023 地方都市のビジネスホテルで思ったこと [Jul 20, 2010]

ずっと昔まだ昭和の頃、何かのセミナーに出ていたときに聞いた話をふと思い出した。講師の言うことには「みなさん、なんで自動販売機が優れているか分かりますか?自動販売機は、均質なサービスを提供できるんです。いつでも、どこでも、誰にでも、おカネを入れれば望む商品を、温かいものも冷たいものもすぐに出すことができる。人間ではこうは行きません」

なぜこんな話を急に思い出したかと言うと、先週、ある地方都市に出張した際、全国チェーンでない独立のビジネスホテルに泊まったのだけれど、その印象が強烈だったからである。その街には、全国チェーン(東横インとか、スーパーホテルとか)もあるのだが、たまたま満室で予約が取れなかった。そこで、R天トラベル(旅の窓口の頃から使っている)に載っていた独立のビジネスホテルを予約したのである。

外見からして、嫌な予感はした。おそらく昭和40~50年代の建物であろう。ただ、フロントのおばさんの愛想はいいし、ともかくも部屋に入ってみる。すごく狭い。ご存知のとおり体の小さい方ではないので、非常に圧迫感がある。オートロック、ネット環境、ウォシュレットといった、現代ではデフォルトともいえる設備がない。朝食も有料だ。

バストイレユニットへの段差は30cm近くあり、最近足腰が弱くなったので上り下りがきつい。バスタブは座って入るのがきついくらい小さく、結局シャワーしか使えない。洗面台スペースがほとんどないため、アメニティ類はトイレの水タンクの上に置いてあるのも悲しい。備え付けの椅子は堅すぎ、ベットは逆に柔らか過ぎる。エアコンが床にあるので、寝ていると顔に当たって寒い。

ところが、部屋の中はきれいに掃除されている。チェーンホテルでは「私が掃除しました」とか名札が置いてあっても、天井や壁には埃が目立つことが少なくないが、ここはそういうことはない。つまり、現状のハードウェアの条件のもとで最良のサービスを提供すべく努力しているのは認めるのだけれど、では次にここに泊まるかといわれると、さすがにちょっと遠慮せざるを得ない。

ここで、最初に戻って自動販売機の話になる。つまり、ユーザーがビジネスホテルに要求するのはある意味で標準化されたサービスであり、それ以上のサービスを求めている訳ではない。150円入れれば冷えたペットボトルが出てくるのと同様に、5千数百円だせばある程度のスペースと、標準的なサービスが提供されることを求めるのである。

だから、標準的なサービスが提供できなければ、いくら顧客対応が良かろうが清掃が行き届いていようが、この業態で生き残っていくのは難しいのである。そこを乗り越えるためには、景色とか、料理とか、温泉とか、全国チェーンにないものを強調する必要があり、それができなければ価格で勝負するしかない。

今回の地方都市の場合は、全国チェーンのビジネスホテルと価格に差がなく(むしろ高い)、その価格ならこれくらいの部屋だろうという顧客の期待に残念ながら応えられていない。経営者や従業員の方々のご努力は認めるけれども、おそらく今後数年の間に低価格路線への転向を迫られるか、さもなければ廃業ということになるだろう。

この問題の第一の教訓は、どんなにサービスに力を入れたとしても、越えられない限界があるということである。個人商店がいくらがんばって”smile”を売りにしたとしても、人間が売る以上24時間休みなしに働くことはできない。そこは自動販売機にどうやっても敵わないのである。同様に、立地条件や設備の差をサービスのみで埋めることも困難であろう。

もう一つの教訓は、不動産投資というのはやっぱりリスクがあるということである。いま、貸しビルや賃貸住宅の投資物件で、利回りが10%以上という物件は珍しくない。しかし、ひとたび状況が変われば(すぐそばにいい物件が建てば)、稼働率なんてものはいっぺんに下がってしまうことがありうる。まあ、そんなおカネはないので、心配することもないのだけれど。

[Jul 20, 2010]