991 亀田vsJBC+拳論[Feb 2014 – Feb 2015]

#1   合法的いやがらせ 拳論vs亀田 [ Feb 24,2014 ]

個人的なことだが(と前置きして)、ボクシングブログ「拳論」に対する亀田兄弟の損害賠償請求訴訟について、意見をまとめておきたい。結論から先に言うと、拳論およびライターである片岡亮氏を応援するため、「スラップ訴訟被害者支援の会」に些少ではあるが寄付をさせていただいたところである。

ボクシングファンでない方もいらしゃるので、この件を簡単におさらいしておく。

去年9月に行われたIBFスーパーフライ級王座決定戦、亀2こと大毅vsロドリゴ・ゲレロ戦において、契約ではそれぞれ希望するグローブを使用することとなっていたにもかかわらず、亀田サイドは両者とも日本製グローブを使用すべきだとして、JBC(日本ボクシングコミッション)職員を監禁・恫喝したとされる問題である。

この件については、東京スポーツでも報じており、現地にいた片岡氏も「拳論」コメント欄に速報を入れた。しかし、それが気に入らない亀田サイドは、興毅・和毅を原告として、片岡氏に事実無根の風評により名誉を棄損されたとして、2000万円の損害賠償請求を起こした。

この種の訴訟は「スラップ訴訟」と呼ばれ、経済的強者が自らの立場を利用して相手に圧力をかけることが目的である。訴訟の勝ち負けははっきり言って問題でない。相手が提訴されたことにより、心理的財政的な負担をしなければならないという時点で、すでに目的は達せられているのである。

実際に被害に遭ったJBC職員が、興毅・和毅と亀田ジム関係者に対し損害賠償請求をしていることからみても、おそらく監禁・恫喝は事実であろう。ただ、問題はそこ(だけ)にあるのではないと思っている。

スラップ訴訟そのものが違法という考え方もあるが、私は個人的にはその見解をとらない。それは立法・司法で救済すべき問題である。損害賠償請求そのものは法で認められた正当な権利であり、亀田兄弟のやり方はいかがわしいとはいえ裁判所の判断を仰ぐことは妨げられない。これはいわば、合法的な嫌がらせなのである。

お前は嫌がらせを認めるのかと言われるだろうが、嫌がらせは世界にあふれていて、完全になくすことはできない。合法であって経済的な圧力という手段であれば、他の嫌がらせよりもまだましだと思っている。というのは、その手段によらなければ直接的身体的な嫌がらせになる可能性が大きいからだ。

サラリーマンであれば、業務命令という名前の嫌がらせを受けていない者は少ない。運転をすればネズミ獲りがあり、役所に行けば順番を待たねばならず、街を歩いていればガードマンに進路を遮られる。世の中の規則・ルール・申し合わせの少なからぬ部分は、誰かにとって嫌がらせである。

だから、裁判という手段をとることは認めよう。しかし、どちらを応援するかは自由だ。私としては、しょっぱい試合でボクシングの興趣を著しく損なってきた亀田兄弟よりも、迫力あるブログを作りみんなが知るべきであるニュースを伝えた片岡記者の方を、全面的に応援したいのである。

ブログを閲覧したからといって、片岡氏に手数料が入る訳ではない。しかし、ブログの記事によって知るべきニュースを知ることができたという意味で、受益者の一人は私である。その結果こういう事態となったからには、ぜひ協力したいのである。

その意味では、必ずしも募金額が問題なのではなく、むしろ、何人が自分の懐を痛めて応援するかに注目している。亀田のしょっぱい試合には入場料を払いたくはないが、片岡氏の対亀田の戦いには支援しようという人がどれくらいいるだろうか。

そして、亀田兄弟の人気といわれるものも、元をたどればTBSの番組制作費であり、スポンサーの広告費支出であり、もともとわれわれがスポンサーの商品を買ったおカネである。彼らが自分自身の迫力あるファイトによって築きあげてきたものではない。

直接か間接かの違いはあるものの、亀田に対するNOの意思表示は、こうした形で表されるべきであると考えるのである。自分達の名誉がたかだか2000万円で回復されると思っている兄弟に、そんなことは嫌がらせにさえならないという位の人数・募金額が集まれば、彼らの思惑は完全に裏目に出るのである。

