027 パッキャオ、8階級制覇(vsマルガリト) [Nov 13, 2010]

WBCスーパーウェルター級王座決定戦展望(11/13、米アーリントン)
マニー・パッキャオ(フィリピン、51勝38KO3敗2引分け) 1.2倍
O アントニオ・マルガリト(メキシコ、38勝27KO6敗) 4.25倍

主要4団体5階級にせよ、マイナーを含む7階級にせよ、パッキャオが前人未到の境地を進んでいることは疑いようがない。ただ、ケチをつけるわけではないが、デラホーヤ戦以降はその階級最強の相手と戦っている訳ではなく、フレディ・ローチをはじめとしたスタッフのスカウティングの勝利という側面が大きいことは否定できない。

今回のマルガリトもその延長戦上にある。もちろん、このクラスのWBO王者ミゲル・コットにこの両者はいずれも勝っているから、王座決定戦としての妥当性は満たしているけれど、私は154ポンドで一番強いのはポール・ウィリアムスだと思っている。ウィリアムスは来月セルヒオ・マルティネスとミドル級で戦うが、158ポンドキャッチ・ウェイトなので、その気になればまだスーパーウェルターに落とせるはずである。

さて、話はウィリアムスじゃなくてマルガリト。全盛期が4、5年前であったことは疑いようがなく、シェーン・モズリーに一方的に打たれまくったことから考えると、同じようにパッキャオにやられることは十分に考えられる。若い頃は渾身のパンチを食らっても平気で前進してきたマルガリトも、蓄積した疲労からか最近では動きに精彩がない。

そしてマルガリトは全盛期でも、ウェルターでは強いがスーパーウェルターに上げると今一歩のところがあった。これは、相手のパンチの威力が増すとともに、耐久力が増すことが作用していたと考えられる。もともと一発の破壊力というよりは、相手の嫌気を誘うような連打型なので、体格差をやや苦にしたという要素もあるだろう。

それでも、およそ1対4というオッズと、10cmの身長差・体格差を考えると、やはりパッキャオ乗りという訳にはいかない。先週のファンマvsマルケス弟戦をみても、ジャストミートしたのはマルケスのパンチなのに、結局前進を続けたファンマが押し切った。やはりボクシングにおいて体格差というのは大きい。

この戦いも、パッキャオのクリーンヒットにひるまずマルガリトが前進できるかという点が最大のポイントである。全盛期の8割の力があれば、マルガリトは出られるはずである。あのカーミット・シントロンの右ストレートにびくともしなかったマルガリトのアゴが、パッキャオのフックにひるむとは思えない。そういう場面があるとすれば、マルガリトには全盛期の半分の力も残っていなかったということだし、おそらくフレディ・ローチはそう見ているのだろう。

しかし私はマルガリト。マルガリトのしつこい連打にパッキャオがあきらめるとみる。7Rから9RのマルガリトKOがそれぞれ30倍なので、このあたりを狙ってみたい。なお、ポール・ウィリアムス、ダニエル・サントスに敗れていることから、マルガリトはサウスポーが苦手という見方もあるが、今をときめくセルヒオ・マルティネスをKOしているし、スタイルから考えても左右は関係ないと思っている。あくまでマルガリトが全盛期に近い出来という前提だが。

もう一つ気になるのは、会場のカウボーイズ・スタディアムでは、今期ホームチームが絶不調なこと。どちらのファンが多いかといえば、やはりマルガリトだと思うので。なお、この試合は、日曜日の午後0時からWOWOWでライブ中継される。

 

WBC世界スーパーウェルター級王座決定戦(11/14、アーリントン)
マニー・パッキャオ O 判定(3-0) X アントニオ・マルガリト

予想記事でも書いたけれど、今回はパッキャオが勝っても全然驚かない。マルガリトがモズリー戦以下の出来だったから、当然こうなる。

まずマルガリトについていえば、5~8年前の全盛期に相手のパンチをまともに受けても前進し続けたツケが、倍返しのように返ってきてしまっている。当時、普通のボクサーは相手のパンチをよけてから攻めるのに、マルガリトはまともに受けて打ち返すので特異体質だと思っていたのだが、やはりそうではなかったということである。

相手のパンチをまともに急所(アゴやテンプル)に受ければ脳にダメージを受ける。NFL(アメリカンフットボール)でも最近、脳しんとう対策が厳格にとられるようになったが、その時に影響が出なくても、時間がたってから影響が出てくる。おそらく、マルガリトが全盛期の力を取り戻すのは無理だろう。(他にもリカルド・マヨルガなどが同様)

そして、さすがフレディ・ローチと思ったのは、体格の違う相手と戦って一番困るのはジャブで距離を取られて自分のパンチの射程内に入れないことだが、マルガリトはジャブが打てないということである。だからパッキャオが踏み込んでの右フック、左ストレートが面白いように決まった。相手がガードを固めて打たせてくれれば、間違いなく射程内に入れるのである。

さてパッキャオ。これで実質8階級制覇は偉業だとしても、世界戦統括団体が増えて、階級最強の相手とやらなくてもタイトルが取れるという点を考えると、あまり過大評価はできない。少なくともデラホーヤ戦以降は、名前があって力が落ちてきた選手と戦っただけという見方もできる。

いまだにレナートやハーンズ、デュランがボクシング史上最強と評価されるのは、複数階級で戦ったからではなく、階級最強の座をかけてライバルとしのぎを削ったからである(その証拠に、ハグラーはミドル級一本だ)。パッキャオもフェザー~スーパーフェザーの間はバレラ、マルケス、モラレスらと階級最強を懸けて戦ったけれど、ライト級より上は必ずしもそうではない。

