059 鐘ヶ嶽 [Mar 12, 2017]


この図表はカシミール3Dにより作成しています。

3月になって暖かく、また日も長くなった。冬の間は房総を歩いたけれど、春になればもう少し標高の高いところも歩いてみたい。とはいえ、1000mを超えるとまだまだ雪が残っていそうなので、2年前に行ったことのある大山・梅の木尾根に行ってみることにした。

前回は日向薬師から梅の木尾根778pまで登り、キャンプ場まで下りてくるコースを歩いた。ほとんどがバリエーションルートで、最後の下りは凶悪な急傾斜であった。さすがにあそこはもう行きたくない。少し気になったのは右から合わさってくる尾根があって、標識には「鐘ヶ嶽方面」と書いてあったことである。

鐘ヶ嶽は梅の木尾根の北にあるピークで、561.1mの三角点がある。登山口である広沢寺方面へは行ったことがないので、そちらから登って鐘ヶ嶽からいったん尾根を下り、また登って梅の木尾根に合流し、クアハウス山小屋に下りて風呂に入って帰るという計画を立てた。

広沢寺方面へのバスが3時間に1本しかなく、8時厚木バスセンター発に乗るためには5時の始発電車に乗らなくてはならないが、それは仕方がない。という訳で、3月12日日曜日の朝一番で新宿経由本厚木へと向かったのでありました。

8時発広沢寺温泉行きのバスは、ハイキング客で満員。仕方なくシルバーシートに座らせてもらう。リハビリセンターや七沢温泉を経由して、40分かけて鐘ヶ嶽バス停に到着。しかし、ここで下りたのは私だけであった。身支度してバス停脇の道を案内標示にしたがって進む。すぐ前に見えているのが鐘ヶ嶽に違いない。

村落を5分ほど進むと、大きな鳥居があり登山道はそちらの方向に延びている。鳥居に彫られた文字を読むと、文久年間に建てられたもののようだ。文久といえば幕末。よくこれだけの工事をする余裕があったものである。扁額の銘は浅間神社。鐘ヶ嶽頂上に祀られている神様である。

石段の上から登山道が始まっている。道幅が広く、ごつごつした岩もなく、歩きやすいハイキングコースである。鳥居と同様に文久年間と彫られた丁石が置かれている。下から一丁目、二丁目と増えていくが、頂上が何丁目か分からないのが玉に傷である。

最初は急坂だったが、七丁目あたりで尾根に乗り、そこからしばらくなだらかな登りとなる。風もなく、暖かでたいへんに気持ちがいい。と思っていたら、頂上近くへ来て胸を突くような急階段が現れた。はるか上まで続いている。200までは数えたが、断続的に続くので数え切れなかった。

この石段を登り切ってようやく浅間神社。到着は9時55分、ということは登り始めて1時間10分である。標高差400mを1時間ちょっとというのは、私にしてはなかなかのハイペースであった。冬の間も定期的に山を歩いていたのがよかったのだろう。うれしいことである。

そのすぐ上が鐘ヶ嶽の頂上になる。浅間神社まで頂上で大騒ぎするグループの声が聞こえてきたので、その連中が下りて来るまで待つ。すると下りてきたのは、白装束、山伏のような姿の年寄り男女の集団であった。山の神様を拝むのは感心だけれど、あんなに大騒ぎする理由が分からない。房総でも丹沢でも、大騒ぎ集団に出会うのは残念である。

頂上に登ると、小学生の男の子2人を連れたお父さんが休んでいた。こちらは白装束集団とは違って、静かに休憩していた。さて、梅の木尾根に向かうにはいったん尾根を下って、山の神峠という場所まで下りなくてはならない。

 


バス停からみた鐘が嶽。バス停の名前はなぜか鐘ヶ「獄」、バスは満員でしたが下りたのは私だけ。


快適なハイキングコースが続くが、最後は江戸時代・文久年間に作られたらしい急階段が続く。奥多摩の愛宕神社を思い出した。白く見えるのはロープ。


麓から1時間と少しで鐘ヶ嶽頂上へ。左の石像は持ち物からすると不動妙王だが、髪型や衣装は日本の神様のようにも見える。

 

10時15分、登ってきた方向とは逆側の尾根を下る。こちらの道は広沢寺温泉から登ってくる道で、温泉までは一般登山道なので標識もしっかりある。ただ、道が乾いて傾斜が急なのでたいへん滑りやすかった。標高差で150mほど下る。秋に釈迦ヶ岳を登った頃はこうした登り下りが嫌で仕方なかったが、最近はそれほどてもなくなったのは進歩である。

