠から国師ヶ岳方面の山並み、右手は飛龍山から雲取山に至る奥多摩の山並み。空は夏空だが、時々涼しい風が吹いてきて寒いくらいである。

分水嶺ピークは、ここを境に多摩川、荒川、富士川それぞれの流域に分かれるところで、雨が降った時には数メートルの違いなのに、海に出る時には数百km分かれてしまうのである。多摩川に注ぐのは東側で、ここの頂上には三角柱の石碑が立ちそれぞれの川の名前が記されている。多摩川のところだけ濃く赤で書いてあるのは、東京都水道局が立てたためであろうか。

いったん下って、いよいよ笠取山への急登が始まる。ここの登りは本当の急登で、笠取小屋への急登コースよりレベルが上である。標高差で200mほどを一気に登る。しかも、下から上まで一直線で目の前にそびえ立っている。できればロープウェイが欲しいところである。奥さんは「登るのはいいけど下るのは嫌だ」と今から言っている。

登り始めるとさすがに厳しく、何十歩か進むごとに小休止を入れないと続けて登れない。こういう時は上を見ないで足下を見て進むのがいい。先が長いとそれだけでくじけてしまうからである。足下だけ見て歩く分には、小雲取山の急登と同じくらいに感じた。ただ違うのは、距離がずいぶん長いことである。

100歩歩いて一休み、を何回か繰り返していると、頂上まであとわずかとなった。足下は浮石がごろごろしているので、落とさないように用心しながら慎重に歩いて頂上へ(登る途中で石が転がってきて危なかったのだ)。頂上到着は11時30分、笠取小屋から45分で着いた。

振り返ると、分水嶺ピークがずいぶんと低く見える。ピークはそれほど広くないのに、20人近くが昼休みでにぎやかである。にぎやかなだけならいいのだけれど、バーナーで肉を焼いているグループがあり、せっかくのさわやかな空気がだいなしである。急登ではずんだ息を整えてから、さらに奥へ進む。笠取山の最高点は実はここではなく、さらに奥に進んだピークなのだ。

ここから先は岩場で進路が分かりにくい。これまでしつこいくらいあった道標も全くない。10分ほど登り下りすると、笠取山最高点に到着。ここには「笠取山 1953m」の丸太が立っているが、同時には2、3人ほどしかいられないくらい狭い。ただ、ひと気はほとんどない。手前のピークでほとんどの人が引き返してしまうのだろう。


小さな分水嶺ピーク(左)と、奥に見えるのは笠取山。笠取山の手前のピークまでは人がいっぱいですが、後に続くピークの方が実は最高点。こちらには人はまばら。


いよいよ笠取山への急登が始まる。ここは奥多摩基準でも急登かもしれない。休み休み、何とか頂上へ。

笠取山の最高点からさらに先へ進む。奥さんが最初のピークの一直線の急坂を下りたくないというのと、多摩川源流の最初の一滴とされる「水干(みずひ)」へはこちらから下る方が近道だからである。

ところが、標識が全然ないものだから、どこで下ったらいいのかよく分からない。南側を注意して見ていたので分岐点を見逃すことはなかったと思うのだが、ちょっと不安である。そして最高点からさらに15分ほど進んだ小ピークに「埼玉県」と書いてあるのを見て、これは進みすぎてしまったかとあせった。

奥多摩通の方はご存じのように、この稜線の山梨側は東京都水道局が持っている山林である。もともと巡視道から出発したと思われる登山道は歩きやすく整備されており、道標も十分にあるからそれほど迷うところではない。問題は、稜線から北に行ってしまうとそこは埼玉県で、過去多くの遭難事故が発生し、いまだに行方不明という人も多くいる山域なのだ。

先だっての三条の湯から8日間の遭難事件も、詳しいことは分からないがおそらく埼玉県側に迷い込んだのではないかと思われる。笠取山から唐松尾山にかけての秩父側では、かつてヘリコプターの二重遭難事故も起こっている。いずれにしろ迷い込んだらそう簡単には出られない難所として有名なのだ。

場合によっては戻らなくてはならないなと思いながらあたりを見回すと、「埼玉県」の表示の先で道が二つに分かれており、右の分岐に「水干、笠取」と書いてある。水干はいいけど笠取山はここだろうと思ってよく見ると、笠取の先で表示板が折れているように見える。もしかしたら、もともと「水干、笠取小屋方面」と書かれていたのではあるまいか。だとしたらこちらが正解である。

コンパスで方角をみるとまさしく南方向なので、ここで右に進むことにした。道はすぐに急勾配の下りとなる。下りが苦手の奥さんが嫌だと言い出すかと心配したが、案に相違してどんどん進んでいく。聞いたら、一直線の下りは嫌だけれど、曲がりくねった急坂はそれほどでもないそうである。一直線でも曲がっていても下るのは同じような気がするが。

くねくねした坂を10分ほど下ると、太い登山道に出た。笠取小屋から水干を経て黒エンジュの頭に向かう道である。ここを右、つまり西に折れれば帰り道である。案ずるより産むが易しで、心配したほど困ったことにならなかったのはよかった。そして、この分岐から先は道標が整っている。東京都水道局の陣地に戻ってきたのだ。

再び遊歩道のような広い道になり、ゆっくり歩いて笠取小屋へ。ここの水場で、汲みたての冷たい水をプラティパスに詰めて行く。山の水でごはんを炊くと、驚くくらいおいしいのである。

下りはほとんど休まなかったので、最後はちょっとバテてしまったものの、2時15分、ほぼ予定どおりの時間に下りてくることができた。作場平の駐車場は、路肩にも止められているほどの大盛況。この時間に身支度をしているグループは、今夜は笠取小屋でテン泊か小屋泊なのだろう。

帰りは丹波山村に向かうため、来た道とは逆方向に車を走らせる。一ノ瀬集落を抜け、右側は断崖絶壁、左側は深い谷という油断できない道を青梅街道まで戻るのだが、朝の道よりずいぶん走りやすい。どちらかというと、ここへは丹波山村方面から入るのが正しい選択かもしれない。


笠取山の最高点は手前頂上とは違って人がいません。最高点から奥多摩側の山並みを望む。


多摩川の初めの一滴とされる水干(みずひ)。この日は残念ながら一滴は落ちていませんでした。岩の上部には「水神社」の石碑が掲げられている。

この日の経過
作場平駐車場 8:30
9:00 一休坂下分岐 9:05
10:10 笠取小屋(昼食) 10:35
10:45 分水嶺ピーク 10:50
11:20 笠取山 11:30
11:55 笠取山埼玉側 11:55
12:15 水干 12:20
12:45 笠取小屋(水場) 12:55
13:50 一休坂下分岐 13:50
14:15 作場平駐車場
(GPS測定距離 10.3km)

[Jul 4,2014]