027 通勤途中に鞄を持ち去られた話 [Aug 3 ,2011]

先週の金曜日の話である。通勤途中に鞄を持ち去られるという事件があった。

正直なところ、先々週の土・日も出張で2週間休みなしで仕事した末の週末ということで、自分では平気なつもりでいたけれど相当に注意力が散漫になっていたのだろう。JR総武線に乗り換えて会社に向かうわずか10分足らずの間に、網棚に置いた通勤鞄を持って行かれてしまったのである。

この日の天気予報は雨で、出掛けにも雨が降っていたため、大きなこうもり傘を持っていた。そしてもう片方の手でつり革につかまるため、目の前の網棚に荷物をのせた。次の駅で、前の席に座っていた人が下りたので、そこに座ったのが間違いだった。さて自分が下りようと鞄を取ろうとしたら、網棚の上には何もなかったのである。近くに他の通勤鞄があったけれど、色も大きさも違う。

目の前が真っ暗になった。唯一身に着けていたのは私用の携帯とそこに入っているモバイルsuicaの定期券だけで、会社の社員証も、入館用のIDカードも、財布も定期も、中に入っている免許証もクレジットカードも私鉄用のPASMO定期券も、みんな鞄の中である。BOSEのノイズキャンセル・ヘッドホンもiPODも、また買い直すとなれば相当の出費である。

さらに困るのは家のカギが入っていることで、免許証で住所が分かるから家に入り放題である。動転してはいたけれども、JRと駅前の交番にそれぞれ相談する。JRは出てきたらお知らせしますというだけ。交番では調書を作ると1時間以上かかるというから、これは後にしてとりあえず家に電話した後、会社に向かう。

守衛さんに事情を話してマスターキーで部屋に入れてもらう。とりあえず朝に片付けなくてはならない仕事をし、それから銀行とカード会社に電話してキャッシュカードとクレジットカードを止めてもらう。

もしかして誰かが間違えて持って行ったとすれば、駅に届けるだろうからJRから連絡があるはずである。ところが、1時間近くたっても連絡はない。ということは、持って行った奴に悪意があるということである。仮に戻ってきたとしてもスキミングなどのリスクを考えれば、クレジットカードは無効とせざるを得ない。

最初は、もしかしたら鞄を間違えられた可能性もあると悠長に考えていたけれど、どうやら故意に持って行かれた可能性が強くなってきたようである。会社に言って、IDカードを止める準備をしてもらう。総務からは始末書を用意するように言われる。何ということでしょう。

これまでのサラリーマン生活の中で、酔っ払って寝込んでしまい鞄を持ち去られたことは十四、五年前に一度、その他に帰宅途中で荷物を忘れたことが三、四回ある。しかし、朝の通勤中にこんな目にあったの初めてである。

仮に悪意がなく間違えただけだとしても、駅に届けていないということはそこらに置き去りにしたということだし、そうなればその人が盗まなくても他の人が中身をみて物色すれば同じことである。現金は仕方ないとしても、鞄と中身だけでも戻れば被害が少ないのだけれど、そう思っている間に2時間が経過した。これはあきらめざるを得ないようである。

 

 

いまやIDカードの再作成が最も急ぎの仕事になってしまった。先ほど時間がかかると言われて後回しにした交番へ向かう。

行ってみて分かったのだが、盗難届に時間がかかるのはこちらが説明したことを警察官が調書に書いて、それを承諾してこちらが署名捺印するという煩雑な手続きをとるからなのであった。せっかく鞄の中身を一覧表にしてワープロ打ちして行ったのに、あまり意味のないことになってしまった。

「私は通勤のため、浅草橋駅から総武線に乗り、網棚に荷物を置いて座っていました、でいいですね。」

「はい。ただ座ったのはお茶の水で前の人が下りたからで、それまでは立っていました。」

「それだと、私は通勤のため浅草橋から総武線に乗り、網棚に荷物を置いて立っていました。お茶の水駅で前に座っていた人が下りたので、荷物をそのままにしてその席に座っていました、でいいですね。」

といった調子である。そんなふうに調書を作っている間にも、交番にはいろんな人が来るので作業が中断される。たいていは道を聞く人なのだけれど、中には明らかに暇つぶしに来ているような人もいる(日本人なのに”めるしーぼくー”とか言って入ってくる奴とか)。そういう人にも警察の人たちは丁寧に応対しているから、大したものである。

調書が半分できたくらいに会社から電話が入った。JR津田沼駅から連絡があって、車庫に入る電車の中から鞄が見つかったとのことである。鞄を開けて、社員証や名刺から連絡先を探したとのことであるから、私の鞄であることは間違いないようだ。もう11時を過ぎているので、3時間ほど鞄だけが車内に残されていたということになる。

その電話を警察の人も聞いていて、早速行ってみた方がいいですよという話になる。せっかくここまで書いたのに、おそらく交番としては盗難届を出されるといろいろ手続きが面倒なのだろう。しかし、行ってみたらいろいろ盗られていたということもありうる。追って連絡することにして、そのまま1時間近く先の津田沼駅に向かう。

そして行ってみたところ、何と現金を含めて中身が一通りそろっていたのである。駅員さんと話したところ、おそらく持って行った人が間違いに気付いて電車に置いて行ったのではないかとのことであった。それにしても、物騒かつ思いやりのないやり方である。見付かった電車と車両を聞いてみたが、電車は分かるがどの車両かは分からないということであった。

という訳で鞄を取り戻し、お昼休み一杯かかって会社に戻った。幸い社員証もIDカードもあったので、午後からの仕事に差し支えることはなかったし、始末書も出さないで済んだ。クレジットカードとキャッシュカードの再発行手数料がかかるけれど、その程度は仕方がない。

一番心配した家の鍵だが、簡単に合いカギの作れない(メーカーに行ってオーダーメイドで作る)鍵であるので、2、3時間程度であれば大丈夫ではないかと判断した。ほんとに、鞄の中身を全部捨てられでもしたら、相当の出費になったところであった。

しかし、鞄を持って行った奴が純粋に間違えたとしても、やったことは盗んだのと同じことである。私ならどうしただろうと考えると、やはり普通なら駅に届けただろうと思う。間違えて持って来たとは言えないとしても、ベンチに置きっぱなしになっていたとか何とか、言い訳はいくらでもありそうなものである。

さて、こういうことがあったので、土曜日の休日出勤は他の人に代わってもらった。これだけぼんやりしている場合、大きなミスに結びつかないとは限らないからである。そんな訳で、先週の週末は久しぶりの完全オフでゆっくり過ごすことができたから、まあその点は結果的にはよかったのかもしれない。

[Aug 3 ,2011]