ここらあたり、小ピークを丹念にたどる道と、トラバースする巻き道の分岐が頻繁に出て来て、いつの間にか分岐を見逃してしまわないか神経を使う。基本は巻き道を進むが、心細くなるような道もあり、その場合は安全策で忠実に尾根をたどる。

30分ほど歩くと、景色の開けた分岐点に着いた。ここが山の神峠らしい。山の神はどこかと探すと、すぐそばのピークに小さな祠が建っているのが見えた。さて、道案内はというと、右の道も左の道も広沢寺温泉に行くことになっている。そして、まっすぐ進むはっきりした踏み跡には、何の方向表示もない。標識をよく見ると、そちらの方向に、マジックで大山方面と書いてあった。

さすがバリエーションルート。きちんとした行先標示はない。それでも、方向的にもこちらで合っているので先に進む。道はすぐにきつい傾斜となり、すぐ横が崖という一般登山道とは明らかに違うレベルになった。ただし、踏み跡ははっきりしているし、赤い頭の杭がずっと続いているので迷うことはないように思われた。

計画段階から、この日のメインは鐘ヶ嶽というよりも、いったん下ってから梅の木尾根への登りだと思っていた。標高もそちらの方が高いし、一般登山道とバリエーションルートという違いもある。そう思って覚悟してはいたのだが、実際に登り始めると傾斜が非常にきつい。この反対側のキャンプ場への下りがきつかったのだから、こちらも同様に急傾斜なのだろうか。

しばらく登っていると、先ほど登った鐘ヶ嶽のピークが下に望めるようになった。さらに急傾斜を息を切らせながら登って行く。鐘ヶ嶽から梅の木尾根までは、バリエーションルートなのでガイドブックに載っていないし、コースタイムも不明である。ただ、地図上でみると登山口から鐘ヶ嶽までと同じくらいなので、1時間ないし1時間半とみていた。

山の神峠から40分ほど苦しい急傾斜を登ると、左から尾根が合わさってくるのが見えた。あれが梅の木尾根に違いない。最後のひと登りで分岐点に到着。右が大山方面への道、左が展望広場への道と案内標示があった。

大山方面に行くとさらに登りだから、左の尾根へ折れる。少し進むと3、4人休めるくらいに広くなったピークがあった。11時半なので、ここでお昼にすることにする。北方向に展望が開けて、たいへんに眺めがいい。誰か通ると邪魔になるかなと思ったが、休んでいる30分ほどの間誰も来なかった。先ほどのバリエーションルートでも、ひとりすれ違っただけである。

さて、結果を先に言うとこの尾根は梅の木尾根ではなかったのだが、この時点で(というよりは下山するまで)梅の木尾根であることを全く疑っていなかったのだから、たいへん危ないことであった。

その最大の理由は、この日は1/25000図だけで数値データを持ってきておらず、このところ習慣としてきた現在位置の確認もしなかったのである。梅の木尾根は2年前に歩いたので大丈夫と思っていたためだが、少し考えればバリエーションルートなのだから当然データは必要だし、慣れた山と思っても現在位置確認は必須である。このところ、こんな山歩きばっかりである。油断してはいけない。

 


鐘ヶ嶽から標高差150mほど下って山の神峠へ。案内標識には広沢寺温泉への下りしか表示がないが、マジックで大山方面と書いてある。


さすがにバリエーションルート、傾斜もきつく途端に難易度が上がる。踏み跡はしっかりしているので、迷うことはない(と思ったが)。


息を切らせて急傾斜を登る。さきほど登った鐘ヶ嶽の頂上より上に来た。

 

お昼休憩をしたピークの案内標示には、「弁天見晴」とテープで貼ってあった。ここで道が二つに分かれていて、東へ進むと見晴広場方面、南に向かうとすりばち広場・キャンプ場と書いてある。見晴広場なんてところに行ったかなとは思ったが、キャンプ場方面だと以前通った例の急傾斜になりそうなので、東に向かう。地図上でみても、東が正解のはずである。

12時になったので出発。そして、見覚えのある(実は違う)やせ尾根を抜けたので、ますます梅の木尾根であることを信じ切ってしまったのである。ロープが付けられた急傾斜の下りが連続する。こんなところを登ったんだ。登りは下りよりも傾斜を意識しないからなあ、などとお気楽に考えていたのだが、実はいよいよ窮地へと向かっていたのだった。

