036 雁峠から笠取小屋(テント泊)[Oct 10-11, 2014]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

9月に本格的なテントを買った。アライテントの「エアライズ」である。定価4万円、決して安い買い物ではないが、来るべき年金生活に備えて、テント泊は有力な経費節減策になりうるのである。しかしながら、これまで57年間、いまだテントで一夜を過ごしたことはない。山小屋ならあるけれども、布団の上で寝るのと全然違うことくらいは想像がつく。

とりあえず、安心できる場所で予行演習しようと考えた時に頭に浮かんだのは、春に行った笠取小屋である。あそこなら水場もトイレもあるし、テントサイトも林間なので地盤も柔らかそうで、スペース的にも余裕があるように見えた。山雑誌やWEBをみても、テントデビューに向いた場所であるらしい。何よりも、一度でも行ったところなので安心なのだ。

懸念されるのは、足である。テント泊なので一人で行かなくてはならないが、車を使ってしまうと奥さんの足がなくなる。かといって、塩山から笠取山方面へのバス便は、土・日しかない上に朝一番で行ったとしても午前便に間に合わない。他に方法がないものか探していたら、西沢渓谷行きのバスに乗って稜線の西側に出て、広瀬ダムから登れることが分かった。

コースの候補は3つ。①雁坂峠に登って笠取小屋まで歩く方法…これは、登山道としてはオーソドックスであるが、登り始めて笠取小屋まで6時間近くかかりそうだ。初テントなので、もう少し早く着きたい。②白沢峠に登って、石保土山を経て笠取に向かう方法…峠への距離は最も短そうだが、分かりにくい道のようだ。峠に放置されている廃棄トラックの残骸は興味深いが。

という訳で、③雁峠(がんとうげ)に登り、笠取小屋に直行する方法にした。雁峠の上にある雁峠分岐から笠取小屋は通ったことのある道だし、午後早くに着けそうなのでテント設営に余裕が持てる。懸念されるのは林道入り口にバリケードがあるらしいのと、沢の渡渉が何回かあることだが、WEBを見るとそれなりによく使われている道のようなので、挑戦することにした。

千葉から出る「あずさ」は船橋発6時53分のあずさ3号だけなのだが、西沢渓谷行バスとの接続もいいのでこれに乗って行く。山梨市まで約2時間、10分ほどの待ち合わせで市営バスが来る。そこから登山口のある新地平のバス停までさらに1時間、身支度して歩き始めたのは10時15分と遅くなったが、この日は登って泊まるだけだから時間には余裕がある。

バス停のすぐ先を右に曲がる。とりあえず舗装道路だし傾斜も緩いので特に問題はない。問題があるとすれば、この日背負っている45リットルのリュックに、テント一式と水・食料で13kgの荷物が入っているのである。過去来、こんなに重い荷物を背負って山に登ったことはない。少しどころか相当に不安だったので、登り下りはきつくなさそうなルートを計画したのである。

約1km、15分の林道歩きで亀田林業所ゲートに到着。立入禁止と書いてあるが、WEBによると登山客は大目に見てくれるようである。なにせ、雁峠に向かう登山道を標示されているとおりに歩くと、この会社の私道を通らなければ行きようがないのである。ゲートを過ぎると間もなく砂利道になるが、車も通れるくらいの幅があり、実際にタイヤ跡も最近のもののようである。

 


新地平バス停から林道に入って1kmほどで、有名な亀田林業のバリケードに到着。「立入禁止」と書いてあるのですが、「→雁峠」の標示はずっと続いています。

 

整備された亀田林業の林道をゆっくり上がっていく。荷物が重いので、バテてしまったら大変である。ところどころに「広瀬←/雁峠→」の案内板があるところをみると、ここが正規の登山道であることは間違いないようである。だとすれば、ゲートを置いて車の進入を止めるのは致し方ないとしても、「立入禁止」まで書いてしまう必要があるのだろうか。

本来は、私有地であったとしても交通上必要な道路の使用は認められるものである。林道などで一般車の通行が規制されている場所は多いけれども、登山者の通行までは規制していないし、第一こんな仰々しく立入禁止なんて書いてない。会社が道路を整備していて登山者にも応分の負担をしてほしいのであれば、若干の通行料くらいは払ってもいいし。

ゲートから1時間ほど歩くと、周りが開けた場所に出る。会社の資材置場兼倉庫みたいな建物があり、前の橋を渡った先は道幅がかなり狭くなっている。ここからいよいよ登山道のようである。傾斜はこれまでとほとんど変わらないし、砂利が敷いてあって、両脇の草も刈られているようで歩きやすい。

