058 笹子塚 [Feb 12, 2017]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

木更津駅西口発鴨川亀田病院行きのバスは、中高年のグループで朝からたいへんに騒々しかった。少し離れたベンチでバスを待っている間は何とかなったけれど、バスに乗ってしまうとそういう訳にはいかない。回数券を買ったので運賃分取ってくれとか一人いくらかだとか幹事の人が大声を出す一方で、メンバーはおのおの勝手にしゃべっている。

同じ山域だったら嫌だなあと思ってひらひらさせている予定表を見ると、「安房高山」と書いてある。安房高山なら、若干離れているので大丈夫だろう。それにしても、人数二十人弱。こんな大人数で山に来て楽しいのだろうか。マザー牧場かファミレスにでも行ってくれと思ってしまうのは、あれだけ騒ぐのだからやむを得ないだろう。

1時間バスに乗って、ようやく年寄り軍団は下りた。「サンラポール」の停留所である。下りる間際になって、整理券がないだの何だのまたもや大騒ぎしている。私はもう少し先の停留所で下りればいいから、騒がしくなくてよかったと思ったのも束の間、次のバス停は「長狭中前」であった。なんと、「県民の森」バス停はコミュニティバスだけで、日東バスは止まらないのだ。

バスは県民の森を過ぎ、尾崎登山口を過ぎ、君鴨トンネルを越えてどんどん進む。長狭中前のバス停で下りると「清和県民の森6km」の標示があった。年寄り軍団のおかげで大変な失敗をしてしまったが、下調べが十分でなかった自分が原因である。それにしても、サンラポールから長狭中まで5km以上あるはずで、まるで室戸岬お遍路の野根から佐喜浜区間のようだ。

ルートを替えようかと一瞬思ったが、北上して郡界尾根を目指そうにも、このあたりの地図を持ってきていないので危険である。大山林道から三郡山のコースは歩いたことがあるけれど、再び年寄り軍団に会う危険がある。1時間余計にかかるとなると帰りの風呂をあきらめなければならないが、他に方法もないのであきらめて歩き始める。いい天気で風もないのが救いだ。

道は大きくカーブを描いた登り坂である。30分以上歩いて、ようやく郡界尾根の手前まで来た。山肌をコンクリで地滑り防止工事をしている山が二つ見える。どちらかが請雨山のはずである。すぐ下に君鴨トンネルが口を開けている。銘板によると、全長は697m。

君鴨トンネルは何度も通っているが、歩いて通るのはもちろん初めてである。お遍路歩きで慣れてしまったので、それほど抵抗なく通れるのは経験ということだろう。トンネルは途中でスライスしているので出口が見えない。請雨山の下から入って出たのは安房高山の手前だったから、考えてみれば結構な距離がある。

トンネルを出ると、右上に安房高山北尾根に向かう登山道が見えた。ここからは下り坂なので少し楽になる。かつて県民の森の施設のひとつだった森林館は閉鎖となり、現在は資材置き場に使われているようだ。その旧・森林館の横を抜け、いつもあまりひと気のない産地直売所の向かいから左に折れる。尾崎経由市界尾根への分岐である。

ここに下りて来たことは二度あるが、登るのは初めてである。ここからは山道なので、登山靴の紐を締め直し、ストックを用意する。時刻は10時40分、ここまですでに1時間かかってしまった。

小櫃川への下りは結構傾斜がきつくて、転びそうになる。歳とともに、下りを歩くのがどんどん厳しくなってきた。登りが楽になったかというとそんなことはないので、登りも下りも両方きついということである。渡渉すると森の中はかなり暗い。そして、北斜面には雪が残っている。2、3日前に降った雪に見えた。

ここまで国道歩きだったので、さすがに登山道の傾斜は応える。息が上がってしまいたびたび足を止めるが、歩かなくてもいい距離を歩いているので長いこと休む訳にはいかない。尾根に乗るまでかなりの急傾斜だが、20分ほど登ると、見覚えのあるヘアピンカーブになった。ここからは尾根のはずで、アップダウンはあるもののそれほどの急傾斜はない。

登り始めて50分ほど、11時半に市界尾根分岐に到着した。いい時間なので、ここでお昼にする。道案内のある上の方に一人くらい座れるスペースがある。幸い誰もいないのでここを占領する。おそらく半径500m誰もいないし、聞こえるのは木々が風に揺れる音だけである。心が研ぎ澄まされるような気がした。山に騒ぎに来た連中には分からないだろう。

 


長狭中まで乗り過ごして、清和県民の森まで6kmと表示がある。これからあの郡界尾根を越えなければならない。


1時間かけて予定ルートに戻り、ようやく小糸川を渡渉。北斜面にはうっすらと雪が残っていました。


市界尾根に復帰。小ピークのアップダウンが続くが、こういう境界標が数多くあるので安心。

 