あまりいい表現ではないが、今日の試合を見ていて「異種格闘技戦」という言葉が頭に浮かんできてしまった。

さて、今回のパッキャオはウェルター級リミットで戦ったし、さらにウェイトを上げてミドル級でポール・ウィリアムスと戦うことはないだろう。また、スーパーウェルターで防衛戦というのは、リスクが大きすぎる。あと、名前があって力が落ちているというカテゴリーではシェーン・モズリーが残っているが、ファンが期待するのはやはりフロイド・メイウェザーだろう。

フレディ・ローチはメイウェザー相手でも行けるとインタビューで言っていたけれど、メイウェザーも横着をするので、今回のマルガリトのように打たせてくれて、かつスピードが落ちているようならパッキャオの展開もありうるかもしれない。いずれにせよ実現すれば、今世紀ではレノックス・ルイスvsマイク・タイソン戦以来のメガファイトとなるだろう。今日の試合を受けて両者数千万ドルのファイトマネーは確実なので、もしかするとメイウェザーも乗り気になるかもしれない。

 

パッキャオ8階級制覇について[Nov 15, 2010]

昨日、LIVE中継をみて早速感想を述べてみたが、24時間たってもあまり印象は変わらない。ただ、少し追加しておきたいことがあるので、しつこいようだけどもう少し。

そもそも、キャッチウェイト(Sウェルター級リミット未満の契約ウェイト)の試合をタイトルマッチに認定することについての否定的意見が、やはり出ているようである。すでにチャンピオンとなった選手が、ネームバリューの高い相手を引っ張り出すため、あえてそのクラスの制限より低い契約で戦うことはまだ許せる(ホプキンスvsデラホーヤ)。しかし、今回の一戦は王座決定戦、つまり両者ともチャンピオンではないのである。

まあ、その点はマルガリトが最上位ランク、パッキャオは下のクラスのチャンピオンだから百歩譲るとしても、パッキャオは今回、ウェルター級リミットで戦った。これは以前ならタイトルマッチとして認定されなかったケースである。ロイ・ジョーンズがジョン・ルイスと戦った時、裸にならずに計量してクルーザー級ウェイト(当時190ポンド)を上回るウェイトで試合したように、下のクラスの体重で試合することは、制限体重オーバーの場合と同様、本来は認められないのである。

階級制が体格差による有利不利をなくすということの他に、危険防止という意味があるのはもちろんのことで、体重差があるボクサーのパンチをまともに食らった場合、軽い選手が致命的(文字通り)なダメージを受ける可能性は十分にある。ボクシングはそれほど危険なスポーツなのだ。もともと殴り合いという不法行為であるボクシングがスポーツとして認められるには、それなりのルールの縛りが必要だった。

その意味で、ルールを守らせる主体である世界戦統括団体のWBCが、認定料という現金収入と、パッキャオというスターを自らの陣営にとどめるため、自らルールを破ってビッグマネーファイトを推進したことについては、認識する必要があるだろう。少なくとも、当日の体重増が大きすぎるとタイトルマッチを認めないIBF(日本未認定!)との姿勢の差は明らかある。

もうひとつ言っておきたいことは、この試合が果たして面白かったか、ボクシングの醍醐味を味あわせてくれたかということである。

上に述べたロイ・ジョーンズvsジョン・ルイスの試合、歴史に残る一戦と言われてはいるものの、今世紀のベスト10に評価する人はほとんどいない。今回の試合も確かに画期的だったが、例えばホプキンスvsトリニダード、レノックス・ルイスvsビタリ・クリチコ、コラレスvsカスティージョと比べてどうだったか。また、モラレスvsバレラと比べてどうだったか。これは、私の予想が外れてつまらなかったということとは別の問題である。

ボクシングにあまり詳しくない人が昨日の試合を見た場合、マルガリトの強さはほとんど分からない。図体だけでかい刺青男が、腰の据わらないパンチを振り回すだけで小さな男に滅多打ちされたという試合である。これは同意いただけると思うが、マルガリトの突進力、相手のパンチをものともしないタフネスは、あんなものではない。

ボクシングの醍醐味とは、卓越した実力を持つボクサーが、ともにそのパワー、スタミナ、テクニック、インサイドワークを駆使して、ぎりぎりのところで勝負が決するところにある。モハメド・アリの最高の試合がジョージ・フォアマン戦であり、ジョー・フレイザー戦(@マニラ)であるのはなぜか。

確かに、パッキャオは持てる才能を駆使して、マルガリトを完封した。実はマルガリトに打たれたボディが効いて脇腹にダメージを負っていたが、そんなことは感じさせない100点満点のファイトだった。マルガリトにいいところを出させなかったのはパッキャオの技術であり、ファイトしたパッキャオに何の問題もない。

パッキャオは前人未到の記録を残す偉大なボクサーである。複数階級で戦ったというカテゴリーでは、今後パッキャオのような選手は二度と出てこないかもしれない。しかし、同世代の、自他ともに認める階級最強の相手と戦ったのは、モラレス、バレラ、マルケス以来いないのである。このことが、試合後の記事に書いた「異種格闘技戦」という表現になった。

その意味で、これからパッキャオに期待したいのは、ミドル級の穴王者と戦って9階級制覇することではなく、適正体重であるスーパーライト~ウェルターの強豪と戦って、階級最強を証明することである。メイウェザーにこだわらなくとも、ブラッドリー、アレクサンダー、アミール・カーンなどなど、戦うべき相手はまだまだ残っているはずである。