046 棒ノ折山 [Jun 25, 2015]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

気が付くともう梅雨である。今年の春山は丹沢梅の木尾根からスタートして、奥多摩登り尾根、雁峠から白沢峠、甲武信ヶ岳と3回の泊りがけで随分がんばった。春の締めくくりにもう1日と思っていたら、梅雨の合間の平日に1日休みが取れた。あまり計画に時間をかけられなかったものだから、以前から計画表だけは作っていた棒ノ折山に行くことにした。

棒ノ折山は初心者コースと言われていて、ガイドブックでもよく紹介されている。だから一昨年くらいから何回か予定を組んでいたのだが、その度に天気がよくなかったり都合が入ったりで伸び伸びになってしまっていた。登山口からピークまでは2時間弱ということだからそんなに苦労はしないだろうと思ったし、帰りは秩父側に下りてさわらびの湯というのも魅力的である。

問題は、登山口までのバスの本数があまりないということである。ガイドブックではバスで清東橋か手前の上日向まで行くことを前提としていて、JR川井駅から歩くとどのくらい時間がかかるかは書いてない。それに平日に登るとなると、帰りのラッシュアワーに巻き込まれるのも気が重い。ということで、朝一番で出てJRから歩いて登る計画としたのであった。

川井駅に着いたのは8時ちょっと前。身支度してちょうど8時に出発する。朝早いのにお巡りさんが交差点で交通整理をしている。挨拶して右に折れ、舗装道路をゆるやかに登って行く。道路の右側は深い谷になっているが、水音が大きいのでかなりの水量があるようだ。この谷に沿って、道路が続いている。

しばらくは点々としていた人家が、南平というバス停のあたりからまとまってきて、大集落を形成している。道沿いだけでなくずっと奥の方まで家が見えたから、百数十軒か、あるいはもっと多いかもしれない。こんな山奥にびっくりするくらいの大集落である。道を歩くおじいさんおばあさんと、挨拶を交わしながら登って行く。

新しい家は少ないけれども、廃屋もほとんどない。少なくとも築6、70年は経っていると思われる木造の古びた家にも、布団や洗濯ものが干されている。どの家にも、それなりに新しい車が止まっている。家の前の小さな庭や菜園から、花や野菜を摘んでいるおばあさんもいた。

谷に沿った狭い集落なので、水田もないし大きな畑もない。それでもこれだけの家があって生活が成り立っているのはなぜだろうと考えながら登っていた。そもそも定住した頃は、林業が主だった生活手段だったに違いない。材木にしろ炭にしろ、こうした土地でなければ生産できない。言ってみればわが国におけるサバとかサラワク、ドバイだった訳だから、集落が大きくなって不思議ではない。

ところが私が物心ついた50年前には、すでに輸入材と石油の世の中だった。それから約半世紀、どうやって生活してきたのだろう。いまもここから奥多摩駅までのバス便があることからみて、まず考えつくのは氷川(奥多摩)のセメント産業だが、セメントだって斜陽産業である。こういう土地には必ずマス釣り場があるけれども、観光だってそれほど大きな収益源にはならないはずである。もしかすると公共事業に頼ってきたのだろうか。

そんなことをつらつら考えながら30分も歩くと上日向のバス停に着く。ここからは再び人家がまばらになり、キャンプ場(といってもバンガローとバーベキュー場が主なので今風ではない)を2つほど過ぎると、棒ノ折山登山口がある。舗装道路は奥に続いていて、そのまま進むと川苔山に至るようだ。駅から登山口まで1時間20分ほど。心配していたほど遠くはなかった。

「川苔山頂上付近でクマが現れました」という物騒な掲示を見て、忘れずにクマ鈴を付ける。そして見るからに藪が深そうなので、虫除けシールを貼って携帯用ベープマットを付ける。準備万端整えてから、いよいよ登山道に入る。