さて、登山道の多くは尾根道であり、谷筋の道というのはどちらかというと「谷ヤ」さんなど玄人筋の通る道という印象がある。山の奥に行けば谷の両側は切り立った場所にあることから、道幅は狭くなりがちだし、増水や落石などがあると非常に危険であるためである。今回通る道は、それほど狭い場所にある訳ではないので、比較的初心者向けといえそうである。

尾根道と谷道の違いとして、尾根道はまず稜線に出てしまうことから初めに急登があって、アップダウンがあるという特色があり、比較的展望がきいて景色が楽しめるという利点がある。一方で谷道は、川に沿って進むことから初めは傾斜が緩やかで、源流に近づくとともに傾斜が急になる。そして展望が開けない代わりに、水の流れる音を楽しむことができる。

尾根道の場合は小さなピークがあるとそのたびにアップダウンがあるので、累積の標高差は実際に登る山の高さ以上になることが多い。一方谷道では、川の流れに沿って登る一方であるので、山の高さイコール登らなければならない標高差である。ただし谷に特有の問題として、滝がある場合と、川を渡らなければならないということがある。

今回の雁峠への道には滝はないのでそれはいいとして、川を渡らなければならない点は如何ともしがたい。谷は源流に近づくにつれて何度も枝分かれするので、そのつど道のある側に渡る必要があるのだ。作場平から笠取に行く登山道は東京都が丸太橋などを整備しているが、ここは私有地であるのでオウンリスクで川を渡らなければならない。

最初の渡渉地点が現れたのは、資材倉庫から1時間弱歩いたあたり。写真のように水面上に出ている石を足がかりにすれば大したことはなさそうに見えるし、靴に水が入ったり転んで荷物が濡れたりすることをこわがらなければ、実際大したことはないのだけれど、何しろこの日は上で泊まらなければならないのでそういうことは避けたい。

そういう心配をすると余計に足が緊張してしまう。白ペンキで指示された岩の上まで水が流れていることもある。今年は雪が多かったし前の月には台風と秋雨前線でよく雨が降った。首都圏の貯水率は上々だけれど、川の水嵩が増すのはこの場合うれしくない。水流の下の砂地にしっかりステッキを使って、3点確保で次の足場を探す。

幸いなことに時間は十分にあるので、転ばないことを最優先でゆっくり進む。3つ目くらいの渡渉が結構きつく、靴の半分くらい水に漬かったものの靴の中には水を入れずに何とか通過すると、次からは川幅がせまくなってくれて、何とかクリアすることができた。

こうした渡渉は6~7回あるのだが、すべて赤テープで道案内をしてあるか、岩の上にペンキが塗ってあるので、迷うことはない。また、下流ほど川幅も広く水量もあるので、上に行くほど楽になることは確かである。

途中、元気一発ゼリーでエネルギー回復を図る。先ほど述べたように谷道の常として、上に行けば行くほど傾斜が急になる。また道幅もいよいよ狭くなってきて、腰を下ろして休めるようなところもない。1/25000図とGPSを見比べると、あと一回わずかに右に進路を変えたあたりから残り標高差100mの雁峠直下の急登である。

 


ゲートから1時間ほど歩くと資材倉庫のような建物があり、ここからいよいよ登山道。


雁峠への後半は、渡渉が6~7回あります。見た感じ大したことはないのですが、石は滑るし水量もあるのでちょっと大変。特にこの日は荷物が多かったので。

 

これまでもかなり傾斜は急になってきてはいたものの、雁峠直下の登りの取り付きは、傾斜のレベルが違うような印象。これを登るのかと思うとつらいものがあったけれども、実際登り始めると梯子を登るような急傾斜は最初の1クールだけで、あとは草原の中のなだらかなトラバース道になったのは何よりであった。

雁峠(がんとうげ、と読む)への最後の数十mでは、まず目の前に笠取山が登場していよいよ登りも終わりに近いことが分かる。ちょっときついのであの枯れた木のところまでと思ってそこまで進むと、今度はちょっと先に木のテーブルとベンチが見えてくる。雁峠に到着である。時間をみると2時5分。新地平バス停から3時間50分かかった。

今回通ったのはメインの登山ルートではないためコースタイムがよく分からないものの、計画段階では3時間くらいで着くかなと思っていた。初めてのコースは時間がかかる傾向があるし、初めての重さの荷物で休み休みのんびり来たし、渡渉で気を使ったせいもあるので、もう一度歩けばもう少し早く着くことができそうだ。

