045 甲武信ヶ岳 [Jun 2, 2015]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

冬が終わったと思ったらもう夏が来てしまったようで、5月だというのに30度を超える日が続いた。この分だと虫や蜂が出始めるのも早くなりそうである。厄介なことだ。

今年の春はピークにはほとんど行かずに、尾根道や峠にばかり登っていた。山歩きの楽しみは必ずしも頂上にある訳ではないと思うからである。もちろん歳で体力がないということも大きいのだけれど、人が多いところが大嫌いということもあり、あえてピークをめざすことはないと思っている。

とはいえ、奥多摩登り尾根で大バテした要因分析と今後の対応を検討する上で、やはりそれなりのピークは目指すべきものだろうと思った。そこで思いついたのが、甲武信ヶ岳である。この間の笠取小屋でご一緒した方か甲武信小屋から縦走して来たと聞き、ああ、この稜線を1日歩いていくと甲武信ヶ岳なんだなあと思った。そして笛吹の湯でも、「甲武信からですか?」と尋ねられたのである。

登山口は新地平より少し先にあるが、こちらからだと標高差があり、道も急らしい。初めて登るには北の尾根、長野県川上村の毛木平(もうきだいら)がお薦めとの情報である。奥秩父なのに長野県からとは大げさだが、そもそも「甲武信」の名は甲斐・武蔵・信濃国境からきている。いまの行政区分でいえば、埼玉・山梨・長野県境ということである。長野県から登ってもおかしくはない。

北尾根からのアプローチが登りやすいという山は珍しいような気がするが、ここから登ると「信濃川水源地」も通るようだ。という訳で、今回は車で行ってみることにした。午前2時に起床、3時過ぎに出発、京葉道路から首都高、中央高速を須玉ICで下りて国道沿いを奥へ。小海線沿線に来るのは本当に久しぶり、二十年以上ぶりになる。

バブル華やかなりし頃、泉郷のリゾートオフィスというのがこのあたりにあって、何度か来たことを思い出す。バブル崩壊とともに行き詰ったのだけれど、あの頃いろんなところにあった泉郷のリゾートホテルや貸別荘はどうなっているのだろうか。おそらくは、つわものどもが夢の跡ということであろうか。

清里を抜け、JR最高地点・野辺山駅を過ぎると、国道141号を右に折れて川上村に入る。ここから登山口までが結構遠い。最後はダートになって毛木平駐車場にようやく到着。須玉ICから約一時間、家を出てから4時間と少し、午前7時半前である。平日だけあって、駐車場には空きがあるが、私の後からも次々と車が入ってくる。さすがに人気の山である。

登山カードをポストに入れ、7時45分に出発。あまり寝ていないのと、ここまで4時間以上運転してきた体調が心配だが、歩き始めは登山道というより遊歩道なので、快調である。甲武信小屋の車が止まっている十文字峠との分岐を過ぎても、しばらくは遊歩道が続く。いったん沢沿いから山腹に高巻くあたりちょっと急だが、あとは基本的に遊歩道である。

実はここで油断したのが、今回の失敗だった。ガイドブックにも「水源標先の急登までは遊歩道」と書いてあったし、荷物は日帰り装備なので7kgと軽い。今考えると下調べが足りないだけだが、なぜか山頂まで4時間のコースタイムと思い込んでおり、途中のナメ滝には9時半、水源標には10時半と考えながら歩いていた。油断してペースを上げ過ぎたのである。

ナメ滝になかなか着かないなと思って前を歩くパーティを抜いたりしていたのだから、疲れるのも当り前である。ようやくナメ滝に着いたのは10時。途中で休憩したり写真を撮っていたりしたものの、駐車場から2時間15分もかかっている。ただ、家に帰ってガイドブックを確認すると登りは1時間45分と書いてあるから、びっくりするほどの遅れではない。

10分の休憩後、次のチェックポイントである信濃川水源標に向かう。ところがここからは、遊歩道とは書いてあったものの、遊歩道ではなかったのである。


甲武信ヶ岳毛木平登山口から。歩き始めは快適そのものの林間ルートです。


歩き始めて1時間、高巻きの岩道はあるものの、まだまだこんな感じが続きます。

 

