010 本埜村リコール始末記 [Feb 9, 2010]

私の住んでいる千葉ニュータウン・本埜村(もとのむら)がいま大変なもめ事となっている。本埜村はニュータウン事業前の人口が3000人ちょっとの小さな村。そこに、ニュータウン住民約5000人が流入して、当時人口増加率日本一の地方自治体となった。それでも人口9千人程度の小さな村が、全国紙に載るほどのリコール騒動となっているのである。

そもそもの発端は、前回の村長選挙で、現村長が前職を破って村長となったことである。その折の公約が「合併推進」、つまり、以前から検討されてきた近隣市村との合併を積極的に推進しますと約束して、ニュータウン有権者の支持を集めたのである。

前職の村長は、村の旧家の出で、河野洋平だったかとにかく自民党の重鎮の秘書を勤めた後、帰ってきて村長になった。対する現村長は、村議会議員だったものの支持基盤は全然足りない。そこで、ニュータウン住民の票を集めるために「合併推進」を掲げた訳である。そして合併に消極的だった前職を破り、念願の村長に当選したのであった。

自分なら何とかさばいてみせると思ったのか、それとも村長になってしまえば何とかなると思ったのかは分からないが、実際に村長になってからやったことは、合併評議会をサボタージュしたり、必要な手続きをとらなかったり、公約とは反対のことばかりである。

本当のところ、市町村合併の目的は「行政コストの削減」であるから、もともとの「村」にとってプラスになることはない。役場や外郭団体という雇用もなくなるし、わずかとはいえ公共事業だってある。村長も村議会議員も、合併したらいらなくなってしまう。公約したとはいえ、いざとなると二の足を踏むのも無理はない。

しかし結果として、村議会から不信任決議を食らってしまう。対抗して村議会を解散したのはいいが、出直し選挙の結果は反村長派が前より増える始末。議会を召集すると、再度の不信任決議で自動的に失職するからそれもできず(12月までやってボーナスをもらいたいという説もある)、並行して進められていたリコールが発効して、とうとう今週リコール投票が告示されてしまった。

「村」でも支持基盤が弱く、「ニュータウン住民」の怒りを買ってしまった村長のリコールが成立するのはほぼ確実な情勢であるが、個人的に思うのは、村長の個人的資質とか、合併の是非という本質論はともかくとして、村の人達の考えていた選挙とニュータウンの人達の考える選挙は、実はぜんぜん違うものだったんだろうなーということである。

日本のどこでも、おそらく農村における選挙というものは、政策とか公約とかは関係なく、誰が当選するかは投票する前から決まっているというのが実情ではなかったかと思う。だから本来、前職の旧家出身村長が何回でも再選される予定であって、現村長が取って代わることなどありえなかったのである。

しかし、新しく入ってきたニュータウン住民にとって、選挙とは政策とか公約によって誰に投票するかを決めるものである。その結果、現村長が当選するという予定外の事件が起こってしまった。ところが、当選してしまえば好きなようにできると思っていたにもかかわらず、「それでは公約の実現よろしくお願いします」ということになった。

現村長の頭の中では“村長様”だから、「政策?公約?何言ってんだ。俺が村長なんだから、俺の言うとおりにしろ」ということであるが、ニュータウン住民にとって村長などサービス産業の店長くらいの認識しかない。ましてやこの地区には、大企業役員OBやら、新聞記者OBやら、高学歴高職歴の方々が男女問わずごろごろしているのである。

とても口では敵わない上、選挙をやっても数で負ける。手続き面もばっちりで、今回も不信任とリコールの両面作戦で退路をふさがれてしまった。

なんだか、戦前の農家で、借金をこさえて出奔した長男の後を継いだ次男坊が、「俺が今日から総領だ」と威張ってはみたけれど、都会から来た弁の立つ借金取りに形にはめられてしまったようで、なんだかかわいそうでもある。

また、村長になるため「合併推進」などと言ってしまったことで、村の人々の支持をさらに減らしてしまったのも気の毒である。現村長の本業は村の商店主であり、その店にニュータウン住民が買い物に行くことは皆無である。村の人たちが「あそこで買うのは止めとけ」となってしまって、ダメージは相当なものと想像されるのである。

 


小さな村なので、必要な署名が集まってしまいました。村長リコール投票日案内の横断幕。

 

