025 ビジネスホテルの現代と未来 [Apr 28 ,2011]

このところ出張続きで、ビジネスホテルに泊まる機会が多い。また例の国際館事件もあって、この業態に求められるサービス水準と価格の兼ね合いはどうあるべきか、などと考えてしまう。折角いろいろ考えたので、ビジネスホテルについて思うことをまとめてみたいと思う。第一回は、個人的に三十数年にわたるビジネスホテルとの関り合いを中心に書いてみる。

最初にビジネスホテルを使ったのは、学生時代に各地を旅行したときである。当時の学生にとってデフォルトはユースホステルであり、ユースを使うと当時で一泊二食二千円以内で収まった。ところが、昔も今も団体行動が大の苦手である。

食事が終わるとみんなで後片付けや皿洗いというあたりはまだ我慢できたものの、歌を歌いましょうとか、フォークダンスをしましょうと言われると、なぜに宿代を払ってそんなことをと思わざるを得ない。いよいよ切れたのは、当時楽しみにしていたアントニオ猪木vsモンスターマンの異種格闘技戦のTV中継を切られてしまった時である。

この一戦は、新日本プロレスと極真空手の話し合いがつかず、ガチンコ勝負のまま試合当日を迎えたと言われていた。当時からプロレスは前もってストーリーが決まっているとされていたが、猪木vsアリ戦をはじめとする異種格闘技戦においては、結果的にセメントマッチになってしまった試合もあると言われていた。このあたりは、「1976年のアントニオ猪木」に詳しく書かれている。

話が飛んでしまったが、そんな訳でユースホステルに泊まるのが嫌になってビジネスホテルにしたのが初めだった。当時ビジネスホテルはそんなに多くなくて、札幌だとチサンホテル、大阪だとホテル南海(現在の南海なんば駅のあたりにあったが、いまのようなゴージャスなホテルではなく、ほんとのビジネス)が定宿だった。いま考えるとかなり狭いのだけれど、ユニットバスというのが珍しくてうれしい時代だった。値段は3~4千円だったので、驚くなかれ現在とそれほど違わない。

社会人になって出張に行くようになってからは、ビジネスホテルよりちょっと上のクラスのホテルに泊まることが多くなった。例えば三井アーバンとか全日空・日航ホテルである。時代はバブル真っ只中で、それより下のグレードは格好悪いというような感覚があったくらいだから、今からすると贅沢な話である。

バブルが冷え込んで10年くらいして、現在の主流ともいえる東横イン、ルートイン、スーパーホテルのご三家が店舗を増やしてきた。東横インは当初、東急インのパクリともいわれたくらいだが、いまでは東横インの方がずっと有名である。長引く不況でどこの会社も出張費を削減する中、いまやこのクラス以上のホテルに泊まるのは勇気がいるから、時代も変わったものである。

それでも、いくら出張費が安くなったといっても、カプセルホテルやネットカフェの個室で泊まる訳にはいかない。そのあたりの線引きはどうなっているのかというあたりから、次回書いてみたい。

 

 

カプセルホテルも日本で独自の進化を遂げた業態である。もともとあのシステムは米国の軍隊で使われていたものだというが、おそらく日本人的には寝台車でなじみがあったため、受け入れられやすかったのだと思う。個人的にも、飲みすぎて終電を逃したときなど、数多く使わせてもらったものである。

ところが、酔っ払って終電を逃し他に選択肢がない場合はともかく、そうでない場合は進んで使いたいものではない。というのはホテルとは名ばかりで、実は「簡易宿所」という旅館業法の位置付けにみられるように、宿泊の快適性とプライバシーを担保するものではないからである。

カプセルホテルでひと眠りすると、すぐに他人のいびきとかがさがさいう生活音にたまらなくなるのは、神経質な人もそうでない人も同様だと思う。こちらがまだ眠っているのに、目覚ましをかけられるのもたまらない。本を読むくらいなら大丈夫だが、スペース的にパソコンを操作するには狭すぎるし、近くの人にうるさがられてしまうだろう。