ナメ滝を過ぎると、行先表示に「水源まで2.1km」とある。そういえば、歩き始めの頃に「水源まで4km」とあったような気がする。すると半分しか来ていないのだろうか。ナメ滝まで2時間以上かかったのだから、このペースでいくと水源までさらに2時間かかるということは、お昼を過ぎてしまう。

そして、ここからの道は決して遊歩道ではないのであった。まず、傾斜がだんだんきつくなる。足下も平らではなく、岩がごろごろしていてまっすぐ足が置けないので歩きにくい。沢も上流に近づき、枝沢を渡る道があり湿った地盤も多い。午前2時起床という寝不足が響いて、そろそろ疲れが出始めてきたのかもしれない。

かなり歩いたので、あと30分くらいだろうと思っていたら、「水源まで1.35km」と表示が出た。まだ1/3しか歩いていないのかと思うと、途端にがっくりきて思わずリュックを下ろして休憩である。そんなことを2度3度繰り返し、そろそろ着くだろうと思うにもかかわらず沢の水量はまだまだ多い。最後の方は10歩歩いて止まってという昔の大山のようなペースになってしまった。

まだ水源標までどのくらいあるか分からないが、もう12時である。みると沢の中洲が平らに開けていて、ちょうど休めるようになっている。考えるより先に、肩からリュックを下ろしていた。予定では山頂で取る予定の昼食を、こんな所でとることになってしまった。EPIガスでお湯を沸かしながら、もうこれは頂上まで行けないなと覚悟した。

後から分かったことだが、ナメ滝から水源標までの距離表示は5ヵ所にあって、下から「2.1km」、「1.95km」、「1.35km」、「0.95km」、「0.35km」と間隔がバラバラである。ところが「あと1.95km」から水源地までは時間的にほぼ等間隔で、下りの場合だとそれぞれ15分ずつだった。「2.1km」と「1.95km」の間は登り下りがあって10分ほど、つまり下りでも70分かかる道のりなのであった。

これが登りだと、私の足だと5割増しの100分かかって当り前であり、休憩を入れてナメ滝から水源標まで2時間かかったのは、調子が悪い訳でもなんでもなかった。なのに、なぜか水源標まで1時間半と思い込んでいたものだから、くじけてしまって余計に疲れたのである。ちゃんと下調べしておけば、距離が4kmで標高差が230mあるから、距離で1時間・標高差で40分の合計100分かかるという計算ができたはずである。

お湯が沸いたので、山屋で買って持ってきたカレーヌードル・リフィル用を煮る。考えてみれば、温かいものを食べるのは昨夜の晩ごはん以来である。この日インスタントコーヒーを忘れてしまったので、白湯を飲む。ようやくひと息ついた。小さなハエだかアブがやたらと寄って来るので、12時半に出発。この時にはスポーツドリンクが500mlしか残っていなかったから、おそらく荷物の重さは5kgぐらいに減っていたと思う。

お昼の時点では、水源標までは行ってそこから下山しようと思っていたのだが、3分も登って行くと広場があって、そこに「信濃川千曲川水源標」があった。

なんと、限界まで疲れて座り込んだと思っていたら、水源標直下の絶好の休憩スペースで休んでいたのである。音を立てて盛んに流れているところからたった3分のところに、地面に湧き出てきた最初の場所があるというのは意外だった。

だんだん細い流れになって、ついに最初の1滴がぽたぽたと垂れてきているという、笠取山直下の水干のような風景を想像していたのだが、そうではなくて、苔の生えた岩陰というか砂地のようなところに、地下からこんこんと清水が湧き出ているのであった。コップが備え付けてあるので飲んでみると、おそろしく冷たかった。

これでは水源標で昼食休憩をとったのと同じなので、ここから引き返すのはなんとも中途半端に思えた。あと頂上までコースタイムで1時間。私のことなのでそれでは足りないだろうが、まだ12時半を過ぎたばかりである。これは行くだけ行ってみる手だろうと、急坂に向かったのであった。