#2   先送りは悪いことばかりじゃない JBCvs亀田 [ Mar 3,2014 ]

2月7日のJBCによる亀田ジムと亀田3兄弟のサスペンド(ライセンス停止)から、早いもので約1ヵ月が経過した。亀田サイドからはさまざまの小細工が行われているようであるが、いまのところ、大きな動きはない。大きな動きがないということは、JBC対亀田の戦いはJBCペースで進んでいるということである。

強烈なアンチ亀田の人たちにとって、動きが少ないことは物足りなく思えるかもしれない。TBSが中継打ち切りを決断し、IBF、WBOが兄弟の王座を剥奪し、ジムのオープンが暗礁に乗り上げれば多くのファンにとって溜飲が下がるのかもしれない。ただ、長いこと社会人をしてきた経験から言えば、激しい動きには必ずリアクションがある。このように問題の多くが先送りされている状況は、決して悪い方向には向かっていないと思う。

まず認識した方がよろしいのは、この争いはわかりやすく言えば兵糧攻めなのである。JBCが囲む側、亀田サイドが籠城する側である。事態が変わらないで時間がたてばたつほど、籠城側の食糧はなくなり、打つ手が限られてくるのである。

処分前に発表された亀3・和毅の防衛戦は、いまだに正式発表がない。4月か5月にやるのであれば、当然会場は押さえておかなくてはならないし、無観客でやるのでなければチケットだって売る準備がある。それができないということは、TBSの中継が決まっていないということである。

TBSはいまだに方針を明らかにしていない。もちろん、情勢の推移をみているのであろう。TBSにしたところで、反社会勢力とのつながりが噂され、JBCからもサスペンドされている亀田一家と親密とみられることは避けたいはずである。事態が解決に向かわない限り、少なくとも株主総会が終わる6月までは、TBSが姿勢を明確化することはない。

試合が組めないということになると、亀田サイドは困る。TBSからの制作協力費やファイトマネーは入ってこないし、新しくオープンする三軒茶屋のジムの宣伝もできない。ちなみに、JBCにサスペンドされているからといって、ジムをオープンすること自体には問題はない。ここからプロの選手がデビューできないというだけである。ただ、こういう事態で客が集まるかどうか。

苦しいのはJBCも一緒だという人がいる。ただ、JBC自体は財団法人(現在は一般財団法人)であって、必ずしも収益を目的とはしていない。基本的には収支が合えばいいのであって、毎年内部留保を増やさなければ存続できないという団体ではない。仮に、対亀田の訴訟費用が収益を圧迫したとしても、それはライセンス料、加盟料、承認料等の増額によって対応することになる。つまり、亀田サイドは業界全体に喧嘩を売っているということである。

もちろん、費用の増加から収入の増加までにはタイムラグがあり、その間の資金繰りはどうするかという問題はありうる。とはいえ、JBCのバックは東京ドームである。巨人軍のホームゲームという圧倒的な収益源を持つ東京ドームと、新規ジムの集客にさえ暗雲が漂う亀田ジムとの体力差は歴然としている。JBCが資金繰りに困る事態よりは、亀田ジムが困る事態を想定する方がはるかに現実的である。

つまり、このまま何も起こらずに裁判手続きに入るという事態を避けるべきなのは亀田サイドであって、JBCは困らない。亀田サイドに可能な選択肢があるとすれば、協栄ジムの金平会長が言うとおり「興毅引退→会長就任」であって、年初にこれをやられたらJBCも厳しかったかもしれない。元世界チャンピオンが自分のジムを持つのをダメという理屈は立てづらいからである。

ところが、興毅は職員恫喝・訴訟騒ぎでJBCと事を構えてしまった。だから、この選択肢も使えない。私が北村弁護士の立場なら、JBC・拳論との訴訟合戦などさっさと和解に持ち込んで、興毅に一度引退させてジムを存続させる。興毅にやる気があれば、ほとぼりがさめた頃にカムバックさせればいいし、その時までに新会長を人選して時間をかせぐ。

ただ、時間が経てばたつほどこの手も使いづらくなる。亀田に同情的とされるIBF、WBOにしたところで、長期間防衛戦をしなければ入札指示なり暫定王者なり置かざるを得ない。亀田兄弟が本当に強ければ中南米の多くのチャンピオンと同様に敵地で防衛戦をすればいいのだが、彼らにそれをするだけの度胸があるかどうか。

