110 関門人道トンネル [Aug 4, 2016]

本州・九州間を歩いて行ける手段があると知ったのは、太川・蛭子の路線バスの旅によってであった。関門トンネルに並行して、人が通るためのトンネルがあり、しかもそこは国道だという。これはぜひ通ってみなければと思っていた。せっかく赤間神宮・安徳天皇陵まで来たので、そこから先そんなに距離はないはずである。

と思ったら、それほど短くもなかった。何しろ出張中なものだからバッグが重かったのが一つ、もう一つは7月の炎天下、午後3時というたいへん暑く激しい日差しの中だったということが原因である。

トンネル入口は頭の上に見えている関門橋のあたりだろうと思って海に沿って歩いたのだが、15分ほど歩いたのにそれらしき施設は見えない。とうとう橋の真下を通り過ぎてしまった。仕方なく、向こうから自転車に乗ってきたお年寄りに手を挙げて、「海の下を通るトンネルの入り口はどこですか」と尋ねなければならなかった。

「向こうに見える信号の手前で横断歩道を渡ると入口だよ」と親切に教えていただく。帽子を取って御礼を申し上げる。その間にも激しい日差しが遠慮なく真上から照りつける。頭も首も背中もすでに汗びっしょりである。

やがて海側の歩道は広くなり、芝生の植わっている公園になった。「みもすそ川公園」というようだ。そういえば路線バスの旅で、蛭子さんが「みもすそ川?」と運転手に聞き直している場面があったことを思い出した。

ちょうど公園の前あたりが壇ノ浦の戦いの主戦場であったらしく、大きな石碑が立てられている。また、芝生の上では錨を持って相討ちを狙う平知盛と、八艘跳びで窮地を脱する源義経の銅像が睨みあっている。

壇ノ浦の戦いはご存じのとおり平家が全滅したのだが、よく考えると平家方は女連れ・子供連れで動きが制約されるのに対し、源氏方は100%兵士であり、しかも舟の漕ぎ手を狙うという当時の常識からは外れた奇襲作戦を取った。関門海峡の速い潮の流れも加わって、ひとたび形勢が源氏方に傾くと、あとは一方的になってしまったのではなかろうか。

さて、そんな感傷にひたっている暇はないくらい、遠慮なく太陽は照りつけてくる。信号を渡り、「関門トンネル人道」の建物へと急ぐ。それでも、もしかしたら地下には自動販売機がないかもしれないと思って、入口近くの自動販売機でペットボトルの水を買ったのは正解だった。心配したとおり、エレベーターから先には全く自動販売機はなかったからである。

建物の入口には2基のエレベーターが地下まで通っている。その深さは50mほどあるようだから、ほぼ地下10階くらいに相当する。エレベーターを下りてもそれほど涼しくはなかったが、それでも日が差さない分、地上とはずいぶん違う。とりあえず、ベンチに座って汗を拭く。目の前には、九州側へと延びる歩道がはるか遠くまでまっすぐ続いている。

 


関門橋の下、壇ノ浦海戦の銅像の立つ「みもすそ川公園」前の横断歩道を渡ると、人道トンネルの入口。


エレベーターを下りると、門司側へと続くトンネル歩道がまっすぐ続く。右上に標識があるように、ここは国道2号線になる。そのためか、歩行者は通行料はかからない。

 

しばらく座って汗を拭いた後、いよいよ人道トンネルに向かう。気のせいか、トンネルの奥から涼しげな風が吹いているような感触がある。この道の上には車道が通っているというが、歩道なので幅はかなり狭い。その中を、時折自転車やオートバイを押して歩く人がいるのは、国道ならではというところか。

地下までエレベーターで降りなければならないので、使用時間は午前6時から午後10時までに限られている。それでも、観光客だけでなく、地元買い物客と思われる人や、ジョギングしている人もいるのは、国道ならではといったところだろうか。

4~500m歩くと、山口県と福岡県の県境となる。県境とはいっても、歩道に線が引いてあって壁に下関市・北九州市のマークが書かれているだけだが、観光客のみなさんはここで記念写真を撮っている。

そしてこの歩道、門司側のすぐ近くまでは下り坂が続き、平らになった頃には向こうに門司側のロビーが見える。門司側まで歩いて10分かからないくらい。今回は重い荷物を持っているので2、3回休んだが、身軽なら楽ちんで往復できるだろう。

エレベーターで地上に上がるのは下関側と同じである。私の通った時たまたまだったのかもしれないが、門司側は下関側よりも人が多くて、その人達のほとんどは待っていた観光バスに乗り込んで駅方面に走り去って行った。私はというと重い鞄を何とか持って路線バスのバス停に着くと、なんと、バスは1日に数本しかないのであった。

そういえば、太川・蛭子もここから駅まで歩いたんだっけ、と思い出し、再び歩き始める。今度は右手に関門海峡を望み、向こう岸は本州である。景色はいいのだが、登り坂である。そして、トンネルの中ではないので、再び激しい日差しが真上から照りつける。一度引いていた汗が再び吹き出してくる。

あまりにつらいので、横を走っている線路に列車が通らないかとはかない期待をいだく。ようやく登場した駅の時刻表を見るのだが、悲しいことに休日しか運行していない。再び重い鞄を下げて、門司港駅に向かってとぼとぼと歩を進める。

このあたりは昔来たことがあって、「メディカルセンター」と書いてある大きなビルまで行けば駅はすぐのような気がしていたのだが、それは大きな勘違いで、そこから先さらに1km近く歩かなければならなかった。帰ってからGoogle Mapで調べてみると、トンネル出口から門司港駅までは2.5kmもあった。小一時間かかったのも無理はないのであった。

幸いに、門司港駅には折り返し電車が止まっており、すぐに涼しい車内に入ることができた。その頃には、ワイシャツからズボンからびしょびしょに濡れてしまっていて、ホテルに着いて全部着替えなければならなかった。おまけに、このホテルにはコインランドリーが見当たらなくて、仕方なくバスルームで洗濯しなければならなかったのは、たいへん悲しいことでありました。


門司に向け、ひたすらまっすぐ続く人道トンネル。門司の直前まで、ゆるい下り坂になっている。


人道トンネル門司側出口。ここまで海底を1km弱。長かったのはむしろこれからで、炎天下をJR門司港駅まで2.5km!

[Aug 4, 2016]