出張で来ているということは仕事があるということで、例えば深夜・早朝の電話、持ち帰って夜中に片付けなければならない仕事、他人が寝ている間に動き出さなければならないことなどはセットである。これらはいずれもカプセルホテルではやりにくいことである。ネットカフェなら多少は可能かもしれないが、こちらは逆に翌日の仕事のためにきちんと休むことができない。

ビジネスホテルが今日の隆盛を確保した背景には、こうしたニーズに最低限は応えていることがあげられる。旅館業法上ホテルの1室最低面積は8㎡。ユニットバスを加えた12㎡程度が現代ビジネスホテルのスタンダードであり、ここにベッド、机、TV、冷蔵庫、冷暖房、LANが加わる。

一方で、かつてのシティホテルにあっていまのビジネスホテルにないものは、部屋全体のスペース、ソファないし椅子、衣装ダンス、ミニバー(冷蔵庫の中身)といったところだろう。特にスペースの点はホテル側でも気になっているようで、東横インには「ベッド下の空間もご利用ください」とは書いてあるが、着替えの下着を床のあたりに置くのは体がかゆくなりそうだ。

緊急避難の1泊ならがまんできるカプセルホテルも、緊急避難でなければがまんできない。同様に、1泊ずつ年間数泊ならがまんできるビジネスホテルも、連泊や年間数十泊となるとがまんできない。そういうことなのではなかろうか。

次回は、ビジネスホテルは果たしてサービス業なのかという観点から議論を続けてみたい。

 

 

東横インのフロント経験者は、求人の際あまりホテル業務経験者として考慮されないという話がある。これはなぜなのか。その説明の前に、最近普通のホテルに泊まった時のことを書いてみたい。

普通のホテルだからレストランがある。その入口の前で立ち止まって考えていると、フロントにいたはずのホテルマンがいつの間にか近くに来ていてこう声をかけたのであった。

お客様。こちらの和食レストランでしたら、すぐ係の者がお伺いしますので、お好きな席にお掛けになってお待ちください。」

「いや、一人なものだから、座れる席があるかどうか見ていたのですが。」

「それでしたら、あちらにカウンター席がございます。もちろんテーブル席でも結構でございます。どうぞお入りください。」

という訳で、ホテルの売上に貢献することとなってしまった。

もともとホテルは室料だけでペイするものではなく、結婚披露宴や会社のパーティーなどの宴会部門や、レストランの売上を含めて採算に乗るものであった。だからホテルマンにとって、いかにして顧客に気分良く財布の紐を緩めさせるかがポイントなのであって、単に部屋のキーを受渡しするだけの仕事ではないのである。

これはサービス業すべてに言えることだが、売上を伸ばそうと思ったら、客を増やすか客単価を上げるかどちらかしかない。客を増やすためには客回転を上げる、リピーターを増やすなどのオプションが加わるが、基本は二つのうち一つである。ところが東横インのようなビジネスホテルでは、売店やレストランなど室料以外の売上手段がない。

だから、その日泊まった顧客についてそれ以上客単価を増やす術(すべ) がない。地方に行くと部屋まで配達してくれる宅配系の飲食店やレンタカーなどが入っている例はあるが、フロントで聞いても要領を得ないことが多い。おそらく外注先に丸投げしているからであろう。昔と違ってみんな携帯を持っているから電話を取り次ぐこともなく、チェックイン、チェックアウト以外に顧客との接点がほとんどないのである。

結果としてこれらのビジネスホテルでは、省力化だけが現場でできる最大の努力ということになる。連泊なのに昼間は部屋を使うことができなかったり、チェックインの際いくら混んでも2人以上で対応しないためフロントが大混雑したりして顧客の不満がたまっても、ホテル側には問題とはならない。いくら気分をよくしてもらっても、室料以上のお金を落とすことはないからである(自販機の売上が少々伸びるくらいであろう)。