ここでもっとも辛いのは、亀田兄弟の試合をぜひ見たいというファンなど、あまりいないことである。ギネスに載った三兄弟同時王者などと威張ったところで、試合自体がつまらないのだから仕方ない。私だって、亀田兄弟の試合など別に見たくはないし、このままフェイドアウトしてもらうのが一番好ましい。

思えば、興毅が出てきた頃には徳山、新井田、イーグルくらいが世界チャンプで、西岡・長谷川も国内限定だったが、いまや内山・三浦をはじめとして本物の世界チャンピオンは大勢いる。亀田兄弟などを応援しなくとも、面白い試合・期待できる試合は数多く存在するのである。

#3   亀田問題、その後の推移 [ Jun 1,2014 ]

亀田を巡る問題について、先月注目すべき3つのニュースが流れた。しかしながら3つとも正式発表には至っておらず、逆風の強さに対する観測気球といううがった見方も出ている。いずれにせよ、サスペンドから半年経とうとしている中で、兄弟の試合は目途が立たない状況が続いている。

第1のニュースは、当初4~5月と発表されていた亀3・和毅の防衛戦が予想通り延期となり、なんとカネロvsララの7/5ラスベガスMGMのアンダーカードでやるらしいということである(正式発表はないが、いまだにBoxrecにはそう書いてある)。

ラスベガスでPPVとなると大変なことだが(日本選手絡みでは、荒川vsリナレスで繰り上がりPPVとなったケースあり )、果たして見る人がいるのだろうかと思っていたら、案の定正式発表されたPPVの4試合はファンマ、アブネル・マレスといったビッグネームで、軽量級で知名度もない亀3の出る幕はなかった。

PPV以外で、落札したファイトマネーを払えるのだろうか。確か指名戦の落札価格は1千万円を超えていたはずだが、PPVに乗らないアンダーカードのファイトマネーが5万ドル以上ということは考えにくい。そこでありうるのが、TBSがWOWOWから権利を買って後日放映という可能性である。1千万円もクリアできるし、7月ならばTBSの株主総会が終わっている。

私の予想では、可能性は半々である。ゴールデンボーイ・プロモーションとしては、前座の前座みたいな試合にこだわりはないはずで、場所くらいは貸してくれるだろう。問題はTBSが放映権を買うのかという点と、亀田ジムがニュートラルなジャッジでやる度胸があるかという点である。もっとも、亀3のタッチボクシングは、客はともかくラスベガスのジャッジ向きではある。

第2は、現在JBCによりサスペンド中の亀田ジムについて、協栄ジムの元トレーナーである大竹氏を新会長として再申請を行ったというニュースである。

これについては、東日本ボクシング協会の大橋会長や協栄ジム・金平会長が「そう簡単には認められない」とのニュアンスを出しているが、私の予想では、形式的にでも基準を満たしていれば、結局は認めざるを得ないだろうと考えている。形式的の中身は、業界経験のある人物であること(これはクリアしている)と、二度と同じことは起こさせない保証である。

一説によると、帝拳の本田会長が保証人に立つという。本田会長が登場すればさすがに誰も反対できないが、果たして本当に火中の栗を拾うのだろうか。いずれにしても、亀1の謝罪(?)会見は避けられないと思われるので、どの面を下げて出てくるか楽しみだ。

拳論を見ていると、亀兄弟の復帰絶対反対という論調がみられるのだが、そうした人たちに言いたいのは、じゃあんた方、亀兄弟に訴訟を起こされてる片岡氏をちゃんと応援しているのか、ということである。訴訟カンパの額は50万円余、後楽園ホールの入場料にして100人くらいしか応援していない。けしからんと言うだけでは単なるクレイマーである。

第3は、第2とも密接に関連するのだが、WBAがスーパーフライ級チャンピオンの河野公平に対し、指名挑戦者として亀田興毅と対戦指示を下したというニュースである。これについては先週末に追報があり、亀田ジムのJBC認可を条件として8月くらいの実施を両陣営が合意したと伝えられる。

