021 パッキャオ、コットをKOし7階級制覇 [Nov 14,2009]

WBOウェルター級タイトルマッチ展望(2009/11/14、米ラスベガス)
O ミゲール・コット(プエルトリコ、34勝27KO1敗) 2.9倍
マニー・パッキャオ(フィリピン、49勝37KO3敗2分け) 1.5倍

Boxrecによると、コットの持つWBOタイトルの防衛戦となるらしいが、試合自体はウェルター級リミット(145lbs)未満でのキャッチウェイトになる。デラホーヤ、ハットンを連破してきたパッキャオの方がファイトマネーが上なのは仕方ないとしても、強いのはコットのはずである。

もちろん、パッキャオ陣営としては全く成算のない勝負ということではないと考えているのだろう。確かに、ウェルター級の3強、シェーン・モズリー、アントニオ・マルガリト、そしてコットを比較した場合、最も打たれ弱い(体力的にも、ハートの面でも)のはコットである。

パッキャオとすれば、スーパーウェルター級(あるいはミドル級)相手でも打ち合えるモズリーやマルガリトが相手となると、例えハットン戦のようにクリーンヒットがあったとしても、いずれはパワーで打ち負ける可能性が大きい。唯一コットだけが、スーパーライト時代のリカルド・トーレス戦、唯一の敗戦であるマルガリト戦にみられるように、打たれ弱さがあるのは確かである。

とはいえ、コットがマルガリト、モズリーより優れている点もある(でなければモズリーに勝てない)。それは、ディフェンスの堅さとパンチのパワーである。コンビネーションならモズリー、しつこい連打ならマルガリトであるが、一発一発のパンチはコットの方が強くて硬い。また、コットががっちりガードを固めれば、ハットンのように被弾することは考えにくい。

一方で死角もあって、コットはまだ29歳なのだが、年齢的な衰えが上の二人より激しい。おそらく3、4年前がピークで、それ以降の力は全盛期より落ちていると思われる。コット自身もある程度それを自覚していて、この一戦が、かつて素通りされたメイウェザーとのビッグマッチを実現するラストチャンスと考えているはずである。

展開であるが、パッキャオが動いてコットが追うこととなるだろう。パッキャオのチャンスは、ハットン戦と同様、序盤戦で決定打を打ち込むことであるが、コット陣営としてもそれは折込み済のはずで、ディフェンシブにスタートしつつ、ラウンド終盤で早いコンビネーションを入れてみる、ということになる。

パッキャオの右フック、左ストレートは、ハットンのようにノーガードで食わない限りウェルター級のコットには致命傷とはならないはずで、ある程度試合が落ち着いたところで、パッキャオの動きを止めるべく、コットのボディ狙いが始まる。そこで、パッキャオのカウンターと、コットのディフェンスが勝負の鍵となる。

パッキャオとすれば、コットにダメージを与えるにはカウンターしかない。逆に、コットはもともとアマチュア出身で手堅いディフェンスが持ち味である。パッキャオはコットにダメージを与えてようやく五分五分、コットとすれば余計な被弾をしなければパンチ力でもテクニックでも上という意識はあるだろう。

もしパッキャオが試合序盤でダウンでも奪えるようなら、フェザー級時代のマルケス戦のようなクロスゲームになるが、そうでなければ中盤からコットが体力で圧倒することになるだろう。コットの判定が5割、終盤KOが3割。残りの2割が序盤KOでそうなればパッキャオにも半分(1割)くらいのチャンスはある。

 

WBOウェルター級タイトルマッチ(11/14、米ラスベガス)
マニー・パッキャオ O KO12R X ミゲール・コット

解説の浜田さんがおっしゃるとおり、4Rのアッパーがすべて。あとは体の大きなコットが逆に逃げ回る展開となり、見ていて胃が痛くなった。本当にパッキャオはすごい。今回は素直に脱帽である。

パッキャオが天才であることはもともと認めている。ただし、その天才とは、パンチ力とか、テクニックとか技術的なものというよりも、勝機をつかむ勘であり、その裏づけとなるのはカウンターをとる能力と思っている。今回も、基礎体力ではコットに分があった。事実1ラウンドは、コットが左ジャブでコントロールしていた。

パッキャオ~フレディ・ローチの計算として、私の予想と同様に、五分五分の体力を残して後半に持ち込まれれば不利だという考えはあったと思う。そして、コットにダメージを与えるにはカウンターしかない。だから、あえてロープ際まで下がって打ち合いに誘ってみた。もちろん危険は承知の上である。そして、打ち合いの中で、スピードの差が出てアッパーが決まった。

あとはコットのパワーとスピードが落ちる一方で、パッキャオのパンチは当たるのにコットは当たらないというワンサイドの試合となってしまった。コットは時折り左ジャブをヒットさせるものの、すぐにパッキャオに左に動かれてしまい付いていけない。終盤では苦し紛れにサウスポーにスイッチしたりしたものの、事態を打開することはできなかった。

予想でも触れたように、コットはウェルター級3強の中で最も打たれ弱い。だから、序盤で決め手を奪うことができれば、こういう展開になる可能性はかなりあった。しかし、個人的にはその可能性よりも、コットが中盤までディフェンシブに進めて、体力の差を生かす方向を選ぶ可能性の方が大きいと思ったのである。