有馬記念当日のリコール投票日が迫り、本埜村の村長リコール騒動もいよいよヒートアップしてきた。通勤途上の駅でビラ配りをする人がいたり、国政選挙並に選挙カー(?)が走り回ったり、それぞれ支持固めに大変である。本ブログのコメント欄にも「前村長」が登場するほどの盛り上がりである。

新聞報道によると、村議会を開かないことについて村長は、「いま村議会を開催すれば私の不信任案が成立して村長不在となり、村政が停滞する」「村議会議員の資質にも問題がある」、だから、「地方自治法に違反していようが、森田健作知事が何を勧告しようが、私は間違っていない」と言っているとのことである。

さらに、「合併云々などということは、私の関知するところではない。新しい村長のもとで、やってもらえばいいことだ」とも主張しているようである。もちろんニュアンスの違いや記者の誘導とかはあるのだろうが、思うに、後の時代にも残るものにこうした発言をしてはいけない。子孫が恥ずかしい思いをする。

こういう場合は嘘でもいいから、「私の信念として、このままなし崩し的に合併が行われることが正しいとは思わない。村民のみなさんも、もう一度よく考えてほしい。」「リコール投票が行われるからといって、面白半分に私の名前に○を付けることはやめてほしい。もう一度、この村がなくなってもいいのかどうか、よく考えて投票してほしい」と言うべきなのである。

ところが実際にやっているのは、選挙管理委員会を裁判で訴えたり、新聞記者に筋の通らないことを主張したりするばかりである。リコール賛成派が主張するように、もともと村長としての資質がなかった人なのかもしれない。おそらく、リコールが成立する確率は90%を超えて、いまや100%に限りなく近づきつつあるといえるであろう。

ただ正直なところ、村長の資質の問題はひとまず置くとしても、合併をめぐる論議は少々ピントがずれている。全国のみなさんにお知らせするのも気が引けるのだが、都市計画税が増えるとか、国民健康保険料だの住民税が増えるの減るの、村を走っている私鉄の料金を下げさせるといった、まことに卑近な論点で議論が行われているのである。

せめて、村の行政サービス水準はどうなのか、保育所や介護サービス、福祉施設は村だけのもので十分なのかといった議論になるべきところ、全然そうはならない。私自身、隣村のスポーツ施設へ行くと倍の利用料をとられるし、隣の市の図書館では住民でないので予約ができない。そうした行政サービスの不備について、両陣営ともあまり気にしていないようなのである。

そして本来、合併の是非は、共同体としての村がこれまで有してきた歴史、風土、文化を他の共同体と一緒にすることがいいのかどうなのかという観点から語られるべきなのに、寡聞にしてそうした議論を耳にしたことはない。

「村」の住民にせよ「ニュータウン」の住民にせよ、メッセージを発信すべき立場にある人達が、カネ勘定でしか合併の是非を考えられないような共同体であるならば、そんなものを単独で残しておいても意味がないということなのだろうと勝手に理解しているのである。

[Dec 21, 2009]


役場の出張所が投票所。「千葉県本埜村長の解職投票」は、経費節減のためかワープロ打ちでした。

 

とうとう、リコール投票の日がやってきた。この日までに村長が自ら辞職するか、あるいは村長が選挙管理委員会を訴えていたリコール差し止めの仮処分が認められれば投票は行われなかったのだが、そういうことはなく、淡々と投票日の27日となった。

リコールなどということは教科書には載っていたものの、なかなか実際に行われることはない。いやしくも地方自治体の首長であるからにはそれなりの支持母体があるはずだし、首長も住民のほとんどを敵に回すような施策は取らないのが普通である。しかしわが本埜村では、その両方の条件を充たす(充たさない?)首長が出てしまった。

有権者の1/3の署名を集めると、住民からリコール請求が可能となる。その場合、担当は選挙管理委員会になるので、国政選挙等と同じ取り扱いになる。

したがって期日前投票もできるし、毎日防災放送で、「27日は、本埜村長解職投票日です。みなさん棄権せずに投票しましょう」とアナウンスされてしまう。村の放送で村長をクビにしてくださいと言っているようなもので、かなりシュールである。

おそらく一生に一度とない機会なので、有馬記念の勝馬投票をすませた後に、村長の解職投票に出かける。リコールとはいえ、普通の選挙と同じである。役場の職員や選管の立会人がいる。投票用紙には賛成・反対の欄があって、どちらかに村長の名前を記入する。村長の名前を暗記しなければならないところが、今回のミソである。

