071 パッキャオ、半年でカムバック [Nov 5,2016]

WBO世界ウェルター級タイトルマッチ展望(2016/11/5、ラスベガス・トーマス&マックセンター)
ジェシー・バルガス(27勝10KO1敗)  6.0倍
Oマニー・パッキャオ(58勝38KO6敗2引分け)  1.11倍

前の試合が今年の4月だから、復帰戦ではなく通常のスケジュールである。はじめから復帰織り込み済の引退宣言だったということである。まさに商売ずくだが、1試合で数十億円が動くとなるとビジネス的には仕方のないことなのかもしれない。引退試合と言わなければブラッドリー戦がそれほど注目されたとは思えない。

だからパッキャオのコンディショニングにはさほどの問題はないとしても、そもそも論として、二十歳前から現役である37歳に往年の力が残っているかということである。現実に、ウェルター級以上のウェイトでは2009年のコット戦を最後に、7年間パッキャオにKO勝ちはない。ダウンは奪っているものの、倒し切るだけのパワーがないのである。

確かに、階級を上げてからのパッキャオはディフェンス面で改善しており、まともにパンチをもらうことが少なくなった。とはいえ、メイウェザーのように全くもらわないという訳ではないので、ダメージの蓄積は半端でないはずである。贔屓目に見ても、いまのパッキャオには往年の7割程度の力しかないとみている。

それを補っているのがマッチメイクである。彼の上位階級進出の時点から、戦うのはネームバリューのある相手、言葉を替えればピークを過ぎた相手や下の階級から上げてきた相手がほとんどすべてである。例外を探せばジョシュア・クロッティとクリス・アルジェリだが、後から考えると実力に差があった。スカウティングの勝利ということである。

そのスカウティングの観点からみると、ジェシー・バルガスはうってつけの標的である。4団体の他のチャンピオン、スウィフト・ガルシア、キース・サーマン、ケル・ブルックと比較すると実力でかなり落ちるし、スーパーライトのクロフォード、トロヤノフスキーと比べてもどうかと思う。このあたりの階級のチャンピオンの中から選ぶとすれば、リッキー・バーンズかバルガスだろう。

そして、27勝のうち10KOが示すように、破壊力がない。ウェルター級のトップコンテンダーであるショーン・ポーター、エロール・スベンスJr.と比べても脅威がない。申し訳ないが、クリス・アルジェリとよく似た位置づけである。

そのジェシー・バルガス。2階級制覇のチャンピオンではあるが、パッキャオと戦わない限り単独で100万ドル稼ぐことは難しい選手である。確かにサダム・アリ戦は強かったが、いまから考えるとサダム・アリは騒がれ過ぎであった。パッキャオに対して明らかなアドバンテージがあるのは体格だが、それもパンチ力が伴わないとパッキャオに踏み込まれるだけである。

だからこの試合はパッキャオ判定勝ちがかなり有力であるが、パッキャオの年齢的な衰えが予想以上に大きくて、バルガスが押し切る可能性もない訳ではない。とはいえ、フレディ・ローチがついている以上、あまりその点を心配することもなさそうである。

むしろ注目すべきはパッキャオのこの試合以降のマッチメイク。本来であれば、スウィフトやキース・サーマンとやるべきとは思うが、デラホーヤの晩年と同じように、名前があって下のクラスから上がってきた相手、ロバート・ゲレロとかせいぜいエイドリアン・ブロナーあたりを選ぶのではないかと予想している。

 

WBO世界ウェルター級タイトルマッチ(11/5、LVトーマス&マックセンター)
マニー・パッキャオ O 判定(3-0)X ジェシー・バルガス

私の採点は117-110パッキャオ。あと1つか2つはバルガスに振ってもいいラウンドがあったけれども、114-113にはならない。私の印象では、10ラウンド以降バルガスは倒さなければ勝てなかったと思う。[注.公式採点は118-109x2,114-113x1 ]

1R、バルガスのワンツーに相当スピード感があったのでパッキャオ苦戦かと思ったところが、2Rのダウンで流れが完全にパッキャオとなった。バルガスの言うようにタイミングで取られたフラッシュダウンではあったが、それ以降バルガスの腰が完全に引けた。重心が後ろにあるのに、スピードの乗ったワンツーが打てるはずがない。

そのあたりも含めて、バルガスの経験のなさ、実力のなさということになるのだろう。アルジェリよりは上だが、ブラッドリーよりは下。予想記事で書いたとおり、パッキャオのスカウティングの勝利である。

それではパッキャオの力が衰えていないのかと言うと、それはどうだろう。少なくとも、ジョシュア・クロッティとやった時のような12R手を出し続けるスタミナ、ディフェンスのいいコットからダウンを奪ったタイミング、二回り体の違うマルガリトを追い詰めた迫力のいずれも、今回のパッキャオからは感じられなかった。

確かにパッキャオはレジェンドになった。すでに実績的にはデラホーヤやチャベスと肩を並べる存在になっているけれども、パッキャオがビッグネームになったのは、階級を次々に上げ、さすがに勝てないだろうと言われつつ予想をくつがえして勝ってきたからである。勝てるだろう相手を選んで勝つだけでは、晩年のチャベスやデラホーヤと同じである。

その意味では、今回の試合を私はそれほど面白いともスリリングだとも思わなかった。どうやら次の試合もやりそうだけれども、会場に来ていたクロフォードを選ぶ可能性は非常に少ないと思っている。

アンダーカードのドネアは完全にコンディションがよくなかった。あれだけ大振りの空振りを繰り返せば、スタミナもロスするしカウンターもとられる。そもそもパッキャオが特別なのであって、フライ級スタートの選手が30過ぎれば力が衰えて当り前である。マグダレノはそんなに強い選手とは思えないので、山中あたりが戦えばチャンスは大いにあると思う。