お昼休憩はロールパンとスポーツドリンクで手短かにすませて先を急ぐ。峠から2、3分で雁峠避難小屋跡。ゆっくりもしていられないので、写真だけ。WEBで廃屋と書いてあるので崩壊していると思っていたのだが、建物自体は傾いてはいるものの原型はとどめている。ただし老朽化のため使用はできないそうである。

小屋からしばらくは熊笹の中を緩やかに登る。例の「小さな分水嶺」のうち富士川に向かう流域にあたる。登ったところが分水嶺の下で、進路を左に取ると分水嶺から笠取山に至る。この日は右に進んで、笠取小屋へ向かう。ここは春に通ったところなので、記憶に新しい。丸太を敷いた道を歩いていくと、笠取小屋である。雁峠からは約30分、3時前には到着することができた。

連休前の金曜日なのでもしかしたら小屋の人がいるかもしれないと期待していて、実際に軽トラックが駐車してあったのだが、それは工事中の造園業者の車で、小屋には鍵がしまっていた(業者の人も夕方には帰って行った。東京都の工事だったのだろうか)。携帯を取り出すとアンテナが立っていたので、掲示してあった番号に電話し、テント泊をお願いする。

「どこにでも好きな所に張って下さい。何かあったら避難小屋も使っていいから」とのことであったが、この時点では私の他に誰もいなかった(夕方になって、カップルが1組現れて都合3人がこの日の宿まり客となった)。また、小屋の人がいなくてとても残念だったのは、ビールが飲めないことであった。テント設営は500円。500円玉がどうしても見つからなくて、千円札を包んでポストに入れておいた(帰ったら寝袋の中から出てきた)。

さて、今回の山のメインである初テント泊である。

家で練習はしてあったし設営自体はそれほど複雑な手順ではないのだけれど、場所を選んで、リュックの荷物を全部出して、テントに必要なものを仕分けして、その後にテントを組み立てるという仕事は、考えていたよりも時間がかかる。せっかく携帯が通じるので奥さんにメールを打ったり返事をしたりしながらやっていたら、30分もかかってしまった。

テントが張れたら、中に荷物を移してまず着替える。そして小屋から2分ほど下にある水場へ水汲み。そうこうしているうちにあっと言う間に4時になる。日が西に傾いて少し薄暗くなり、冷たい風も吹いてきた。早々に夕飯にしないと暗くなってしまう。小屋の前のテーブルで早速にお湯を沸かし始める。この頃になって、後続のカップルが登ってきたのだった。

この日のメニューは、カレーうどん、昼のロールパンの残り、セブンの「キャベツ千切り」とコーヒーである。キャベツは洗わずにそのまま使えるのでそれはよかったのだが、思ったより量があったのでドレッシングが足りなくなってしまった。カレーうどんは思った通りおいしかった。

予想外だったのは、そうしている間にもどんどん暗く、寒くなってきたことであった。気が付いたら手の指がかじかんでうまく曲がらない。そういえば2年前に三条の湯に行った時に、このくらいの時間にこういうふうに手がかじかんでしまったのであった。

できれば夜空を見ながら晩酌でもと思っていたのだけれど、とても長居できるような気候ではなかった。仕方なく後片付けをして、テントに戻る。まだ5時を少し回ったくらいでヘッドランプを使うほどではなかったが、日が傾くとどんどん暗くなっていく。

 


ようやく雁峠まで登りつめる。いま登ってきた広川の谷筋を振り返った一枚。


使用禁止となっている雁峠避難小屋。確かに全体に傾いており、「老朽化のため使用禁止」と書かれてはいますが、廃屋というほどではない印象でした。

 

思いのほか外は寒くて早々にテントに戻ったのだけれど、テントの中に入っただけでかなり気温が上がったように感じられたのは、やはり少しの風でも体感気温は下がるということと、最近のテントの性能がすぐれているということであろう。晩酌の準備として、スキットルに入れた森伊蔵と、チーズたらなど乾きもののおつまみを持ってきた。

暖かいテントの中、サーマレストの自動膨張マットレスを座布団にして森伊蔵をいただく。なかなか乙なものだが、しーんとしている中で酒だけ飲んでいるというのも何である。非常用に用意したラジオをつけてみるが、まともに入るのはNHK第一のみ。TBSやニッポン放送が入るはずの周波数は雑音だけだし、なぜか朝鮮半島からの電波がちゃんと聞こえたりする。

その唯一受信できるところのNHKも、原子力発電の必要性を長々とやっているので面白くない。そうこうしている間に森伊蔵もなくなってしまった。まだ7時前だけれどすっかり暗くなった。ずいぶん歩いたし朝も早かったから眠れるだろうと思って寝袋に入る。モンベルのスーパースパイラルダウンハガー#3、気温0度近くまで大丈夫なはずである。

