044 人手不足時代がやってきた? [Jan 20, 2015]

暮れに行われた総選挙で安倍内閣が勝ったので、引続きアベノミクスによる経済運営が行われるようだ。一昨年アベノミクスが始まった頃、ブログで書いた「経済暴論」は、自分で言うのも何だがいま読んでもよく書けている経済分析である。ところで、最近身近でちょっと気になることがあったので以下のとおり付け加えてみることとした。

家の近所に印西総合病院という病院がある。内科以外にも眼科・耳鼻科・整形外科さらにはメンタルヘルス科とかいろいろやっている(いた)し、ここの薬局がいつもすいているので利用させてもらっていた。ところが、昨年の秋に民事再生法を申請したのである。現在も細々と診療を続けているようだが、売却先も決まったようなので今後どうなるのか予断を許さない。

この病院の設立に関しては、他に土地はいくらもあるのに高いUR(旧・住宅公団)の土地を買ってみたり、もともと我孫子の産婦人科医院なのに分不相応に大規模な施設を作ったりして、経営者の判断が大甘だったことは否定できない。だが、それはそれとして、病院いうところの経営破たんの言い訳がなんと、「医師が集まらず収入が確保できなかった」というのである。

つまり、多くの診療科を作ると宣伝していたのは、医師を確保するルートが初めから確立していたからではなく、カネさえ出せばいくらでも出張してくれるだろうと思っていたらしいのである。もともとが産婦人科だから、内科とか婦人科にはツテはあったはずなのだが、大学病院でもない限り安定的に、比較的安価で、多くの診療科で質の良い医師が確保できるはずがないのである。

駅ひとつ先の日本医大北総病院はドクターヘリがあり、「救命救急」などのロケでも使用されている有名病院である。この病院が多くの診療科を開くことができるのは、母体として日本医科大学があり、キャリアの浅い医師をローコストかつ安定的に確保できるからである。景気が悪いとはいえ医師がじゃぶじゃぶ余っているなどということはないし、そもそも社会的階層が高い人達の子弟だから条件が悪ければ働かないとみる方が真実に近い。

医師だけではない。最近は老人福祉施設でヘルパーの数が集まらずに、せっかくの施設がフル稼働できない事例が増えているという。こうした施設では空きベッドの待機者が列をなしているにもかかわらず、サービスができないのでこれを断っているらしい。

もちろん、多くの福祉施設はイジキタだから、最初は人員が確保できなくてもベッドを埋めていたようだ。ところが、労働条件の悪さ(夜勤、長時間労働、休みが取れない等)から職員が次々と辞めてしまい、補充人員を募集しても誰も応募して来ず、さらに労働条件が悪化して退職者が続くという悪循環となり、やむなく新規の利用者受け入れを中止しているというのが実情のようだ。

病院にせよ福祉施設にせよ、サービスを提供する人はフルタイムの正職員とするのが原則である。労働市場において買い手有利が20年以上続いていることからみんな忘れているけれど、正職員でフルタイム、副業禁止というのは別に雇われる側に恩恵を授けようというものではなく、そうすることで労働力を安定的に確保するという雇用者側の事情がもともとの趣旨である。

「人手不足倒産」という言葉も昔あったように(最近また使われている)、設備投資を行うためには資本だけでなく、設備を動かしていく熟練労働者が必要なのである。そのことを忘れて、労働者はカネを払えばいくらでも手に入ると思うこと自体、大いなる勘違いである。これからますます新規大卒者が減るので、こうした傾向はさらに目立つことになるだろう。

生身の人間を「人材」などといって代替可能・金額換算可能とみなしてカネ儲けしてきた人達にはお気の毒な話だが、自業自得で全く同情の余地がない。唯一心配があるとすれば、これから先私自身が福祉サービスを受ける立場となった場合、その費用が急騰するおそれがあるというだけである。その意味では、どうなっても自力で生きていく覚悟だけは必要になりそうだ。

[Jan 21,2015]