おそらくすでに水面下では、業界内の根回しが行われていると思われるが、私は個人的に、この対戦は見てみたい。本当に亀1が「えぐいくらい強い」ならば河野を相手にしないはずだし、赤穂でも岩佐でも山中とだって誰でも来いということだろう。公開処刑になるのか、実は本当に強かったのか、どうなるか楽しみであり、少なくとも元世界チャンピオンにそれくらいのチャンスは与えるべきだろう。

#4   亀田vsJBC 半年経過 [ Aug 18,2014 ]

今年2月にJBCが亀田ジムをサスペンドしてから、早いもので半年が経過した。

7月に亀3・和毅が、ラスベガスでカネロ・アルバレスのアンダーカードに出場、KO勝ちしてアル・ヘイモンの傘下に入り、バンタム級戦線で世界の強豪とマッチメークされつつあるのがほとんど唯一の動きであるが、負ければ終わりの厳しい状況にあることは間違いない。一方で、興毅・大毅の兄弟は、依然として国内での試合ができないままの状態が続いている。

亀1・興毅はスーパーフライ級でWBAチャンピオン河野公平の指名挑戦者となっており、大竹氏の3Kジム継承、UNITEDジム移籍などの動きが報じられたものの、結果的にどれも実現せずに現在に至っている。テレビ東京の中継を見込んで会場を押さえたとされるワタナベジムも次々とキャンセルに追い込まれ、ついには別の挑戦者で防衛戦という観測も出始めている。

もともとJBCの処分は、ガバナンス不足の亀田ジム(実質的な責任者はいまだ親父)に対して課せられたもので、3兄弟はまともなジムに移籍さえすればお咎めなしのはずであった。ところが、亀田兄弟はそれに服せず、あくまで親父とともに独自の道を模索しているようである。

大竹氏がジムを継承するという動きがあった際には、業界重鎮の帝拳ジム・本田会長が保証人に立つという噂があったが、これは結局噂にすぎず、大竹氏も早々に亀田ジムとは関係を絶ったとされる。思うに、亀田ジムの生命線は興行権とそれについてくるテレビマネーであって、ジムの経営ができなければ足りないというのが正直なところと思われる。

ともあれ、2月のサスペンドから半年が経過し、亀田兄弟の国外追放は徐々に既成事実化しつつある。興毅が出始めた約10年前と違い、いまの日本ボクシング界は多士済済である。帝拳とその系列ジムは世界王者を輩出しており、山中はじめ世界の一流選手に伍していけるチャンピオンもいる。新鋭という意味では井上・村田はじめ有望選手が続々と登場している。

世界レベルという意味では、きたる9月5日には八重樫東がローマン・ゴンサレスを迎えて防衛戦を行う。いうまでもなく、この階級の世界一を争う試合である。こうした試合を数多く観戦できる現状はたいへんうれしいことであるが、亀田一家にとっては、自分達だけがネームバリューがあり、視聴率が稼げるという状況だけが望ましいのであろう。

おそらく亀田一家は、かつて内藤戦で大毅が世界戦の権威を傷つける反則行為を行った際のサスペンドと同様、1年も経てば許してもらえると思っているだろうが、前回は有期(1年)サスペンド、今回は条件を充たすまでは無期限のサスペンドという点が全く違う。そして、時間が経てば経つほど、世間の関心は亀田からは離れるのである。

残念ながら、日本のボクシングファンの大多数はライトファンであり、アル・ヘイモンって誰ですかという層が大部分である。このままTBSがフェイドアウトし、テレ東もあきらめてくれて、どこの局もバラエティにさえ出さずに時間が経ってしまえば、誰も亀田にニーズなど感じない。なにしろ試合自体に魅力がなく、貧しい境遇から親子でのし上がってきたというドラマ性のみで売ってきたのである。

JBCのサスペンドにマスコミが乗る形でこのまま兵糧攻めが続けば、早晩亀田ジムは東京・大阪のジム経営に支障が出ることは避けられない。そして、拳論・JBC職員に対して起こしている名誉棄損訴訟も、彼らの望む結果となることは考えにくい。そうなると困るのは彼ら自身なのに、打開どころか自滅の道を歩み続けているのは、自業自得とはいえかわいそうではある。

#5   亀田vsJBC 1年経過 [ Feb 28,2015 ]

