072 2016年末のボクシング 井上vs河野、内山 [Jan 1,2017]

ひと昔前は、年末というとK1、PRIDEが定番だったのだが、ここ数年ボクシングの世界タイトルマッチが行われることが多くなった。同じ格闘技とはいっても、歴史と伝統、運営母体の確かさにおいて、ボクシングは他の格闘技の追随を許さない、と思っている。一時期亀田でたいへんイメージを傷つけた過去があるが、ぜひこのまままともに定着してほしいものである。

ボクシングは世界的にも選手層が厚いのでマッチメークがしやすく、K1やPRIDEをやっていた局もボクシングをやるようになって、見る方は大変である。こうなると、関心のある試合とそうでもない試合とを区別しなければならず、関心のない(大阪の)試合はたまたま東京の試合が放送していなければ見てもいい、という程度の優先順位になるのはやむを得ない。

私としては、優先順位1位が井上vs河野、2位がコラレスvs内山、3位がまとめて田口と八重樫の試合ということになる。井岡、田中、村田、小国あたりは予想しても楽しくないし、結果だけ見れば十分である。

WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ(2016/12/30、有明コロシアム)
O井上 尚弥(大橋、11戦全勝9KO) 1.07倍
河野 公平(ワタナベ、32勝13KO9敗) 13.0倍

ナルバエスを倒して世界的ビッグネームにのし上がって2年、井上があれからどれだけ成長したかというと、やや首をひねってしまうのは物足りないところ。拳の故障はハードパンチャーの宿命のようなもので、パンチがまともに打てないというのは言い訳にならない。ロマゴンを追って、エストラーダ、さらにジョンリエル・カシメロまで上がってきた。好敵手には事欠かない。

私が思うに、井上の強打はやはり「軽量級としては」のカッコつきの強打であって、体が暖まっていない序盤戦ではきれいに決まるが、打たれる方に耐性ができてくる中盤以降では破壊的とはいえない。まして、カウンターがそれほど上手ではなく、パンチもストレート主体で、相手がこらえている所に打つものだから決定打とはなりにくいきらいがある。

かたや河野、このクラスで2度にわたって世界王者となったが、肝心なところでいつも負けるというイメージがある。唯一の例外が亀1号戦というのはうれしいところだが、あの試合でも亀1にローブローでないボディを効かされてしまっていた。その後本当にローブローを打たれて休めたのが幸いしたが、KO負けなしの耐久力をあまり過大評価しない方がいい。

海外でもオッズが出ていて、井上が圧倒している。井上の勝ちは動かないが、左フックとかカウンターとか、新たな境地をみせてほしいものである。

WBA世界スーパーフェザー級タイトルマッチ(2016/12/31、大田区総合体育館)
ジェスリル・コラレス(パナマ、20勝8KO1敗)1.7倍
O内山 高志(ワタナベ、24勝20KO1敗1引分け)2.3倍

わが国におけるオールタイムのP4Pを考えた場合、ファイティング原田、大場政夫、具志堅用高、輪島功一らの名前が挙げられるが、2000年代で誰かといえば、私がみるに西岡でも山中でもなく内山である。

4月の試合では体が温まる前にいいのを食って終わってしまったが、内山が打たれ弱いのは昔からで、ああいう危ないところはこれまでもあった。心配なのはむしろ年齢的なもので、耐久力も反射神経もかなり劣化しているのではないかという懸念がある。ただ、カムバックする以上は少なくとも往年の8割くらいの力はあるはずで、パワーだけなら年をとってもそうは落ちない。

私が思うに、前回のあっけない試合は、内山自身のモチベーションの問題ではないかという気がしている。ビッグマッチもなく複数階級挑戦もなく、本来の内山の力を試せないままここまでキャリアを引っ張ってきたことが、よくない方向に向いているように思う。よく言われるように、ジムの問題だ。

せっかくロマチェンコが来てもすぐ上に行ってしまいそうだし、せめてリナレスとやらせてあげられないものだろうか。コラレス自身はたいしたチャンピオンではなく、8割の出来なら内山がKOする。

WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ(12/30、有明コロシアム)
井上尚弥 O TKO6R X 河野公平

予想記事で、「井上の勝ちは動かないが、左フックとかカウンターとか、新たな境地をみせてほしい」と書いたところ、計ったように左フックのカウンターで井上のKO勝ち。ロバート・バードも最初のダウンで止めるべきだったと思うが、ラスベガスでなく日本なので引っ張ったのだろうか。

いつも試合で拳を痛める井上が、あまり無茶振りをせずにジャブとかボディで河野の体力を削って行ったのはいい作戦。ああいう展開で、ここぞという時に強打をカウンターで入れれば、河野でなくても倒れる。井上にはぜひ今後もこういう戦い方をしてほしいと思う。

河野も何とか接近戦で局面を打開しようとがんばったのだが、井上をあわてさせるところまではいかなかった。5Rにいいのを当てたのだが、井上は意外と打たれ強いのでラウンド終盤では逆襲されてしまった。最後にカウンターを食った場面ではすでに動作が鈍くなっていた。放送時間の関係か、ほとんどVTRを流さなかったのは残念。

スーパーフライ級のリミットで戦えば、すでに現段階でロマゴンよりも強いと思うけれど、世界的にネームバリューを確立したロマゴンには今年一杯くらいの希望者が並んでいる。井上の体つきをみると、来年までスーパーフライでいられるとは思えないので、大橋会長としては何とかクアドラスの次に押し込みたいところ。八重樫ロマゴンの貸しは残っていないのかな。

WBAスーパー世界スーパーフェザー級タイトルマッチ(12/31、大田区総合体育館)
ジェスリル・コラレス O 判定(2-1) X 内山高志

予想記事で、「コラレス自身はたいしたチャンピオンではなく、8割の出来なら内山がKO」と書いたとおりの試合だったが、内山は往年の半分の力もなく、まともに当たったパンチはジャブを含めて一つもなかった。それでも内山に行ったラウンドがあるのは、コラレスが勝手にバテてへろへろになったためで、たいしたチャンピオンでないのは間違いない。

毎日練習をみているジムの連中が、内山がああいう状態であるのを分かってカムバックさせたとしたら、ファンに対して詐欺師としかいいようがないし、分かってなかったとしたらお前らの目は節穴かという話である。とにかくジャブが出ないし、ディフェンスはガードするだけ。動体視力も反射神経も世界タイトルマッチに出せる水準ではなかった。

昨日の試合を見ていて、何十年も前のガッツ石松を思い出した。石松もテレビ局の思惑絡みで最後の試合に出て、全くコンディションができておらずKO負けした。でも、相手がセンサク・ムアンスリン(ロマチェンコも破れなかった最短世界王者)だし、タイトルを奪われたのもエステバン・デ・ヘスス(その当時デュランに勝った唯一の男)、ともにあの時代最高のチャンピオン達であった。

対して内山は、おそらくすぐに忘れられてしまう水準の王者に、2度も完敗した。前回の試合は出会い頭に一発もらったで済ませられるが、今回の試合は周到に準備してほとんどパンチを当てられなかったのだから、十数回防衛したチャンピオンとして最悪の結末である。私は内山を日本のP4P候補と思っていたが、残念ながらその評価はこの1回の戦いで急落である。

願わくは、観戦に来ていたモンスター井上が、この日の内山をみて何かを感じ取ってくれていたらありがたい。

ワタナベジムのもう一つの凡ミスは、田口の相手として連れてきたカニサレスであった。小型ロマゴンかと思って田口自身も準備してきただろうに、出てきたのはベネズエラの高山だった。超軽量級ではああいう戦い方がまだまだ効果があるということが分かったが、小さな相手が動き回れば田口でなくてもてこずるだろう。

つくづく、あの会長はカネ勘定ばかりで何も考えていないと思う。井上相手に果敢に勝負に行った河野だけがこの年末の成果だが、あのていたらくでは後に続く選手は出てこないだろう。これも「亀の呪い」か?