ところが、眠れないのである。はじめは時間が早すぎて眠れないのだろうと思っていた。ならば横になって体を休めていれば休養になるだろうとゆったり構えていたのだが、9時になっても10時になっても眠れない。落ち葉が風でテントに当たる音や、遠くで何か動物が鳴く音が聞こえる。気が付くと、手足がいつまでたっても暖かくなってこないのだ。

これは想定外であった。今回蚊取り線香や防虫スプレーはきちんと持ってきたのだが、まさか寒いとは思わなかったのである。汗をかいたアンダーシャツとCW-Xは、着替えて乾いた服にしたけれど、上に着るフリースまでは思いつかなかった。三条の湯の時は確かに寒かったけれどあれは12月下旬。2ヵ月違うから寒くて寝れないとは予想外であった。やっぱり、山を甘く見てはいけない。

とうとう12時になり、日付が変わった。トイレに行くためテントを出ると、頭上には雲にかすんでまんまるな月が浮かんでいた。ちょっと喉が痛いような気がして風邪薬を飲んだところ、ようやく眠ることができた。目がさめたのは3時過ぎだから3時間くらいしか眠っていない。4時まで寝袋で横になり、4時過ぎにヘッドランプを付けてテーブルでお湯を沸かし始めた。

朝の献立はくるみパンとレトルトカレーをうすめたスープ、セブンのポテトサラダ、コーヒー。真夜中まで眠れなかった割にはそんなに眠くない。朝ごはんを食べて、後片付けをして、夜が明けるまではテントで荷物整理、それからテントの撤収をして、出発の支度が整った時にはすっかり明るくなっていた。出発は6時15分。後から到着のお二人はまだテントから出てきていなかった。

さて、帰りにも重要なミッションがあった。ガイドブックでは作場平まで車で来ることを当然の前提としているので、作場平から土・日のみバス便のある落合まで歩くとどのくらいかかるか、分からないのである。

前に笠取山に来た時、作場平から犬切峠まで約3km、犬切峠から高橋集落までやはり約3kmあったと記憶しているから、高橋集落から青梅街道まで約2kmとして合計8kmくらい。下り坂であることを勘案すれば、作場平から落合まで2時間くらいですむだろうと計算した。笠取小屋から作場平は前回1時間半で下りてきたから、合計3時間半という見込みである。

笠取小屋から作場平は、今回はノーマル坂コース経由1時間25分。ここまでは予定どおり。ところが、作場平から犬切峠までの道は、予想と違って下り坂ではないのである。車で走っている分には気付かなかったが、歩いてみるとわずかではあるが登りであった。これには参った。等高線にそって曲がりくねった道をともかく先に進む。そろそろ着くはずだと思ったあたりで、急に眺めのよい広場に出た。

東京都水道局の作った案内板が置かれていて、大栗休憩所という。前方には谷をはさんで、左端の笠取山から黒エンジュの頭、唐松尾山、将監峠、さらに飛龍山、前飛龍に至る奥多摩から奥秩父にかけての主稜線が一望に望める場所なのであった。あまりにも風景が広がっているので、広角レンズでなければ1枚の写真に収めることができないほど、実に雄大な景色で、時間がないにもかかわらずしばしの時間目を奪われたのであった。

幸い、大栗休憩所のすぐ先が犬切峠で、その後はずっと下り坂だったので、想定通り2時間で落合バス停に着くことができ、10時のバスには余裕で間に合った。

今回の初テント泊は、計画に余裕があったこともあり、とにかく13kgの荷物を背負って2日間で約18km、標高差800mを歩いたのは、われながら大したものである。それと、帰ってきてから普段だと太ももやふくらはぎが痛むのだが、それもない。寒さ対策とかもっときつい坂をどうこなすかは課題であるが、全体としてはまずまずよくできたと言っていい山行だったと思う。

 


記念すべき初テント泊。下草が生えていて、考えていたより下は固くなかったです。


帰り道、犬切峠近くにある大栗展望台から見た笠取山、黒エンジュの頭、唐松尾山の稜線。

この日の経過
広瀬・新地平バス停 10:15
10:30 亀田林業ゲート 10:30
11:30 亀田林業倉庫 11:35
12:40 最初の渡渉地点 12:40
14:05 雁峠(昼食休憩) 14:25
14:55 笠取小屋[泊] 6:15
7:40 作場平 7:50
8:30 大栗展望台 8:35
9:25 高橋集落 9:25
9:45 落合バス停
(GPS測定距離 初日 8.3km/2日目 10.6km 計 18.9km)

[Dec 3, 2014]