亀田兄弟とJBC+拳論の法廷バトルが本格化してから、早くも1年が経過した。この1年で様変わりしたことといえば、井上尚弥の登場によりボクシング界が新しい時代に突入し、もはや亀田兄弟の出る幕がほとんどなくなったということである。「去る者は日々に疎し」と言うけれどもまさにその通り。亀田を放送すれば視聴率が取れるという時代は終わったようである。

個人的に肩入れしている拳論との訴訟については、行列のできる北村弁護士がストーリーAとかストーリーBとか言っていたものの結局は尻つぼみ。実際の口頭弁論手続きを事務所の同僚に任せ、亀田兄弟も活動の場を海外に移して今日に至っている。アル・ヘイモンと契約できたのはご同慶のいたりだが、それだけ強い相手とやらされるということだから、しっかり勝ち残ってほしいと思うばかりである。

前にも書いたようにこの訴訟合戦の本質は兵糧攻めであるから、目立った動きがなければそれだけ亀田サイドに不利である。したがって、個人的にはこの先何年でも法廷闘争をやっていただいて、亀田兄弟は「あの人は今」になってしまうのが一番いいと思うけれども、せっかくだから2年目突入を機に、裁判の展開について私見をまとめてみたい。

まず押さえておかなければならないことは、JBC職員vs亀田、亀田vs拳論のいずれの裁判も民事ということである。民事の裁判では、はっきり言って正義や真実がどこにあるかが問題ではない。裁判所によって原告・被告間の調整が図られるということが重要なのである。したがって(特に日本では)民事では和解という結論がベスト、うやむやのままに終わるというのがベターな解決となる。

原告・被告間の調整とは何かというと、はっきり言ってカネである。裁判所としては上に述べたように和解での決着をめざすものの、判決まで行かざるを得ない場合、どういう根拠でどちらがいくら払うかということを判断する。その判断においては、基本的に前例(判例)を踏襲し、それに当事者に対する裁判官の印象(心証)が加味されて判決が下される。

以上を踏まえて、まずJBC職員vs亀田の裁判についてみると、職員の主張は「亀田兄弟の対応に身の危険を感じた。その精神的被害に対し損害を賠償せよ」ということであり、対する亀田サイドの主張は「そんなことはしていない。事実無根の訴訟で名誉を棄損されたのでその損害を賠償せよ」である。

訴訟のこれまでの経過をみると、JBCと亀田ジムに意見の相違があったことは争いようがない。それを狭い部屋の中で交渉したのも事実である。亀田側がもし事実無根というのであれば、職員に対して精神的圧迫感を与えるような発言はしていないと主張しなければならないが、自分達で提出したVTRが逆の証拠になって、全面的に否定することができなくなっている。

亀田サイドとしてはその証明ができないものだから、「JBCは統括団体であり亀田ジムより立場が強い。だから強く出られる訳がない」という主張をしているようである。だがこれはことの本質とは話がずれている。JBCというのは法人であり生身の身体を持たないから、殴られても痛くないし後をつけられても平気である。被害を受けたと主張しているのは人間であるところのJBC職員である。

だから裁判所としては、おそらく職員が精神的に圧迫される状況であったことを認定することになるだろう。亀田側からそうでないという立証がなされていないからである。ただし、職員個人が受け取る損害賠償の金額としては、ほとんど0、ないしきわめて小さいものとなる。実際にケガを負わされている訳ではないし、利害が相反してきびしい折衝を要すること自体は職務の範囲内と判断されるからである。

たとえば、コンビニ本部と加盟店オーナーのようなケースが近いかもしれない。立場的には本部が強いように思われるが、実際に本部から経営指導のようなものが行われるとした場合、職員個人の立場が強くなる訳ではない。

「誰のおかげで稼げていると思ってるんだ」とすごむオーナーがいるかもしれないし、「まだ話は終わってないんや」と退席を妨げられるケースもあるかもしれない。しかし、そうした場合でも、職員が損害賠償請求するケースはほとんどない。実害が生じれば警察マターだし、態度の悪い加盟店に対しては報告を受けた本部がその加盟店を除籍しておしまいである。