コットに誤算があったとすれば、やはりハート面だったという気がする。カウンターをもろに食わなければいいのだから、パッキャオがロープに下がったのをカウンター狙いと見抜ければ、あえて早いラウンドで打ち合いに応じる必要はなかった。あるいは、ウェルター級マイナス2ポンド(0.9kg)の減量が予想以上にきつく、早めの勝負という頭があったのかもしれない。

試合を見ながら思い出したのは、かつてマルコ・アントニオ・バレラがナジーム・ハメドを判定で下した試合。この試合でバレラは、ハメドを深追いすることは最後までせず、徹底してジャブと小さなパンチで対抗した。結果的にハメドが自滅する形でキャリア唯一の敗戦となった。バレラは大好きな打ち合いを封印することにより、難敵ハメドを下したのである。

コットが打ち合いに応じず、前半だけでも徹底してガードして重い左ジャブをヒットさせ続ければ、バレラがハメドを苦しめたように、パッキャオが事態打開に苦しむ場面もあったはずである。その意味では、むしろそうさせなかったパッキャオ~フレディ・ローチの作戦勝ちを誉めるべきなのかもしれない。

パッキャオファンの方々には、おめでとうございました、とお祝い申し上げます。

 

パッキャオ快挙・読売新聞・コット敗戦の教訓 [Nov 17, 2009]

4団体が乱立し世界チャンピオンのレベルが下がっているのは確かだとしても、マニー・パッキャオの快挙に少しも水を差すものではない。何度もくり返すが、フライ級の世界チャンピオンが徐々にクラスを上げ、ウェルター級で試合をすること自体が驚異的なのである。

主要4団体のタイトルに限定すると、フライ、スーパーバンタム、スーパーフェザー、ライト、ウェルターの変則5階級制覇。フェザーとスーパーライトはマイナータイトルを取っているので、都合7階級制覇とあちらのマスコミは言っているようだ。確かに、フェザー級ではマルコ・アントニオ・バレラを、スーパーライト級ではリッキー・ハットンをKOしているのだから、その主張には十分根拠がある。

スーパーバンタム~ウェルターの6階級は、デラホーヤの達成したスーパーライト~ミドルの6階級と同じだが、パッキャオはそれに加えてフライ級である。ファイティング原田がどんどんウェイトを上げて、柴田国明を倒しガッツ石松も藤猛もKOして、最後は輪島功一と戦ったようなものである(確かに原田JBC会長は輪島並みに体重を増やしてはいるが)。

さて、東洋の生んだ空前絶後のボクサーといっていい今回のパッキャオの快挙について、読売新聞の昨日の朝刊にはなんと一行の記事もないのである(千葉版だけだろうか?)。ボクシングの記事はわずか数行、パックマン・コットの前座で「ユーリ・フォアマンがWBAスーパーウェルター級新チャンピオン」だけである。

確かに、ダニエル・サントスはビッグネームだが、それでも知名度は決して高くない。ユーリ・フォアマンも注目の新進ボクサーだが、サントス以上に知る人は少ないだろう。なぜこのタイトルマッチが記事になってパックマンが一行も載らないのか。おそらくこのタイトルマッチがWBA、パッキャオ・コットがWBOだからであろう(JBCはいまだにWBA・WBCしか認めていない)。

それにしても、いっそのこと全部記事にしないならともかく、サントス・フォアマン>パッキャオ・コットというのはいかなるセンスなのであろうか。読売=日テレといえば帝拳と親しいはずだったのだが、ダイアモンド・グローブの放送終了を受けて、ボクシング担当がいなくなってしまったということなのかもしれない。

さて、昨日の試合、何度考えてもコットの作戦ミスという考えが頭から消えない(ハットンの時もそうだったけれど)。なぜ、カウンター狙いが分かりきっている相手に対して、ムキになって打ち合う必要があったのか。中盤の展開からみて、足が動いて反射神経がまともであれば、十分にアウトボックスできたはずなのである(少なくとも判定勝負になるくらいは)。

もちろん、パッキャオの攻撃は鋭い。しかし、こちらから攻めて行ってカウンターを食らうのと、ディフェンスしつつ避けきれない一撃を許すのとでは、ダメージが倍以上違う。それに、結局最後までコットはパッキャオのボディを打つことはできなかったが、あれだけウェイトを増やしていればボディが弱点でないはずがない。

どうやら、フレディ・ローチは“Money”メイウェザーと戦うのは時期尚早と考えているらしい。次の対戦は2戦して完全決着していないマルケス兄が有力とのことである。どのウェイトでやるかが問題だが、スーパーライト以上であれば、階級への適合状況からみてパッキャオ優勢ということになりそうだ。

それにしても、一発のある相手には無理に打ち合わず、アウトボックスで長期戦に持ち込むべきだというのは、ボクシングに限らず実生活でもかなりあてはまることなのかもしれない。サラリーマンは相手をKOすることよりも、ガードを固めて致命傷をできるだけ避けることを選んだ方が、長期的には損ではないらしい。最近ようやく分かってきたことなのだけれど(定年間近になって・・・)。