075 新旧交代!ジョシュアKO勝利vsクリチコ [Apr 29, 2017]

WBA/IBF世界ヘビー級タイトルマッチ(2017/4/29、ロンドン・ウェンブレースタジアム)
Oアンソニー・ジョシュア(16戦全勝16KO) 1.4倍
ウラディミール・クリチコ(64勝53KO4敗) 2.8倍

ヘビー級久々の大一番である。新旧対決ということでいえば、レノックス・ルイスvsマイク・タイソン(2002年)、レノックス・ルイスvsビタリ・クリチコ(2003年)以来といっていい。私は過去50年最強のチャンピオンはレノックス・ルイスだと思うが、その根拠はこの2戦で新旧ライバルを下しているからである。

試合が決定した直後のオープニングオッズでは両者ほぼ拮抗したオッズだったのだが、ここへ来てジョシュアが人気を集めている。いまや日の出の勢いのあるジョシュアに対し、ウラディミールは41歳になり、しかもタイソン・フューリーに敗れて以来1年半振りの実戦である。このブランクはフューリーに原因があるので気の毒だが、不利な要素であるのは間違いない。

まずウラディミールについて言えば、1年半のブランクは初めてのことである。兄ビタリと違ってコンスタントに試合を行ってきていて、2003年、2004年の二度のKO負け後も半年で次の試合を行っている。激戦型の選手の場合、ある程度の試合間隔はプラスに働くこともあるが、あまり打たれていないウラディミールの場合どうだろうか。かえって試合勘が失われていることが心配だ。

それと、ウラディミールのこれまでの戦いのほとんどが、圧倒的な体格差を生かして、距離を保ってストレート系のパンチで決めるという試合であった。アッパーやフック系を試みた時期もあったけれども、結局はストレート系主体の戦い方に戻っている。

ある意味、戦法に幅がないということである。それでも幾多の挑戦者を退けてきたのは、体格差つまり距離の違いがあったことと、ボクシングの能力に差があったことが要因であった。ところが、今回の相手ジョシュアはウラディミール同様にゴールドメダリストであり、体格差もほとんどない。だから、いままでの戦い方で足りるかどうかは分からない。

そして、もう十数年前のことになってしまったが、コーリー・サンダース戦、レイモン・ブリュースター戦に見られるように、自分のペースで戦えなかった場合には打たれ強くもないしスタミナも十分ではないということを忘れてはならないだろう。

それでは、ジョシュアが盤石かというと、未知数というより不安要素がかなりある。最も重要なのは、ウラディミールと比べて経験があまりに少ないということであり、それに伴って、長丁場のスタミナが試されていないということである。

全勝全KOの戦績は見事ながら、7Rまでしか戦っていない。そして、世界タイトルマッチ常連との戦いがほとんどない。私のみるところケビン・ジョンソンくらいだが、負けが込んできてからのジョンソンなのであまり参考にはならない。チャールズ・マーティン、ドミニク・ブレジールくらいでは、ウラディミールが過去に戦ってきた相手と差がありすぎる。

同じヘビー級のデオンティ・ワイルダーが、全勝全KOだったのにタイトルマッチではスティバーンと判定勝負になり、その後の防衛戦も弱敵相手にあまり余裕のない勝ち方をしているのをみると、経験というものは決して軽視できないと思う。

だから本来ならば、ウラディミールとやる前に、ワイルダーと統一戦をやるとか、ポペトキンかルイス・オルティスと戦って経験を積んで頂上決戦に臨むべきだったのではなかろうか。もちろん、マイク・タイソンのように格の違い、経験の違いをものともせず片っ端からぶっ倒して王座に君臨するケースもあるから、断定はできないが。

どちらにもチャンスはありそうだが、兄ビタリと比べて、ウラディミールにはどうにも底力、紙一重になった時のプラスアルファが足りないような気がするので、私はジョシュアの上昇度に賭けてみたい。ただし、いままでのような戦い方ではなく、足を使ってウラディミールの射程に近づかない戦い方をするのではないか。だから判定になると思う。

WBA/IBF世界ヘビー級タイトルマッチ(4/29、ロンドン)

アンソニー・ジョシュア O 11RTKO X ウラディミール・クリチコ

私の採点では10Rまで95-93ウラディミールだったのだが、ジャッジ3人中2人はジョシュアだったので、あのまま進んでも良くて引分けだったようである。しかし印象的には、ジョシュアの逆転KOといっていいと思う。

予想記事で書いたように、ジョシュアの強敵経験のなさ、スタミナの不安が的中して、6Rにダウンを奪われて以降はウラディミールのペースで試合が進んだ。ただ、あのふらふらな状態から回復できたのは若さであり、打たれ強さであり、ゴールドメダリストの底力だろう。10Rにはクリチコの左ジャブに右をかぶせていたので、持ち直しているように感じられた。

11R、前半1分くらいしか攻める体力の残っていないジョシュアが前進してコンビネーションを集めると、やや攻めに重点を置いていたウラディミールがまともにもらってダウン。さらに2度目のダウンの後たたみかけたジョシュアに、レフェリーが割って入ってストップとなった。

試合全般を通して振り返ると、やはりウラディミールの年齢と長期ブランクの影響があったように思う。前半のジャブの差し合いではジョシュアの方に迫力があったように見えたし、左フックの空振りもスタミナを消耗させた。5Rの先制ダウンもクリーンヒットというほどではなかったが、体格差のない相手との対戦があまりないウラディミールは面食らったようだ。

とはいえ、このダウンの後ウラディミールの逆襲がすばらしかった。5R前半に振り回して消耗したジョシュアが急激に失速、このラウンドは10-9でもいいくらいクリーンヒットをもらったし、一度ロープに飛ばされたのはダウンに近い状態。そして6R、逆に右ストレートでダウンを奪い返されてしまう。

全盛期のウラディミールだったとしても、基本的に攻め手はストレート系に限られるので、あの状態から倒し切ることはできなかったと思う。しかし、これまでの相手はあの状態から逃げ回る一方だったのに対し、ジョシュアは回復して打ち返してきた。その結果が11RのKOシーンとなった訳である。

もともとウラディミールは打たれ強い訳ではないので、パワーパンチをもらえば倒れる。そして、ウェイトを増やしてきたジョシュアに対抗するため前半から足を使ったので、スタミナの余裕はそれほどなかったようだ。とはいえ、オリンピック3大会分の年齢差のある相手にここまで対抗できたというのは、やはりウラディミールも大したものである。

さて、勝ったジョシュアだが、この一戦でヘビー級最強といえるかというとなかなか難しい。長丁場になっても戦えるということが分かったのは収穫だが、よく考えるとパンチが出ていたのはラウンド前半だけで、後ろ1分半くらいは毎ラウンド失速していたようでもある。ウラディミールも11R前半もう少し慎重に戦っていれば、判定勝負になったかもしれない。

そして、今日の勝ちは別として、全勝全KOの戦績にふさわしいほどのパワーパンチャーかというと、そうともいえないように思う。パワーだけみればワイルダーの方があるように思うし、あれだけウラディミールの左ジャブをまともにもらったディフェンスにも課題がありそうだ。

とはいえ、まだプロのキャリアは始まったばかりであり、まだこれから強くなる可能性のある選手である。今日はあまりみられなかったコンビネーションをきちんと使えるようになれば、強敵相手でも安定した試合をできるのではないだろうか。

あと、両選手以外では、ビタリ・クリチコの「俺が現役なら仕留められたのだが」的な渋い表情と、レノックス・ルイスの「やっぱり俺の方が強かっただろう」的な笑顔が印象に残った。