315 東大寺法華堂 [Mar 3, 2009]

室生寺に行ってから、もともとは違う目的地を考えていたのだけれども、気が変わって東大寺に向かった。理由の第一は泊まりが新大宮(近鉄奈良の次の駅)だったことだが、室生寺の階段の多さに足ががくがくしてしまい、あまり距離が歩けそうになかったことと、金堂の仏像群がちょっとアンバランスだったため、きちっとした仏像を見たくなった、ということがある。

東大寺法華堂(三月堂)の本尊、不空羂索観音(ふくうけんさくかんのん。高校生の頃は、ふくうけんじゃくかんのん、と習ったが・・・)は、私が好きな仏像ベスト3に入る仏様である。観音様(観世音菩薩)は、法華経(妙法蓮華経)に登場するスーパーマン(ゴッド?)で、そのためこの仏様を祀っているお堂を法華堂と呼ぶのであろう。

ちなみにベスト3のうちあとの二つは、法隆寺金堂釈迦如来と、唐招提寺鑑真像。3つのうち2つが脱乾漆造(漆を乾かして色付けした像)であり(法隆寺釈迦如来は金銅造)、同じく脱乾漆の興福寺阿修羅像も結構好きなので、脱乾漆好みといえるかもしれない(奈良時代の仏像は、金属がすべて大仏に行ってしまったため、脱乾漆が多い)。

法華経によると観世音菩薩は、「困った時(断崖絶壁から落とされそうになった時、荒海で龍に襲われそうになった時、毒を飲んでしまった時、等々)、この仏様を呼べば、たちどころにピンチから救われる」と書いてある。ウルトラマンやマグマ大使、鉄人28号のもともとの発想は、おそらく法華経の観世音菩薩である(スーパーマンは日本でないので違うだろう)。

仏教の六道輪廻の6つの世界に、観音様はそれぞれ姿を変えて現れるが、この不空羂索観音は人道の観音様であるとされる。人間界担当である割に、聖観音(地獄)、千手観音(修羅)、十一面観音(餓鬼)などと比べると、あまりポピュラーではない。

お水取りで有名な二月堂はこの時期でも結構人が多いが、法華堂は閑散としている。拝観料を払って中に入ると、私の他に二人しかいない。近くから遠くから、見放題である。まず内陣のぎりぎりまで進んで拝んだ後、後方の段になっている所に腰掛けてゆっくり見させていただく。

こういう時思うのは、例えば奈良時代や平安時代に、これらの仏像をこんな近くで見ようとしたら、相当な身分と莫大な寄進がないと無理だったに違いないということである。21世紀の今日、わずか500円でこれだけの仏様を間近にほぼ独り占めできるのだから、幸せという他に表わすべき言葉がない。

 


平成21年2月の東大寺三月堂。何か分からないが工事中。

 

不空羂索観音(ふくうけんじゃくかんのん)の特徴は、目が3つあるということである。普通に二つ並んだ目と直角、額の中央に縦についているのが「第3の」目である。この目は、内陣ぎりぎりに近づいてようやくなんとか確認できる程度。どちらかというと眉間の縦じわのように見えなくもないが、よく見るとしっかりと目である。

ただし、他の二つの目とは違って、表情が読み取れない。仏像の目は基本的に、どの方向から見ても自分の方を向いているように作られているが、額の目についていえば、どこも見ていないようにみえる。

左右の手は4組。合掌した一組は胸元へ、開いた左右のてのひらは、それぞれ肩、腰、ひざの高さに伸ばされている。造形的にも均整がとれたすばらしい仏像だが、それに加えて特筆すべきなのは、その威圧感である。

大抵の観音様の場合、どちらかというと「聖観音(しょうかんのん)」系のやさしいお顔をなさった仏様が多い。代表的なものとして薬師寺の金銅聖観音菩薩像があげられるように、なんとなく観音様というと女性的なイメージを持ってしまう(もちろん男性)。だが実際の観世音菩薩はウルトラマンであるから、この不空羂索観音のように睨みをきかせているべきなのだ。

そして、左右の脇侍仏が、日光菩薩・月光菩薩。この一対の菩薩像が、本尊不空羂索観音と絶妙のコンビネーションなのである。全く気負わず、やや微笑さえ浮かべたような表情で不空羂索観音のやや前方に位置し、まるでメインイベントに臨むチャンピオンを先導するセコンドのように見える。

そしてその外側には、梵天と帝釈天、いずれもお釈迦さま以前から古代インドで祀られてきた神々で、仏教に帰依し、その守護神となったとされる。これらの仏像も一対で意味がある。そして、内陣の四方に置かれているのは、持国天・増長天・広目天・多聞天の四天王。やはり仏教を守護する神々である。

ここまでの仏様が、なんとすべて国宝である。それぞれにちゃんとした意味がある仏様が、あるべき配置に納められている。仏像は、こうあるべきであると改めて感動する。

お堂の壁沿いに作られた段差に腰掛けて法華経の世界を体感する。外が寒いので、いつまでながめていても空気は冷たく張りつめたままなのも、冬の仏像鑑賞のすぐれたところである。

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東大寺南大門。ご存知、鹿の群れ。

[Mar 3, 2009]