さて、今回のルートであるが、そもそもの発端は前回、宇藤木からロマンの森に抜けようとして時間が足らず、尾崎へのエスケープルートをとってしまったことによるものであった。

だから、本来あるべき姿としてはできるだけ早く前回のルートに復帰すべきなのであるが、お伝えしたように年寄り軍団に気を取られて君鴨トンネルのはるか先まで行ってしまい、計画ルートに戻るまで1時間以上かかってしまった。返す返すも、迂闊なことであった。

前回、市界尾根に乗ったのが12時半過ぎ、今回はお昼を食べて12時前には歩き始めたのだけれど、それでも30分くらいしかアドバンテージはない。できれば帰りは2時半の木更津駅行きのバスに乗りたいと思っていたので、そうなるとお風呂に入っている時間はない。それどころか、2時半のバスに間に合うかどうかもかなり微妙である。

それでも、歩き始めると10分もかからずに前回歩いた無名ピークまで着いた。体力的には、前回よりかなり余裕があるようである。それと、はじめからアップダウンの多い尾根だと分かっているので、精神的にもかなり余裕がある。平らな尾根が出てこなくてもがっかりしないという悲しい余裕ではあるが。

これから向かう笹子塚は、高宕山と三郡山を結ぶ市界尾根では最高のピークであり、三角点となっている。市界尾根と並行して走る国道410号線から見ると、ひときわ高くなっているのが分かる。

それなのに、市界尾根にある道案内のほとんどは北の高宕山と南の三郡山方向を示すのみで、笹子塚ないし笹郷山と書いた道案内はほとんどない。そもそもがバリエーションルートであるということが大きな要因だが、もう一つ、県民の森の規模が縮小しているということがある。

というのは、国道を挟んで向こう側の安房高山に至る登山道にもこちらの市界尾根にも、古いブリキの道案内があるのだが、それが案内している道のいくつかは廃道だったりするのである。前回お伝えした森林館が閉鎖となって久しく、尾崎からの登山道こそ何とか通れるけれども、それ以外に2つ3つあったはずの市界尾根への登山口が判然としない。

登山口が判然としない以上、笹子塚を目的に登る人はあまりおらず、高宕山から三郡山への尾根歩きで経由する登山者だけが通るということになり、そういう道案内になっているのであろう。そうではあるのだが、結構景色が開けている場所もあるのはうれしいことである。

笹子塚自体は展望のないピークなのであるが、その南の取り付きあたり、大きな岩が尾根から突き出た地点の景色は、この日一番といってもよかった。東京湾に向けていくつもの尾根が重なり、はるか京浜工業地帯まで望める。そして、冬の澄んだ空気が幸いして、二、三合目まで雪に覆われた富士山も見ることができたのである。

惜しむらくは、尾根に出てからかなり風が強くなってきたことで、麓では雪が残っていたくらいだから、この時期は風の通り道になっているのであろう。この展望岩からやや急な傾斜を登って行くと、双耳峰となっている笹子塚頂上となる。標高は307m。昼食休憩から1時間弱で到着した。ほぼコースタイムである。

 


前方にそびえる笹子塚。道案内には高宕山と三郡山しか書いてないのですが、なかなかのピークです。


笹子塚のすぐ前で、本日一番の展望。写真には写りませんが、はるかに東京湾や富士山も望むことが出来ました。


古い手作りの道案内。このブリキ板の案内は、いまはなくなった「森林館」の標示もあるくらいで、県民の森が整備された昭和時代からあるようです。

 

笹子塚では、三角点をカメラに収め、先を急ぐ。まだ午後1時前なので、1時半過ぎに茶立場分岐を通過して、50分ほどで国道まで下りれば、2時半のバスに間に合う計算である。間に合わないと次のコミュニティバスになるが、20分ほどしか時間がないので風呂には入れない上、途中で乗り継ぎがあるため、あまり歓迎できる選択肢ではない。

笹子塚を過ぎ、市界尾根をさらに北に向かう。引き続きアップダウンが続く道で、尾根道という感じではない。アップダウンだけならいいが、地面が微妙に斜めっていて大変歩きにくい。唯一の救いは、高宕山・三郡山を結ぶ主要な尾根であるので案内標識が豊富にあることで、市界尾根を外れるとテープさえほとんどなく踏み跡も心許ない。

景色の開けたところで小休止を入れつつ、茶立場分岐まで来たのは午後1時45分、笹子塚から50分だからほぼコースタイムだが、バスの時間まであと50分しかない。この分岐では東西南北に道が分かれていて、そのまま北上すると高宕山、左(西)に折れると関豊に下りる。豊英ロマンの森へは右折(東)だ。