これがサービス業の従業員として相当に問題であることは、詳しく説明するまでもないだろう。だから、宴会や飲食、物販などを併設しているホテルにとって、東横イン系のビジネスホテル経験者は未経験者と大して変わらない。一から教育しなければならないからである(変な癖~顧客に対する無関心~がついている分、余計に始末が悪いかもしれない)。

極論すれば、東横イン系のビジネスホテルはサービス業ではなく、不動産業に近いともいえる。考えてみれば、使う方もどちらかというとウィークリーマンションに近いとらえ方をしているような気もする。しかし、これで果たしてホテルといえるのであろうか。

ここで問題は、提供されるサービスと価格とのバランスということになる。次回はこの点について考えるとともに、これからのビジネスホテルのあり方について述べてみたい。

 

 

ビジネスホテルがサービス業ではなく不動産業ということを前回指摘したが、実はこのことは土地・建物の調達面においてもあてはまる。東横インを例にあげると、もともと自社でホテル物件を持っていたが、ある時期から土地のオーナーに建物を建ててもらい、それを長期条件で借りるという形となっているからである。

これは、かつての建築廃材不法投棄事件(それにしても、問題を起こす会社である)が契機となったような気がするが、いずれにしてもこの方式により、オーナーは土地を有効利用し、東横インは巨額の資金負担から解放される。土地が右肩上がりでなくなった現在、会社の資産として土地を確保する必要はないから、その意味では賢いやり方である。

つまり、土地のオーナーは上物を建ててビジネスホテルに長期一括で賃貸に出し、ビジネスホテルは1泊ごとに利用者に小売していることになる。リネン類のリース、部屋の掃除、歯ブラシ、無料朝食、従業員の人件費まですべて合わせても1室1000円くらいのはずだから、1室4000~5000円がホテルの粗利となる。

14㎡足らずのユニットバス付きワンルームだったら、よほどの都心物件でない限り月10万の家賃はとれないだろうから、ビジネスホテルは70~80%の稼働率で回せば採算に乗ることになる。逆に月5万くらいが家賃の相場だとしたら、半分の35~40%の稼働率で足りることになる。これはよほどマーケティングに失敗しない限り、クリアできる数字だ。

ホテルはつきつめると1泊の短期賃貸であるという考え方は、現代の自動販売機全盛の世の中の風潮と一致しており、ビジネスホテルの隆盛は当分の間は続くのではないだろうか。私のように、いまのビジネスホテルはサービス業ではないという意見を持つ人は、かなり少なくなっているような気がするからである。

とはいえ、問題がないわけではない。まず考えられるのは、これからますます経済活動の縮小が見込まれる中、出張などのビジネス需要も先細りとなることである。ここ二十年くらいでも、首都圏近郊の温泉旅館や、役所近くの飲食店街など、ビジネス需要の減少によって需要が極端に下がってしまった業態がある。ビジネスホテルもそうなっておかしくはない。

クラウドコンピューティングが進めば、システム関連産業の多くで地方の出先でやらなければならない仕事は減る。今でさえ、もしかしたらサーバ本体は外国にあるのかもしれないのである。営業だって、利益が見込めなければわざわざ地方に出かけていくことはない。

もう一点は、今後国債の価格下落から金利の上昇が見込まれる中で、いまの不動産型ビジネスモデルが継続できるかということである。金利が上がれば、建物建築コストが上がり、家賃も上がる。現在の価格水準は維持できない。一方で、結局のところ不動産業だというのであれば、参入障壁は低い。つまり誰でもできるということであり、いずれは過当競争となることは避けられない。

現在すでに、ビジネスホテル間での競争は激しくなっている。価格競争だけでなく、室料以外の付加サービスを競う傾向は、ますます強まることが予想される。そうなってくれた方が使う側にとっては喜ばしいのだが、それは私が現役を退いてからということになりそうである。

[Apr 28 ,2011]