212 沢田マンション [Nov 14, 2016]

今回の四国お遍路で、高知市街を歩くにあたり楽しみにしていたのは、沢田マンションであった。

沢田マンションは「日本の九龍城」と呼ばれるが、本家本元の九龍城が取り壊されてしまったので、いまやこちらが本家ということになる。ただ、実際行ってみると、屋上のクレーンなど少し違和感のある建物ではあるが、一見して分かるようなディープ・スポットではない。むしろデザインに凝った、きれいな建物という印象である。

はじめ、高台から薊野(あぞうの)方面を遠望すると、コンクリに黒く苔が生えた建物が見えたので、あれが沢田マンションに違いないと思って近づくと全く別のビルだった。ただし、方向としては一緒なので、そのまま西に進むと沢田マンションになる。思ったよりも街中にある。すぐそばに片側2車線の県道が通り、洋服の青山やヤマダ電機、ファミレスなどロードサイド店が間近にある。

東から近づくと、細い柱を継いだ上に物見やぐらのような構造物が乗っかっていて、そこに「沢田マンション」と書いてあるのが見える。建物全体が抜けるような白でペイントされている。古いコンクリの建物だと、大抵カビとか苔が生えてうす汚くなっていることが多いのだが、こちらはきちんと手入れされているのだろう。

入口付近には、テナントであるのか、合気道教室や雑貨店のような案内掲示があるものの、基本的には一般の住宅である。となると、あまり近くで写真を撮るのもはばかられる。生活の場だから洗濯物や掃除用具が置かれているのは当り前で、むやみに立ち入ればプライバシーの侵害である。

外から見る限り、建物が傾いている訳ではないし、狭い部屋がひしめいているようでもない。上の階に上がるスロープはショッピングセンターのようだし、どの階もオープンスペースが広々としていて緑があり、風通しもよさそうである。お掃除もきちんとされていて、ゴミが放置されているということもない。

なのになぜ、ここがディープスポットと呼ばれているかというと、この建物はオーナー夫婦が独力で建てたもので、設計図面も建築確認もない、お手製のビルだからである。WEBによると、オーナー夫婦に建設業や不動産業の経験があり、自ら地盤を深く掘って基礎工事をして、家族総出でコンクリを打ち、徐々に増築して現在の姿になったという。

さて、日本の法律は大原則では財産の私有を認めているから、自分の土地にどのような建物を作ろうが本来は自由である。建築基準法等々は、公の権威によって私有財産に規制をかけるものであるから、最低限にすべきという考え方がありうる。とはいえ、地震とかで崩壊して住民や近くの人に迷惑をかけるといけないから、最低限の規制は必要とはいえる。

だから、土地の持ち主が自分の土地に、設計図面がなく、建築確認もとれていない建物を作ること自体は妨げられないし、現実的にそういう建物はない訳ではない(山小屋とか忍者屋敷とか)が、これだけ大きな規模となると、おそらく他にほとんど例がないと思われる。これだけの建物を作る技術やノウハウがないということが一つと、借金をせずに作ることが難しいからである。

建築確認がないということは建物の登記もできないから、必然的に土地・建物を担保にして借金をすることもできない。だから、ほとんどすべての再開発案件は、建築確認なしですますということができない。ところが、この沢田マンションは、もともとオーナー夫婦の不動産業の一環としてやっていたものだから、借金なしですべて賄えてしまったものと思われる。

とはいえ、現実にこうして建物が建っていて中に賃借人もいる訳であるから、行政が全くタッチしていないということはないだろう。登記はないけれども、現地を確認して固定資産税や都市計画税の対象にはしているはずである。あるいは、立入検査くらいしているかもしれない(設計図面がないので構造計算はできないが)。そのあたりは、田舎だから微妙なバランスをとっているものと思われる。

そうしたことも含めて考えると、日本の九龍城というよりも、私有財産制と公的規制のはざまにある物件ということもできそうである。すでに建築に携わったオーナーは亡くなっており、いずれは取り壊されることになるのだろうが、長い目でみると建築確認があろうがなかろうが、すべての建物はいずれ取り壊されるのである。


JR薊野駅から歩いてすぐ、大通りからも見える立地に日本の九龍城は屹立している。


上の階に向かうスロープは、まるで郊外のショッピングセンターのよう。ただし、設計図面及び建築確認なし。


大通りからみた沢田マンション。片側2車線の県道のすぐ近くなので、資産価値は高そうだ。

[Nov 14, 2016]