061 メイウェザー、安全運転でマルシアノに並ぶ [Sep 12,2015]

WBA/WBC世界ウェルター級タイトルマッチ(9/12、ラスベガスMGMグランド)
O フロイド・メイウェザー(米、48戦全勝26KO)1.03倍
アンドレ・ベルト(ハイチ、30勝23KO3敗) 17.0倍

アンドレ・ベルトはWBA暫定の王座を持っているので資格がないとは言わないが、メイウェザーが完封したビクター・オルティスとロバート・ゲレロに負けているので、どうにも勝敗への興味が沸かないのは仕方がない。本当ならWBAレギュラー王者のキース・サーマンとやるのが筋だが、それをしないのが「マネー」メイウェザーである。

これを勝てばロッキー・マルシアノに並ぶ49戦全勝無敗となるが、アクシデント(バッティングによる負傷引分け等)を除けばベルトの勝ち目がほとんどないというのはオッズどおりだろう。それにしても、ベルトといい、ブロナーといい、第二のメイウェザーと期待された選手が次々と失速する中で、唯一メイウェザーだけが孤高を保つことができているのはなぜだろう。

巷間よく言われているのがディフェンスである。確かに、メイウェザーの防御カンは他の追随を許さない。テクニック主体の選手によくあるところの打たれ弱さもない。体が柔らかく肩の使い方が巧いので、急所にパワーパンチをもらうことが極端に少ない。それらの長所を認めるにはもちろんやぶさかでないが、私はもう一つの要因として、マッチメークが巧みであることをあげたい。

メイウェザーのこれまでのキャリアにおいて、相手選手が登り坂の時に対戦した相手は、ディエゴ・コラレスとサウル・アルバレスしかいない。他の選手とは、すべてピークを過ぎてから戦っている。パッキャオしかりデラホーヤしかり、リッキー・ハットン、モズリー、ミゲール・コットみんなそうだ。マイダナだって、ブロナーとやったのは落ち目と思われていたからだし、今回のベルトもそのグループに含まれるだろう。

マルシアノの時代と違って、いまや4団体があり階級も細分化されている。メイウェザーがピーク時のマルガリトを避けたというのはありうる話だし(当時のマルガリトはパッキャオに負けた時とは違った)、今回もキース・サーマンを避けた。アミール・カーンはずっと待ちぼうけだし、スウィフト・ガルシアにもチャンスは来そうにない。ましてGGGとなんてやる訳がない。

こうしてみると、パウンド・フォー・パウンド最強といいつつも、最強の挑戦者を迎えるのは十年に一回くらいで、後はピークを過ぎた相手、勝てる相手を選んでマッチメークしているということが言える。もちろん、常に世界王者レベルを相手に30代後半まで戦って無敗ということは大変な偉業ではあるが、例えば、常に階級最強の相手と戦ってきたバーナード・ホプキンスと比べると、勇気というか、自らを追い込む覚悟がかなり違うと思ってしまうのは仕方がない。

この試合も、メイウェザー得意の安全運転となる可能性が80%以上ありそうで、ベルトの力の落ち具合と、かつてメイウェザーが鮮やかにKOしたフィリップ・ヌドゥのように体が堅いという弱点があるので、20%くらいは中盤KOの期待もなくはない。ただ、いずれにせよメイウェザーは「マネー」次第でまだまだ現役を続けるのは間違いなさそうだ。

 

WBA/WBC世界ウェルター級タイトルマッチ(9/12、ラスベガスMGMグランド)
フロイド・メイウェザー O 判定(3-0) X アンドレ・ベルト

私の採点は119-109。ベルトのラウンドは、メイウェザーが手を出さなかった10Rだが、いずれにしてもメイウェザーの安全運転で終わった試合であった。

ベルトがメイウェザーにダメージを与えられるとすれば、インサイドからのショート連打だと思っていた。序盤2Rに、まともには入らなかったがベルトがショートのワンツーを放ったところ、その後のメイウェザーの攻撃は遠距離からのいきなりの左フックが主体となり、クリンチ以外で至近距離になることはほとんどなくなってしまった。

いきなりの左フックだけでもパワーがあれば倒せたのかもしれないが、そこはメイウェザー、スピードとタイミングはよくてもパワーがない。結局相手の射程圏外からの安全運転で終始し、予想通りの判定決着となった。メイウェザーに倒す気があれば、少なくとも3度はチャンスがあった。これは実況を見ていたほとんどの人がそう思うだろう。

この試合のMGMグランドは全然埋まらなくて、MGMがホテル2泊パック$2000のリングサイド席を用意したなんて話もあるくらいである。時折TV画面に映る客席は、中段より上には空席が目立った。PPVの数字もそれほど伸びなかっただろう。メイウェザーのような試合をしていたら、いずれこうなるのは明らかなことであった。

熱心なボクシングファンであれば、メイウェザーのテクニックは十分観賞に耐えるし、見る価値は間違いなくあると思う。しかし、ラスベガスのファンの多くは休暇で息抜きに来ていて、カシノで遊ぶついでにショーとして、誤解を恐れずに言えばシルク・ドゥ・ソレイユと同じレベルでボクシングを見ているに過ぎない。その人達にあのファイトは退屈である。

それでも、どちらが勝つか分からないという賭けとしての興味があればまだましである。この試合の最終的なオッズは20対1くらいになったはずで、賭けとしての妙味はほとんどない。メイウェザーがKOで勝つか判定かは4対7あたりでそこそこ買えるかもしれないが、メイウェザーの胸先三寸で決まってしまう賭けなど危なっかしくてやっていられない。

そもそも、ラスベガスのスポーツブックというのは、どちらが勝つか賭けるというのが本質であって、これは競馬の発祥と同様である。KOか判定か、何ラウンド決着か、なんていうのは賭けのための賭けにすぎず、スポーツブックの本質からは外れている。意識的に(と私は思っている)最強の相手を選んでこなかったメイウェザーは、本当ならラスベガスから避けられてしかるべきなのだ。

今日の試合内容だったとしても、相手がキース・サーマンとかケル・ブルック、せめてアミール・カーンだったらそこまで言われないだろうと思う。しかし今日の相手はアンドレ・ベルトである。メイウェザーはこの試合で何を証明したつもりなのだろう。