066 パッキャオ、優秀の美を飾る [Apr 9,2016]

WBOインターナショナル・ウェルター級タイトルマッチ展望(2016/4/9、ラスベガスMGMグランド)
O マニー・パッキャオ(57勝38KO6敗2引分け)1.5倍
ティモシー・ブラッドリー(33勝13KO1敗1引分け)3.3倍

WBO正王座を返上したブラッドリーがWBOインターナショナルの王座決定戦というのも妙な話だが、いまや統括4団体のタイトルよりメジャーファイターのネームバリューの方が大きいという証明でもあるだろう。それはさておき。

これがラストファイトといわれるパッキャオ。東洋の軽量級ファイターが世界的にメジャーとなったのは、2005年から2008年にかけてのモラレス、バレラ、ファン・マヌエル・マルケスとの激闘からであった。

その後、クラスを上げながらデラホーヤ、リッキー・ハットン、ミゲール・コットを倒した試合は非常にエキサイティングだった。試合前には、そもそもウェイトが違うだろう、勝負にならないのではないかと思ったものだが、終わってみればいずれもパッキャオの圧勝だった。このあたりから、ファイトマネーも桁違いになっていった。

しかし、2010年のマルガリト戦を最後に、パッキャオの試合前にわくわくさせられることはなくなった。マルケス第4戦も、試合内容こそすばらしかったが試合前にはマンネリ感が満載だったし、メイウェザー戦もほとんど結果が見えていた。誤解を恐れずにいえば、2010年以降パッキャオは脅威を感じる相手とは対戦していないのである。

そのこと自体は、ファイターとして責められるべきではないかもしれない(興行としてはともかく)。リングに立つだけでメガファイトになるのだから必要以上のリスクを負う必要はないし、すでに実力の証明は十分している。また、すでに30代も半ばを過ぎたパッキャオが、売り出し中の新鋭とサバイバルマッチをすることもない。

そうしたことは十分理解できるけれども、それでもラストファイトの相手がブラッドリーというのは面白みに欠ける。たまたま前の試合をブランドン・リオス相手にKO勝ちしているとはいえ、ブラッドリーはKOパンチャーではない。あまり利かない連打で主導権を支配して逃げ切るタイプの、あまり魅力のないボクサーなのである。

昔のパッキャオであれば、キース・サーマンなりケル・ブルック、少なくともスウィフト・ガルシアと戦っただろう。彼らと戦えばKO負けのリスクがかなりあるが(ガルシアにしてもブラッドリーよりは)、逆に倒した場合のインパクトも大きい。それよりも、戦う前から見る者をわくわくさせることができるという点で、ブラッドリーとは比較にならない。

という訳で、この試合にはあまり期待していない。両者ともピークを過ぎた選手なので、意外と倒し倒されの試合になる可能性はなくはないけれども、パッキャオが昔、デラホーヤやハットンを倒した頃の切れ味はみられないだろう。パワーだけ比較するとブラッドリーよりパッキャオが上なのは確かなので一応パッキャオだが、1・2戦と同様に判定決着が濃厚である。

 

WBOインターナショナル・ウェルター級タイトルマッチ(4/9、米ラスベガス)
マニー・パッキャオ O 判定(3-0) X ティモシー・ブラッドリー

私の採点はジャッジより1つブラッドリーに行って115-111パッキャオ。9Rにダウンを取ってほぼ試合が見えてしまったので、パッキャオが残り3ラウンド勝負に行かなかった。あるいは、年齢的なものか、終盤のスタミナに不安があったのかもしれない。

ブラッドリーの作戦、パッキャオの左ストレートに右を合わせるという作戦は悪くはなかったように思う。少なくともこの試合では、一気に飛び込んでくる攻撃を受けることはなかった。おそらくマルケス兄の二番煎じを狙ったのだろうが、それだったらもっと乱戦に持ち込む伏線を工夫しなければならなかった。マルケス兄はダウンの応酬があったから、あの右が決まったのだ。

今回の場合はパッキャオに作戦を読まれてしまい、左ストレートを打った後、瞬時にスウェイバックするという神業のディフェンスで対応されてしまった。30代後半であの動きができるのだから、さすがスーパースターである。セミファイナルのアーサー・アブラハムの方が年下なのに、あの鈍重な動きとは雲泥の差であった。

1Rの体つきをみた時には、パッキャオの衰えが想像以上にあったように思えた。ブラッドリーの仕上がりがよかったこともあるのだろうが、体のキレもないし、ハットン戦やコット戦で見せたような体中から発散されてくる迫力がみられなかった。あるいは、予想した以上につまらない試合になるかと思った。

しかし、歴戦の雄パッキャオは作戦の引き出しが多く、3Rくらいから小さな右フックを当て出した。この右が徐々にブラッドリーの出足を止めて、クリーンヒットではあきらかにパッキャオが上回った。そして、9Rの左はあのタイミングでダブルだから恐るべしである。2発目をフルスイングしていたら、一瞬の差でブラッドリーは対応しただろう。

かつて誰かとの試合予想の中で、パッキャオは史上最強に列するボクサーではなく、異才であると書いたことがあった。各階級それぞれでみるならば、パッキャオより強いチャンピオンは何人もあげることができる。しかし、フライ級からスーパーウェルター級まで世界チャンピオンとなるようなボクサーは出なかったし、今後も出ないであろう。

その意味では、過去50年のボクシング界において、パッキャオに匹敵する選手はいない。試合の勝ち負けは別として、後の世代のボクシングファンがいまの時代を振り返った場合、メイウェザーより存在感があるのではないかと思う。

ただ一つ残念なのは、同時代に生まれたもう一人の異才、ナジーム・ハメドと戦うチャンスがなかったことである。この二人は、同じ時期に同じ階級にいたことがあるのだから、誰かが気付いてマッチメーキングすれば物理的に戦えない訳ではなかった。現に、マルコ・アントニオ・バレラとは二人とも戦っているのである。

しかし、当時においては二人のファイトマネーには格段の開きがあって、パッキャオの方がかなり格下であった。だからやむを得ない面もあるのだが、9.11がなくてハメドがあと何年か現役生活を続けることができたならば、そういう気運が高まってきたはずである。残念なことである。

いずれにせよ、私が試合前にわくわくして予想してきた選手がひとり、またひとり引退してしまうのは非常に寂しい。こうして、私自身の人生の残り時間も少なくなっていくということかもしれない。