059 井上、ナルバエスを粉砕! [Dec 30,2014]

WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ(12/30、東京体育館)
チャンピオン オマール・ナルバエス(亜、43勝23KO1敗2分け)
O挑戦者   井上 尚弥(大橋、7戦全勝6KO)

今年の世界ボクシング界は実力伯仲の好勝負が意外と少なくて、WOWOWの年間最高試合投票ではちょっと迷った。結局、マルティネスvsコットにしたのだけれど、ミドル級のクラス最強は間違いなくGGGゴロフキンだから、最高試合のレベルとしてどうかという点には疑問符がついてしまうだろう。一方で、日本ボクシング界は好勝負が多かった。

井上vsエルナンデス、八重樫vsゴンサレス、山中vsスリヤンは、いずれもクラス最強チャンピオンと挑戦者の激闘だったし、どの試合も年間最高の候補である。そして、年末に開催されるこの試合も、スーパーフライ級最強のナルバエスに、ライトフライ最強だった井上が挑むというレベルの高いマッチメイクである。

ナルバエスの1敗は2011年のドネア戦の判定負け。この試合はドネアのバンタム級タイトルへの挑戦だったから、自らが王者であったフライ、スーパーフライ級では無敗というレコードを持つ。アルゼンチンが主戦場なので世界的な強豪との対戦経験の少なさが指摘されるが、世界経験者ではブライム・アスロウム、ビクトル・サレタ、セサール・セダ、久高寛之といった面々を下している。

向かうところ敵なしだった時代のドネアに判定まで持ち込んでいるくらいだから、ナルバエスの実力は疑いないところだが、対戦相手のレベル以上に気になるのは、アルゼンチンから出て試合をしたことがほとんどないという点である。最近では3年前のドネア戦、その前は2008年にスペインで試合をしているくらいである。

言うまでもないことだが、南半球はいま夏である。海老原vsアカバロの時代から、地球の反対側に行って戦うことはコンディショニング上の課題が多いし、ましてナルバエスは39歳である。体格的に減量にはそれほど苦労しないとはいっても、万全の体調を作って来るだけでもひと苦労あることは間違いのないところである。

まして21歳伸び盛りの井上が、クラスを上げてパワーアップしてくる。チューンナップマッチを挟むに越したことはなかっただろうが、これまでの戦いぶりを見る限りほとんど問題はなさそうだ。というよりも、このクラスで1回でも戦ってしまったら、受けてもらえなかったかもしれない。

かつては、井岡とどちらが強いか話題になったのだが、現時点では完全に抜き去ってしまったというのが大方の評価だろう。ロマゴンにはまだちょっと敵わないだろうが、ナルバエスくらいには12R攻め続けてみせてほしい。ただ、KOは難しいだろう。井上判定に1票。

 

WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ(12/30、東京体育館)
井上 尚弥 O 2RKO X オマール・ナルバエス

井上が勝つだろうと予想してはいたものの、4度のダウンを奪ってKO勝ちというところまでは考えられなかった。今日の試合をみると、ロマゴンとも好勝負できるのではないかと期待してしまう。もちろんスーパーフライ級では最強である。この試合のビデオを見たら、このクラスの上位ランカーはほとんど対戦を避けてしまうだろう。

海外のオッズをみるとナルバエスに7倍とかつけていたので、日本からの大口投票の結果だなと思っていたのだけれど、オッズメーカーは意外とシビアにナルバエスの近況をつかんでいて、この結果もある程度予想の範囲内だったのだろう。もちろん、体が暖まらないうちに強烈な一発をもらってしまった結果ではあるが、それにしてももろかったのは、39歳という年齢のせいもあるのかもしれない。

最初のパンチは頭をかすったようなパンチで、あれが効いてしまうと脳が揺れてしまいほとんど戦闘不能になる。古くはマイク・タイソンがルー・サバリースを一発で沈めたことがあったし、ついこの間はウォータースがドネアをKOしている。ただし、よほどパンチ力がないと決まらないし、相手も百戦錬磨のナルバエスである。

最後の左フックは、何十分か前に八重樫が決められたパンチであった。八重樫は打ち気にはやってガードがおろそかになった時に食ったが、井上はナルバエスが防御態勢にある時に決めている。これも、そんなに簡単にできることではない。

ゲストの香川さんが「マイク・タイソンが(東京ドームで)負けた時以来の興奮をしています」とコメントしていたけれど、全盛期のドネアでさえ倒せなかったナルバエスを粉砕するというのは、ほとんどありえないというのが普通の感覚である。2階級目の王座ではあるが、世界に向けてセンセーショナルなデビューを果たしたといっていいだろう。

さて、冷静に試合を振り返るならば、この試合では井上のコンディションが非常によかったことが最大の勝因としてあげられる。ライトフライ級のときは、一種窮屈な、強いことは強いがなにか歯切れの悪いボクシングであったものが、スーパーフライ級ではスピードもパンチのパワーもあるという本格派の強さをみせてくれた。

もちろん、この試合では悪いところが出る余地がなかったことも確かなので、この先いろいろなタイプの選手と戦って、ロマゴン戦の前にさらにボクシングを完成させていく必要があるだろう。アンダーカードで久々にチャンピオンとなったリナレスだって、サルガドの一発でKOされたり、カットの傷がもとでデマルコにTKO負けしたりして、ずいぶんと遠回りしたのである。

まだ21歳だし体格的にはまだまだ上のクラスもいけそうだ。井上には、日本のカルロス・サラテ、ウィルフレッド・ゴメスを目指して精進してほしいものである。