投票後の午後9時から公開開票が行われるのでぜひ見に行きたかったのだけれど、その晩から今年最後の出張が入ってしまい、後ろ髪を引かれる思いで電車へ。こんなローカルな開票結果をどうやって知ったらいいんだろうとちょっと不安になる。しかし、その心配は無用だった。全国紙のニュース速報で、その夜のうちに結果が判明した(だから出先で更新できるのである)。

当日有権者6817名で、投票率は60.98%。リコール賛成が3645に対し、反対はわずか448。リコール成立の要件は投票の過半数なのに、有権者の過半数が賛成してしまうという圧倒的大差である。

この大差はもちろん合併に対する住民の意思ともとれるが、それ以上に、村長の個人的資質に関する要素が大きかったのではないか。自分で村議会を解散しておいて、選挙の結果が思わしくないと議会を召集しない。リコール署名が集まると、それは無効だと訴訟する。リコール告示後のマスコミ対応をみても、あまりまともではない。

リコールが成立し、次は出直し村長選である。前村長となった小川氏は再び立候補の構えを示しているが、この圧倒的大差を見て考えが変わらないのかどうか。選挙となれば運動もするのだろうが、どんな顔で住民の前に出てくるのか。それ以前に、今日中に村役場の私物をちゃんと片付けるのか。これからも前村長の動きに目が離せない。

[Dec 28, 2009]

 

先般お伝えしたわが本埜村のリコール騒動、最後のイベントである出直し村長選が先週日曜日の2月7日に行われた。

立候補したのは2名。このブログにも登場した、前の前の村長と、新人である。お騒がせの、9割以上のリコール賛成票を集めてしまった前村長は、結局立候補しなかった。(念願の村長にも一度はなったし、当選する見込みはないし、ということであろう)

前村長のリコールを受け、すでに村役場は合併手続きを進めており、このまま行けば3月23日には印西市に編入されるので、残り任期はわずか43日間である。それならば、合併に異議を唱えないという前提で、前・前村長がやるのが最も効率的であろう。普通みんなそう思うだろうから、無風選挙で決まると思っていた。経費がもったいないから、無投票でもいいくらいである。

ところが、対抗馬として立った新人氏は、村の出身者であるが、なぜか隣町の職員であったという。この隣町は、もともと合併には関わりがない。なんでいきなり、村長選にも出たことがなく村議会議員でもない新人が出てきたのかと不審に思っていたら、なんとニュータウン選出の古株の村議会議員が応援しているらしい。

前にも説明したように、村の人口は約9千人。村とニュータウンがほぼ半分半分で、かつては村の固定票ですべてが決まる世界だったのが、いまではニュータウンの浮動票が帰趨を決することになる。

そこで、村長在職中はほとんどニュータウンに顔を見せることのなかった前・前村長(元村長ともいうが・・・)が、なんと連日にわたってニュータウン村民の通勤駅である印西牧の原の駅頭に立ち、地道に応援を呼びかけていた(初めから、こうしていればよかったのに)。前・前村長の応援には、新顔の村議会議員(合併推進派)が付いた。どうやら、リコール賛成派も分裂したようであった。

かたや新人氏も、負けずに駅に立ち、選挙カーを走らせる。選挙当日には、なぜか自転車で投票所の回りをうろうろしていた(選挙違反にはならないのだろうか?)。せっかくなので今回も選挙に行ってきたのだが、リコール投票の時とは打って変わって、投票所はひと気がなく閑散としていた。これならば、村の固定票で決まるだろうとちょっと安心。

(個人的には、合併に関することは旧・村民の意思が尊重されるべきだと考えているので、ニュータウンの浮動票で結果が変わるのは好ましくないと思っている。)

こうしたどたばた選挙の結果であるが、前・前村長が2090票に対し、新人氏が1609票とかなりの接戦で、なんとか前・前村長が逃げ切った。この票差では、前の選挙のように横着を決め込んでいたら、危ないところだったかもしれない。

巷間の情報では、前村長がサボタージュしている間に合併作業は遅れに遅れており、新しい住所がどうなるのか、役場や出張所、住民票や印鑑証明、税金・社会保険その他の手続きがどうなるのか、住民には全く知らされていない状況である。

新・村長にはそれほど引継ぎの時間はいらないだろうから、新しいことをやるよりも(循環バスの復活とか言っているのだが、そんなの後回しで)、とりあえず必要な手続きを間違いなくやってほしいものである。住民の切なる願いである。

[Feb 9, 2010]