034 まだ経済成長するんですか? [Jun 10, 2013]

久しぶりの「骨太の方針」が徐々に明らかになってきて、安倍自民党政権は引続き経済成長を目標に掲げる気配である。こうしたことに関しては、私自身いくつか思い出がある。今から30年近く前、まだ銀行員をやっていた時代のことである。

当時は支店で貸付の仕事をしていて、担当する取引先の業績見通しや、担保の状況を精査して、どのくらいの融資ならば貸し倒れリスクを最小限にとどめられるかというような書類を作っていた。その場合、リスク・ミニマムが原則だから、取引先の売上・利益の伸びはあまり大きくは見込まない(GDPや消費者物価の伸び程度)というのが、保守的な考え方であった。

ところが、当時支店の偉い方のいわく、「○○君、売上の伸びがこれだけってことはないだろう。取引先は販促努力もしてシェアをどんどん上げていくんだから、もっと伸びるという積りで考えてもらわなければ困る。」書類を作り替えさせられて、その取引先の融資枠は大きく増やされることになった。

売上を伸ばすということは、多くの場合販売経費をかけたり他社より安く売るということだから、売上高利益率は下がることになる。ところが書類上は同じ利益率で計算するから、20%の売上増だと利益も20%増、あっという間に融資可能額は倍になってしまう。そうやってどんどん貸し込むことにより、成績を上げるというのが偉い人の考え方であった。

その方はいい大学・いい学部のご出身の方で、そうやって成績を上げることにも熱心だったけれど、その後役員になったという話も聞かないので(もっとも私がその銀行をやめてしまったが)、それほどご出世された訳ではないようだ。もちろん会社で偉くなったから幸せということではないのだが、「この人はいい大学を出たのに頭は悪いんだ」と思われただけの見返りは得られなかったということである。

何をいいたいのかというと、経済を成長させる(狭義では会社の売上高を伸ばす)という計画は結果としてそうなればいいということであって、最初からそれを見込むというのは何か他に意図があると疑った方がいいということである。

昔の偉い人は、取引先の売上を多く見込むことによってたくさん貸付ができるようにした。いまの偉い人は高い経済成長を見込むことによって何をしようとしているかというと、少なくとも予算上は、税金がたくさん入ってくるので国家財政は健全ですよという形を見せたいのだろうと思う。

現在、国債の発行残高は約700兆円である。一方で、税収は約42兆円である。世帯収入420万円の家庭が7000万円の借金があるということで、そういう家もまれにはあるだろうけれど、全世帯すべからくその状態というのはありえない。ところが日本国はそういう状態で、国債の利払や償還(期限がきたら返さなくてはならない)のために、約44兆円、税収以上の新規国債を発行して何とかやりくりしている。

ここで経済成長が止まると、税収が伸びないからますます借金を増やさなければならない。以前は国債の主要受入先は銀行や生保、郵貯であった。つまり、おじいさんおばあさんの世代が使わずに貯めたおカネが国債を買い支えていたということである。7000万円の借金があってもその大部分が親からだったら、破たんしない。だからこの家計で持ったのである。

ところが、さすがのおじいさんおばあさんもそれほどの余力はなくなってきた。だから、それ以外のところ(市場)に国債を買ってもらう必要がある。ところが、市場ではなるべく安く買うというのが鉄則だから、結果的に国債価格は下がって金利が上がる。金利が上がって利払いを増やせば支出(国債費)が増えるから、最初に戻って借金を増やさなければならない。

ある意味、以前に民主党政権の言っていたことの方が本質的に問題解決に向かっていて、支出を削減し税率を上げるのがまっとうなやり方なのである。ところがそれを言うと選挙に負けるから、自民党政権は死んでもそれは言えない。だから経済成長というフィクションを前面に掲げて、自分でも分かっているウソで乗り切るしかないのである。

そもそも、日本の人口は減っていて、若い世代の可処分所得も昔より減っていることは明らかだから、いまから経済成長するとしたら海外市場を開拓する以外に方法がない。400年ほど前に、戦国時代が終わって日本国内の市場がなくなり、海外派兵をしたときの状況とよく似ている。海外市場を開拓するということは、その分海外の人が割を食うということである。

経済成長のフィクションは読み物として読ませてもらい、われわれはもっと地道に自分の足下を見ないと厳しいと思う。

[Jun 10, 2013]