 


遊歩道中間点のナメ滝。ここまで来るのに2時間15分。1時間半で着くと思い込んでいたから、相当に大変だった。


信濃川源流に向かう橋。2つ見えるが、こちら側は使用禁止の旧橋。ここからいよいよ息が切れた。

 

いよいよ急登とされる稜線への登山道に取り付く。ガイドブックやWEB情報では、ここまでは遊歩道、ここから登山道みたいに書かれているのだが、私の印象としてはここから普通の登山道で、足が平らに置けるので、かえって水源標までの道よりは楽だった。

確かに急坂で息が切れるのは仕方がないけれども、いつも登っている山道である。水源標の広場からワンクール登って後ろを振り返ると、登り口はもう見えなかった。水源標までは、10歩歩くと休むみたいな感じだったから、相当な改善である。

しばらくの間、まったく展望の開けない林間をひたすら登る。この急登が30分、稜線に出て頂上までさらに30分、合計1時間というのがコースタイムである。12時半に休憩地の中洲を出発したから、とりあえず1時までがんばってみようと思って登っていたら、見上げると樹間の向こう側が空で、あちら側の風景が開けている。稜線に出る峠道で特徴的な景色である。

ここから見えないだけで、どうせあそこからまた登るんだろうと思っていたら、なんとそこが稜線に乗った所で、ちょうど30分。ここへきてコースタイム通りというのは自分でもびっくりした。左に折れると甲武信ヶ岳、右が国師ヶ岳に至る縦走路である。

なぜ水源標まであんなに苦労したのに、ここの登りがそれほどでもなかったのだろう。その時思ったのは、足下が安定して歩きやすいからだということだが、いま考えると、昼食休憩をとって体力が回復したことと、精神的な要素がかなり大きかったような気がする。楽勝といわれていてきついのと、きついといわれていてそれほどでもないのと、気分がかなり違う。

ともかく、2時までには下りにかかれそうだと思ったら勇気百倍である。ちょっとした登り下りを過ぎて稜線の北側に出ると、進行方向の樹間から目指す甲武信ヶ岳が見えた。その右のピークは木賊(とくさ)山だろうか。甲武信ヶ岳と木賊山の鞍部がちょうど目線の高さである。あの鞍部にあるのが甲武信小屋だから、それと同じとするとあと20分の登り。なんとかなりそうだ。

さらに稜線を緩やかに登って行くと、登山道の右に出る道がある。藪をかき分けて進むと、10歩も行かないうちに見晴台のようになった岩場に出た。正面の雲の中から、富士山が見える。暖かくなったせいか、雪は頂上あたりに少し残っているだけで、ほとんど夏山の風情である。その前にいくつかの尾根があり、左側に甲武信ヶ岳。頂上に立っている柱のような細いものが見える。

見晴台から見ると、頂上までは岩場のように見えたが、登山道は左(北)にそれて再び林間の登りとなる。さすがにここからの急登はきつい。何mか先の赤テープを目指して、大岩の組み合わさった急坂を登って行く。ここで10歩進むと息が切れて一休みというのは、いつものペースだから仕方がない。

再び稜線に出てあと2、30m。ここから岩の道になって、頂上は目の前にあるのになかなか登れない。先土器時代の石斧のような、とがった岩の道である。なぜこのような小さな岩がたくさんあるのだろう。頂上付近の岩が長年の風雨で削れてこうなったとは思えないから、もともと川の上~中流あたりにあった土地が隆起したものだろうか。

息を整えながらそんな道を上がって来て、ついに甲武信ヶ岳頂上に到着した。1時40分、水源標から1時間と少し、ほぼコースタイムで登ることができた。

 


信濃川源流標からいよいよ急登が始まる。でも、こちらの方が普通の山道で、印象としてはかえって楽だった。


稜線に出ると、いよいよ甲武信ヶ岳の頂上が見えてくる。ここからの登りは岩が多いように見える。


頂上直下の最後の登り。さすがにここはきつい。

 