しばらくは谷沿いの道を行く。傾斜はそれほどではないが、上から横から藪が進出してきて、歩きにくくて仕方がない。とがった葉が顔や手に当たるのはあまり楽しくない。そういえば、前に高水三山に登った時も7月で藪が深かったと思い出す。けれど、あの時は5分くらいの藪だったが、ここは15分以上藪の登りを歩かなければならない。

登山道の横では、谷の水を使ってワサビが栽培されているが、こんな藪の中では大変だろうと思った。2、30分歩いて振り返ると、登ってきた谷は本当に藪の中で、上から見るとどこが道だったのか分からないくらいである。

1時間弱歩いたあたりに祠があり、ここから谷を離れて尾根に上がる急傾斜となる。急坂を登るのは苦しいが、藪の中を歩くよりはいい。しばらく登って丸太を横にしてあるあたりで休憩にする。ちょうど谷から冷たい風が上がってきて気持ちがいい。ずっと休んでいたくなるような気分だった。

 


川井駅からのバスは本数がないので歩き。上日向までは人家が多く、おじいさんおばあさんに挨拶しながらゆるゆると登って行く。


この時期、谷沿いの登山道は藪が進出してきて歩きづらい。登ってきた谷を振り返って。


ようやく藪を突破すると急登。きついのはいつものことなので、こういう景色だと安心する。

 

谷沿いの道から祠を上がって急傾斜の山道になると、あとは普通の登りである。登りだからきついことはきついが、まあ、苦しいのは当り前である。それにこの日は日帰り装備で、リュックも出発時で6kgと軽い。

棒ノ折山頂上の標高が969m、登山口が360mだから標高差は600m。私のペースだと約2時間のコースである。9時25分に登山口から入ったので、休憩を勘定に入れても11時半には着く計算である。それに、途中休憩を入れた祠の上の丸太の場所の標高を図ったら660mだったから、ちょうど時間的にも標高差からも半分である。これはいいペースだと自分でも思いながら登っていた。

休憩場所からしばらく登ると尾根に出て、両側が切れ落ちている。休み休み登って行くと、行く手の樹間から空が見えるようになった。この景色が見えると、頂上もしくは峠である。11時を過ぎたあたりで、「棒ノ折山 200m」の標示が出てきた。もっと頻繁に置いてくれるとありがたいのだがと思いつつ、最後のひとがんばり。ちょっとした藪を越えて頂上に出た時間は11時15分。

考えてみれば、登りでは誰にも会わなかったし、誰にも抜かれなかった。にもかかわらず、山頂にはすでに何組かの先客がいた。小沢峠から黒山を経由して来たのか、あるいはこれから下る秩父側、有間ダムから登ってきたのだろう。実際下りでは10組近くとすれ違ったので、こちらの方がメインコースなのかもしれない。

棒ノ折山は別名棒の嶺といって、これは秩父側からの呼び名のようである。展望が開けているのは北側つまり秩父側で、奥多摩側は木や藪が邪魔になって展望はない。眼下にはいくつもの稜線が重なっており、左手には伊豆ヶ岳や武甲山といった聞き覚えのある山を望むことができる。しかしながら、交通の便が悪いので秩父の山にはあまりなじみがないのであった。

この日のお昼は、アルファ米のまぜご飯とコーヒー、食後に羊羹にした。実はアルファ米も羊羹もこれまでは非常食として持ってきていて、そのまま持って下りていたのである。奥多摩登り尾根以来荷物の軽量化には神経を使っているので、今回はこの方法を試してみた。EPIガスも日帰りなので省略して、テルモスにお湯を入れてきた。それでも十分においしかったのは山ならではというところである。

もう少し景色を見てのんびりしたかったのだが、一番眺めのいい場所を占領している老人男の集団が、いつまでも大声で話をしているものだから早めに下りることにした。話の内容からすると現役時代は教師をしていたようだが、「先生」と呼ばれる連中にろくな者はいないという標本であろう。若い人達の方がずっと静かに、食事と風景を楽しんでいたのが印象深かった。