二、三十分歩いた頃、もう一度分岐になり、再び南がキャンプ場方面、とある。こんなに南への分岐があったかなあと不安になる。もしかすると、昼食休憩のピークから南に下るのが正解だったのかもしれない。それでも、尾根を東に向かえば下山はできるはずだ。標高は間違いなく下がっているし。

二度三度とロープ付の急坂を下る。しばらく雨が降っていないようで、地面は乾ききっている。1週前に首都圏ではまとまった雨があったはずだが、このあたりは降らなかったのだろうか。その後は、鹿除け柵に並行して進む。柵が老朽化して登山道の方に傾いていて歩きにくいし、反対側がトラバースの急斜面で危ないところもある。なんとか通過する。

開きっぱなしの鹿除け柵をくぐらされる。その頃になって、赤く塗った杭をしばらく見ないことに気がついた。それでも、ちゃんと道になっているし、足跡も最近のもののように見える。またもや、「キャンプ場→」の表示。今度はちゃんとした木製の案内標示ではなく、バリエーションルートによくあるかまぼこ板に書いたような表示だ。さすがに迷うが、初志貫徹で東に向かう。

土管に枯れ枝を差したような目印(あとから調べると「下弁天」という地点)を過ぎ、あとは赤テープを目印に下る。急斜面の伐採地だ。梅の木尾根もこんなふうになったのか、と見当違いなことを考えながら散乱した杉の葉っぱを踏みながら下る。赤テープが張ってある木はあるが、そこはもうすでに道ではない。いつかの房総を思い出した。

困ったな、と周りをよく見ると、下の方に茶色の地面が見える。ブルドーザーで作ったばかりのような道である。あそこまで下りれば、なんとかなりそうだ。すでに目印となる赤杭も赤テープもないので、通れそうな斜面を転ばないように下る。伐採した杉の枝や葉で地面も見えないので、踏み抜かないように注意して進まなければならない。

何とかしてブルドーザー道の脇まで来たが、そこから道に下りる場所がない。背丈ほどの高さで切り立ってしまっている。ここまで来て戻る訳にもいかないので、柔らかそうな場所を選んで思い切って飛び降りる。幸いに、足をくじくこともなく下りることができた。あとはここを下るだけである。汗を拭き、身支度を整えて歩き始める。まだお昼休憩から1時間と少し歩いただけだった。

ブルドーザー道をしばらく下ると、車両通行止めのゲートがあり、そこから先は普通の林道になっていた。ゲートあたりから上に、「見晴広場↑」のきちんとした案内があったから、本当はこちらに下りてくるのだろう。どこかの地点で、「キャンプ場方面」に進まなければならなかったようである。

林道を歩いている時点では、梅の木尾根を下りてきたつもりだったので、川沿いまで下りればケアハウスのあたりに出るだろうと思っていたのだが、舗装道路まで出た先の標識には、「ナイスの森↑」の案内があって、はじめていま下りてきたのは梅の木尾根ではないと気がついた。ひとつ谷を挟んだ尾根を下りてきてしまったのだ。

帰ってから調べたところ、今回下りてきたのは弁天御髪(おぐし)尾根である。梅の木尾根以上の、むしろ廃道に近いバリエーションルートであった。確かに、先ほどの尾根を登れと言われるとかなり厳しい尾根であったが、最後の伐採地を除けばしっかり道はできているし、危険度は山の神峠からの登りとほぼ同じくらいである。

それよりもその時心配だったのは、バス停までどうやって歩くかということであった。もうひと山越えて日向薬師まで行くのもつらいので、広沢寺温泉まで歩き、さらにバス便の多い広沢寺入口まで2km歩いた。広沢寺入口近くの七沢荘に着いたのは2時10分過ぎ。たいへん危険な道を来た割には、それほど時間を食わなかったのはありがたいことであった。

 


梅の木尾根に乗ったと思って昼休み。立派な案内標識がありますが、ガイドブックにも点線すら載っていないバリエーションルートです。


梅の木尾根はこんなところだったか?と思いながら滑りやすい急傾斜の道を下る。


赤テープを追っていったら、最後は伐採地で道がなくなる。ブルドーザー道に飛び下りてようやく一安心。この時点でもまだ梅の木尾根だと思っていたが、帰って調べたら弁天御髪(おぐし)尾根であった。

この日の経過
鐘ヶ嶽バス停 8:45
9:55 鐘ヶ嶽浅間神社 10:15
10:40 山の神峠 10:45
11:35 弁天見晴(昼食) 12:00
13:15 林道 13:15
14:10 七沢荘
(GPS測定距離 9.4km)

[Jan 30, 2017]