頂上には1パーティ分のベンチが置かれているくらいでちょっと狭い。ベンチの脇にケルンのように石が詰まれ、その上に「日本百名山甲武信岳」の柱が建てられている。昔の写真をみると柱は2本見えるのだが、整備して1本だけ残したようだ。それでもあまり広くはなく、1パーティがお昼をとっていたので、他の何人かは登山道わきのせまい場所で休んでいた。

頂上からは、いま登ってきた西からの道の他に、そのまま東に下って甲武信小屋に向かう下りと、北側十文字峠に下る道が続いている。展望が開けているのは南側、「甲武信」の甲州側で、こちらに直接下る道はない。さきほどの見晴台からの眺めと同様、雲の中から富士山がのぞいている。背後が信州側、左手が武州側ということになる。

山頂に出ると、急に冷たい風が吹いてきたのでちょっと驚いた。この間の雁峠もそうだったが、山というのは本当に風向きが変わる場所なのだなあと実感する。この日はずっと晴れていたのだが、翌朝は雨になった。ちょうど気候の変わり目の時に登ったことになるようだ。

当初の計画だと、頂上に登った後は甲武信小屋まで下りて、また登り返す予定にしていたのだけれど、それだけの体力的な余裕はない。それに登りに時間がかかり過ぎたので、予定どおり甲武信小屋まで行くと日が暮れてしまう。丸太造りの小屋を見られないのは残念だが、まあ、一度はあきらめかけた頂上まで登れたので、今回はここから引き返すことにした。

それにしても、水源標をめざして登っていた11時から12時くらいには、とても頂上までは登れないだろうと思っていた。それが、お昼を食べた頃から急回復して、路面状況にも助けられて目的地に達することができた。登ってよかったと思う瞬間である。ピークを目指さない歩き方もそれはそれで楽しいのだが、達成感という点ではピークを目指した方がクリアである。

そしてケガの功名と言うのか、予定どおり山頂でお昼をとろうとしていたら、ちょっと狭くて窮屈な思いをしたかもしれない。お昼休憩の場所としては、水源地近くの中洲の方がずっとゆっくりできたようだ。

さて、10分ほど山頂で過ごして、早々に下りにかかる。1時50分に下り始めて、ちょっと遅いけど5時半くらいには駐車場に戻りたいものだと思っていたら、まさに予定どおり、見積もっていた時間通りに歩くことができた。さすがに下りは得意である。

まず水源地まで、登り1時間のところを下りは45分。ずいぶん前に水分がなくなっていたので、ペットボトルに信濃川水源の水を補給して出発。砂場のようなところに湧き出している水なのでどんなもんだろうと思っていたが、まるで氷水のように冷たい。これは、いままさに地下から湧き出した水だと思った。

水源標からナメ滝まで、2時間かけて登ったところを70分。登りでは何度も休んで息を整えなければならなかったが、下りはノンストップである。そしてナメ滝から駐車場まで、2時間以上かけて登ったところを1時間半。駐車場に着いたのは5時半過ぎで、登りの苦労が嘘のような快調な下りだった。

そして下っている時に思ったのは、このコースは結構な距離があって、標高差で時間がかかる以上に距離で時間がかかるので、遊歩道だと思って油断するとかなりつらくなるということであった。ガイドブックやWEB情報をうのみにせず、距離や標高のデータをしっかり予習しておかないといけないというのが、今回身に染みた教訓でありました。


甲武信ヶ岳の山頂は狭くて、1パーティが陣取ると他の人はいる所がないくらい。


信濃川源流標下の水場。銀コップのあたりの砂の下から、こんこんと清水が湧いている。おそろしいほど冷たくておいしい。


下りでは、ようやく落ち着いて景色を眺める余裕が出てきた。新緑が何とも言えず鮮やか。

この日の経過
毛木平駐車場 7:45
10:00 ナメ滝 10:10
12:05 水源前中洲(昼食休憩) 12:30
13:05 稜線分岐 13:10
13:40 甲武信ヶ岳 13:50
14:35 信濃川水源標 14:45
15:55 ナメ滝 16:00
17:35 毛木平駐車場
(GPS測定距離  14.8km)

[Jul 2,2015]