これまでのつたない山行の記憶でも、単独行の人に迷惑をかけられたり、嫌な思いをしたことはほとんど皆無である。大声で騒いだり、不必要に話しかけられたり、嫌な思いをするのは決まってグループ山行者である。グループになると、グループ内で協調さえすれば、外の人のことは気にしないという傾向がみられるようだ。

12時10分前くらいに下りにかかる。下りのコースタイムは1時間半と書いてあるので、1時半か少なくとも2時にはさわらびの湯に着けるだろう、ゆっくり風呂に入れると思っていた。もちろんこれは大きな勘違いで、下りでは大変に苦労するのであった。

黒山方向と有間ダム方向の分岐点であるゴンジリ峠までは急坂と書いてあったが、登ってきたルートに比べると随分とゆるやかに思われた。それと、いったん下った後は雰囲気のいい平坦路になって、さすがに下りは楽だと安心してしまったくらいである。

ゴンジリ峠で左に折れて岩茸石に下るルートは、木の階段が崩壊していて随分歩きにくく、さすがに埼玉県側は違うと思った。登山道を外して歩くと植生上よくないので心苦しかったのだが、丸太が斜めっていて歩くと危ないので、仕方なく脇道を歩く。しばらく下ると脇道側にも砂利が敷いてあったので、管理者も階段修復はあきらめたようであった。

ひとしきり下ると大きな岩のある休憩地に着く。ここが岩茸石である。高水三山にも同名の山があるが、関係があるのだろうか。あるいは、奥多摩側と秩父側では山の名前さえ違っているくらいだから、それぞれが自分達の呼び方をしているだろなのだろうか。

 


棒ノ折山頂上から、秩父連山を望む。2つ目の稜線左端のとがった山が伊豆ヶ岳。冬の澄んだ空気なら日光白根山あたりまで見えるということである。


棒ノ折山頂上は広いので、座れるところはいっぱいある。でも、大声で話すグループがいるとゆっくりできない。


ゴンジリ峠まではこんな平坦路もあって、山の上とは思えないほど。しかしこの後は急坂の崩壊した木の階段となる。

 

岩茸石で尾根道と谷道が分かれる。計画では白谷沢の谷道を下ることにしていた。ガイドブックにも載っている初心者ルートであるし、1/25000図を見てもそれほどの距離もないので、油断していたのである。

岩茸石からしばらく整備されたトラバース道を進む。何百mか進んだあたりで林道に突き当たる。この林道を突っ切ると白谷沢ルートである。だが、すでに下り口の丸太の階段が崩壊している上、「途中、鎖場が崩壊しています。通行には注意してください」と書いてある。思わず、林道脇のベンチで腰を下ろし、落ち着いて地図を見た。

時間はすでに午後1時で、下り始めてから1時間経つ。下りは1時間半のコースタイムというが、1/25000図の残り距離をみるとあと30分では着きそうにない。それはいいとして、いま目の前を通っている林道が1/25000図には載っていない。最近の山行では必ず最新の電子データを用意するのだが、今回は計画を立てたのが一昨年だったので、そこまではやっていなかった。

安全策として林道を行ったらどうかと考えたが、1/25000図に載っている近くの林道が延長したのだとすると、山の中を行ったり来たりしているのでいつになったら麓に下りれるか見当もつかない。白谷沢を下れば谷道だけに最短距離だし、初心者コースだから鎖場の1ヵ所くらい崩れていてもそんなに危険なことはないだろうと思って、結局、白谷沢ルートへと突入したのである。

もう一つの理由は、ここで私を抜いて行った高齢者グルーブが、谷ルートへ進んでいったことがある。万一の場合も考えると、できるだけ人が通るルートへという気持ちがあった。帰ってから電子データを見ると、林道を進んで途中から尾根ルート=岩茸石で分岐したルートに入れるので、結果的にはこちらの方が早く安全にさわらびの湯に到着したと思われる。