豊英への登山道は電子国土にはちゃんと載っている道なのだが、WEBでは直接ロマンの森に抜ける道は廃道という情報もある。かなり心細いのだが、とりあえず案内標識は新しいし、標識すらない関豊への道より安心だろうと思って、右に折れる。バスの時間があるので、迷っているヒマはない。

そして、最初は分かりやすい尾根道なのだが、やがて植林地に入ると赤テープ頼りの心細い道になった。何とか植林帯を抜け再び尾根道に復帰して安心する。徐々に危なっかしいトラバース道に入る。ロープの引いてある急傾斜もある。

蛇だか折れた木だか分からないものが道の真ん中にあってびっくりして間もなく、日当たりのいいところでEPIガスを使ってお昼を食べている登山者に出会った。主要尾根から外れたこんな登山道にも人は来ているんだなあと思う。そのすぐ後、地下足袋を履いたおじいさんに抜かれた。この道はそれなりに使われているようである。

そして、そのままおじいさんに付いて行ければ問題なかったのだが、大変に足が速くて置いて行かれてしまった。それでも、茶立場分岐から20分ほど歩いたあたりで下にロマンの森が見えた。おじいさんが行ったから道があることは確かなので、何とかなりそうだと安心する。後から考えると、こういう時にこそ慎重にルートを確認しなければならなかったと思う。

ずっと尾根を進んできたルートが、再び樹林帯に入る。さきほど下に見えたロマンの森からそんなに距離はないはずなのに、それらしき施設は見えないし、道もはっきりしない。テープすら見えない。踏み跡をたどっているうちに、車の音が聞こえてきた。どうやら、国道の近くにまで来ているようだ。

このあたりで地図を出して確認していれば何の問題もなかったのだが、そのまま下りて国道の脇まで進んでしまう。国道のこちら側は高い崖がコンクリで補強されているので下りられそうにない。横を見ると細い隙間がトンネルの上まで続いていて、国道のあちら側に抜けることができるように見える。そこからは舗装道路が下りてきているので何とかなりそうではある。

それにしても、この時は、引き返したらバスに間に合わないという頭があったので、典型的な遭難パターンに入っていたといえそうである。房総だからいいけれども、他の山域でこういうことをしていると大変危ない。反省しなければならない(後から考えると、この時通ったのが廃道なのだろう)。

トンネル上に至る隙間道は道のように見えていたけれども、灌木や野いばらが茂っていて大変苦労する。おかげでウルトラライトダウンにかぎ裂きを作ってしまった。トンネルの真上はそれほど苦労なく通れたけれども、そこから先はなんと道がない。下の道路までは10mほどの高さがある。ロープを出して懸垂下降するという手はあるが、どんなものか。

踏み跡らしきものを進んでみる。どうにも先に進めない。これは困ったと立ち止まってあたりを見回すと、目の高さにコンクリの排水溝がある。こういう人工物があるということは、ここまで来る道もあるはずだと思ってよく探すと、さらに少し上に擬木の柵のようなものが見える。助かった。急傾斜ではあるが、あそこまで登れば普通の道に復帰できる。

急いで登って柵をまたぎ、舗装道路に出る。時刻はすでに3時35分。小走りで国道まで下りる。国道まで出て分かったのだが、さきほど上を通ったトンネルはロマンの森から2つ目のトンネルだったのだ。もうバスの時間だが、まだ来ていないようだ。ここまで来て行かれるのは厳しいなと思いながら、トンネルを駆け足で急ぐ。

ロマンの森停留所まで来た時にはバスの時刻を5分ほど過ぎていたけれども、まだバスは来ていなかった。ベンチに腰かけて、息を整える。たいへん危ない橋を渡ったけれども、何とか予定通り下山できたようである。8分遅れで来たバスに乗って、木更津駅まで戻る。先ほど破いたダウンから、羽毛がはみ出してきて大層困った。

 


三角点のある笹子塚ピーク。ただし展望はありません。


茶立場分岐で道は4つに分かれる。ロマンの森方向はやや心細いが、とにかく案内標示はあり、この後にも人に会ったので、それなりに歩く人はいるようです。


急傾斜でロープも出てくるが、問題はそこではなく、植林帯で道が分からなくなることでした。山の上の方は何とかなったのだが、ロマンの森が見えてから大失敗。

 

この日の経過
長狭中学校バス停 9:35
10:40 国道尾崎分岐 10:45
11:30 市界尾根(昼食) 11:50
12:30 笹子塚 12:50
13:45 茶立場分岐 13:45
14:40 ロマンの森バス停
(GPS測定距離 11.1km)

[Apr 10, 2017]