024 パッキャオvsクロッティ@カウボーイズ・スタディアム [Mar 13, 2010]

WBO世界ウェルター級タイトルマッチ展望(2010/3/13、アーリントン、カウボーイズ・スタディアム)
マニー・パッキャオ(フィリピン、50勝38KO3敗2引分け) -700(1.14倍)
O ジョシュア・クロッティ(ガーナ、35勝20KO3敗) +500(6.0倍)

デラホーヤ、ハットン、コットと連続KOに仕止め、飛ぶ鳥を落とす勢いのパックマンであるが、それにしてもこのマッチメークは危険である。少なくともオッズほどの力量差はなく、クロッティ体力勝ちの目も大いにある戦いとみている。

何と言ってもクロッティは、あのディエゴ・”チコ”・コラレスに引導を渡した男なのである。コラレスはメイウェザー戦以降精彩を欠いてしまったけれど、2000年くらいにはウェルターまでの4階級制覇は堅いとみなされていた選手である。そして確かにライト級までは強かったものの、ウェルター級ではクロッティが撃沈したのであった。

そのクロッティの3敗とは、まず1敗目が世界チャンピオンになる前のカルロス・バルドミルに反則負け。これはバッティングを故意とみなされたものらしい。2敗目がアントニオ・マルガリトに判定負け。これは仕方ない。3敗目は昨年のミゲール・コットとのスプリット・デシジョン。この一戦は序盤でダウンを取られたものの、後半はむしろ押し気味であった。

つまり、マルガリト以外に明確に差がついたことはなく、そのマルガリトにも倒されていないということである。まさに、ウェルター級では一線級の実力者であり、パッキャオの右フック、左ストレートがクリーンヒットしたとしても倒れない可能性の方が大きい。

ここ3戦のパッキャオの相手であったデラホーヤ、ハットン、コットは、体格差があるので倒して当り前という戦い方をしていた。だからパッキャオがカウンターを狙い撃ちできたけれども、今回のクロッティは挑戦者の立場である。倒されなければ自分の市場価値は上がるし、勝ちでもすれば大変なことになる。クロッティ側に、あせって仕掛けなければならない理由はない。

もちろん、フレディ・ローチがOKした以上、クロッティにも穴があるということだし、実際コットにダウンを奪われているように、体が温まらない間にパッキャオが決めてしまうこともありうる。とはいえ、クロッティが守る気になればガードは固いし、手が長いので急所はほとんどカバーできる。パッキャオはあまりボディ打ちは使わないので、守りやすいはずだ。

もう一つクロッティに注目すべきは、全身武器というか、頭が当たることが結構あるということである。コットも目を切って大苦戦したし、バルドミル戦以外にもザブ・ジュダーとの負傷判定など、バッティング絡みの決着が何試合かある。もしパッキャオが負傷した場合、ただでさえ体格的に不利であり、事態を打開するのが難しくなることもありうる。逆に言えば、負傷引分けや負傷判定といった不完全燃焼の試合になるかもしれない。

私のボクシング予想の基本的な考え方は、「技術に差がなければ体格に勝る方が有利」である。確かにパッキャオのここ3戦はすばらしいかったが、本来の階級リミットより低い契約ウェイト(相手に減量の不利あり)という条件面の有利さもあった。この1戦は、クロッティが戦い方を間違えない限り、パッキャオには厳しい戦いとなるのではないか。

 

WBO世界ウェルター級タイトルマッチ(3/13、テキサス州アーリントン)
マニー・パッキャオ O 判定(3-0) X ジョシュア・クロッティ

期待したクロッティ、きちんと序盤ディフェンシブにスタートして、後半勝負の作戦で臨んだのだが、案に相違してパッキャオの手数とスピードが最終ラウンドまで落ちなかった。ポイント的には完敗だけれど、クロッティとしてはやるだけのことはやったということだろう。

パッキャオのスタミナは、本当に人間離れしている。ウェイトを上げるとほとんどの場合耐久力がなくなり、後半バテることになる。マラソン選手に筋骨隆々な選手がいないのは、それを証明している。ところがパッキャオの場合、どうみてもフェザー級時代のマルケス兄戦などと比べて、より耐久力が増しているのだから不思議である。

アーサー・アブラハムやフェリックス・シュトルム、しばらく前ならマルクス・バイエルといった攻防分離型選手は、相手が3分間フルラウンド攻め続けるほどのスタミナはないということを前提としている。その意味で、クロッティのとった作戦は必ずしも成算がなかった訳ではない。相手が悪かったということである。

もう一つ言えるのは、カウボーイズスタディアムの5万人以上の観客の前で戦うのに、やはりクロッティは大舞台慣れしていなかったということである。その意味でもパッキャオは何万人が目の前にいようと実力を発揮できる図太さを持っており、フェザー級時代からの度重なるビッグファイトの経験がクロッティを上回っていたということであろう。

序盤2Rでクロッティがふらついた点についてWOWOWでも見解が分かれていたが、私の目には、いいパンチをもらったクロッティが「効いてないよ」という意味でダンスステップを踏もうとしたところが、予想外に足に来てしまったように見えた(昔、同じようなことをしたザブ・ジュダーがジェイ・ネイディにカウントアウトされ、コスチャ・チューにKO負けした試合があった)。

これは、パッキャオのパンチの強さと的確さを誉めなければならないが、それに加えて、クロッティが大観衆を目の前にして緊張し過ぎたという要素も考える必要がある。おそらくパッキャオが今回用意した作戦であるボディ打ち(これまであまり見たことがない)と過度の緊張が、後半戦でのクロッティの足の動きとスタミナを奪ったはずで、その意味でフレディ・ローチの作戦勝ちということはできるだろう。

そして、判定としてはワンサイドになってしまったが、この試合はパッキャオにとって見た目ほど楽な試合ではなかったのではないか。最終ラウンドまで手を出し続けるのは誰にとっても楽ではないし、WOWOWで高柳さんが言うほど、クロッティがパンチでダメージを受けたとは見えなかった。それに、過去3戦と比較してもパッキャオは結構クロッティのクリーンヒットをもらっていたように思う。

だから、クロッティとしてはもしかしたら序盤から前に出て行くという選択肢もあったのかもしれないが、これをするとハットン、コットの二の舞になる可能性は大きくなるし、いずれにせよ大舞台慣れしていないクロッティの動きの重さという問題は残るので、何ともいえない。ハットンやコットが取らなかった作戦を選んだということは評価したいと思う。

さて、これでパッキャオがウェルター級でも十分に通用するフィットネスを証明したことは間違いなく、”マネー”メイウェザーが年齢的な衰えをみせるようだと、結構いい勝負になりそうな気もしてきた。しかし本当に正直なところを言うと、日本人が束になって60年以上とれないウェルター級が、フライ級から上がってきた選手にやられてしまうようでは、ちょっと寂しいというのが本音である。