谷道に入ると、予想していた以上に急傾斜であった。おまけに、じめじめしていて暗い。 「マムシ注意」の看板があり、いまにも横の藪から出てきそうな雰囲気である。しばらく行くと、道の真ん中にでっかいカジカガエルがじっとしている。こんなに大きなカエルがいるくらいだから、マムシだっているだろう。

しばらく行くと、路面が一枚岩の急坂である。足場となるような安定した場所は見当たらない。仕方なく後ろ向きになって、ロープを手掛りに下りる。登りならまだしも、下りで滑ったら大ケガをしかねない場所である。やっとの思いで下りて写真を撮ったのだが、上から見たような緊迫感が感じられないのは残念である。

続いて問題の、一部崩壊している鎖場である。足下は先ほどと同様に滑りやすい岩で、しかも浮石になっているところがあるので油断できない。もちろん急傾斜であり、転んで下の岩に頭でもぶつけた日には大ケガ必至である。

ここを通過すると、左右から岩の壁が迫るゴルジュ。ここまで来るともう登山道も川も一緒であり、登山靴は半分水の中である。さすがにゴアテックスだけあって靴の中まで水は入って来なかったが、ちゃんとした靴でなければ大変なところであった。それと、頭の上からマムシが降ってくるかもしれないと考えると、ゆっくり景色を楽しんでいる余裕はなかった。

それにしても、このルートが初心者コースとしてガイドブックに載っていて、おまけに環境省推奨の「関東ふれあいの道」だというのだから驚きである。千葉県にあるふれあいの道はそれ以外のルートと比べて格段に整備されており、ほとんど危険個所はない。

ところがこのルートは、ちょっと油断すると大ケガしておかしくないし、人里までも遠い。ちょっと多目に雨が降ったら危ないと思う。少なくとも谷に下りる林道交差のあたりに、「大雨の後は危険なので、尾根ルートを使用してください」くらいは書いてあってもいいのではないかと思った。

もう一つ計算が違ったのは、谷沿いだからちょっとした水場くらいあるだろうと思い、残りスポーツドリンク200mlほどで下りに突入したのだが、案に相違して水を汲めるところなどなかったことである。それらしき枝沢はないことはなかったのだが、「マムシ注意」の藪に入る勇気がなかったので、結局下までがまんした結果、かなり喉がかわいてしまった。

そんなこんなで、心底疲れてしまったので、行く手にガードレールが見えた時にはほっとした。登山口に出て時間を見ると2時10分、苦労した割には林道交差から1時間しかかからなかったのはさすがに下りである。それにしても頂上から2時間だから、1時間半の予定からすると大苦戦であることに間違いない。

さらに予定外だったのは、林道に出てからさわらびの湯まで、ダム沿いを2kmほど歩かなければならないことだった。ダム方向から下りるとさわらびの湯は売店、食堂のずっと奥にあるので、疲れた体にはたいへんにつらいラストとなった。さわらびの湯到着は2時40分。登山口から30分もかかってしまったのでありました。

 


白谷沢難路その1、岩壁をロープで下りる。分かりづらいですが急傾斜で滑ります。


白谷沢難路その2、連続鎖場。右上に見える鎖は足場が崩落。足下は急傾斜の岩で浮石もいっぱい。


白谷沢難路その3、ゴルジュの谷間を突破。分かりにくいですが、両側から岩壁が迫り、しかも「マムシ注意」。もはや初心者コースではないのでは。

この日の経過
JR川井駅 8:00
9:05 清東橋 9:05
9:20 百軒茶屋登山口 9:25
10:15 祠上 10:25
11:15 棒ノ折山(昼食休憩) 11:50
12:50 林道交差 13:00
14:10 白谷沢登山口 14:10
14:40 さわらびの湯
(GPS測定距離  13.1km)

[Jul 22,2015]