今回のケースも同様で、本来ならJBCが亀田ジムを処分して終わりである。しかし、常識的でない亀田サイドは拳論に対して訴訟を起こすという手段に出た。だから、職員側が「損害額がほとんど0」にもかかわらず亀田兄弟と関係者に対し提訴したのである。

結論からいうと、JBC職員vs亀田の訴訟においては、損害賠償額がいくらに査定されるかは問題ではない。職員が精神的被害を受けたと主張するような事実があったかどうか、裁判所の判断が求められているのである。それが裁判所に認定されれば、損害賠償の金額にかかわらず亀田ジムへの処分が軽くなることはない。

もちろん、行列のできる北村弁護士は、損害賠償が少額にとどまれば「実質勝訴」などと言うだろうが、もともと民事訴訟に勝訴も敗訴もない。裁判所は勝ち負けを決める訳ではなく、原告・被告間の調整を図るものだからである。それに、すごく好意的な言い方をすれば、亀田サイドの目的は事件以前の状態に戻ることだが、それができなければ実質的に彼らが得るものはない。

さて、本線の亀田vs拳論の訴訟である。亀田サイドの主張は「事実無根の報道により名誉を棄損され被害を受けた。損害を賠償せよ」であり、拳論の主張としては「そもそもその事実はあったし、東京スポーツも報道している。またこの記事には公共性・公益性があり、名誉棄損にはあたらない」である。

さて、昨日書いたように、JBC職員に対して亀田兄弟と亀田ジム関係者が精神的に圧迫感を与えたことは事実である。もちろん見解の相違はあって、職員が「身の危険を感じる」一方で、亀田サイドが「そんな意味で言ったんじゃない」ということはあるかもしれない。しかしいずれにせよ、事実無根という主張はJBC職員vs亀田の訴訟が起こった段階ですでに成り立たない。

だから亀田サイドとしては、「あえて公開しなくてもいいことを公表され、名誉を棄損され社会的評価が下がった」という主張に切り替えざるを得なかった。民事だからどういう主張をしてもいいのだけれど、この路線変更はかなり苦しい。

というのは、名誉棄損の範囲を広く取れば取るほど、憲法で保証されている表現の自由と抵触するケースが多くなる。そのため、過去の判例においては、①事実の公共性、②目的の公益性、③真実相当性、が証明されるものについては、刑法上の名誉棄損罪、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求の対象とはならないこととしているからである。

今回のケースでは、③の真実相当性については、すでにJBC職員vs亀田の訴訟が起こされているし、JBCによる亀田ジム処分等とあわせて考えると、「真実あるいは真実と信じるに足る十分な根拠があった」、つまり、真実相当性があることについては亀田サイドの主張は成り立たない。

また、②の目的の公益性については、不特定多数を対象にしたボクシング興行がまっとうに運営されるべきことは公益性があると判断されるし、①の事実の公共性については、こうした事実を報道することによってインチキ興行に加担したり、不行き届きなジムに関係して被害を受ける一般人を減らすために、こうした事実を周知させる意味がある、つまり公共性があるということになる。(こうした事実を知ってなお関係したいという人は、それなりの覚悟を持って関係しているのだろう)

つまり、過去の判例から見る限りほとんど亀田側は「詰み」なのであるが、ここでもう一つ注意しなけれはならないのが裁判所の印象(心証)なのである。亀田サイドはこの部分においても、記者会見場にガラの悪い人を派遣したり、いろいろやっている。警察に被害届も出されているくらいだから、心証としては最悪である。

だから拳論サイドが気を付けなければならないことは、裁判所の心証を悪くしないために、亀田兄弟や関係者への人格攻撃ととられかねない行動をとらないということと、仮に最高裁まで行ったとしても持ちこたえられる財政的裏付けを用意するということである。前段についてはすでに拳論各位も承知しているようで、訴訟以来亀田問題はほとんどスルーしている。

後段については、訴訟応援カンパがまだ100万円にも充たない状況をみるとやや不安要素はあるのだが、資金面での不安は双方ともにいえることで、この点についても亀田サイドは相当追い詰められているようだ。

最近の亀1興毅のブログでは、世界チャンピオンはもっとビッグマネーを手にしていいみたいなことを言っているが、おそらく歴代世界チャンプの中でも上位の稼ぎを得てきたはずの亀1がこう言うということは、内情はかなり厳しいのではないだろうかと思っている。