412 熱海赤線地帯跡 [Jun 20, 2014]

その昔、赤線という風俗地帯があったらしい。らしい、というのは売春防止法によって赤線が廃止されたのが1958年であるから、まだ私が生まれてすぐくらいのことで確かにはわからない。 その赤線の遺構が熱海にあるということを知ったのは、B級スポット情報に詳しい雑誌「ワンダーJAPAN」の2012年1月号である。

そもそも熱海に途中下車すること自体がほとんどない。過去の記憶をたどると、子供が小さい頃に勤め先の保養所に泊まってMOA美術館に行ったのと、伊豆大島に飛行機で行くつもりが欠航になり、あわてて東海汽船の熱海発に乗ったくらいである。今回は出張の合間、ちょうど1時間くらいぽっかり空いてしまったことから、思いついて行ってみたのであった。

熱海駅前から適当な通りを市役所方面に向かう。どの通りも旅館街や飲食店街となっているものの、残念ながら人通りがあまりない。海に向かって下って行くので、曲がりくねっていて意外と距離がある。また、道路の幅があまりないのに、車だけがひっきりなしに通るので歩くには不便である。

通りを15分ほど進むと、大きな消防自動車が止まっている消防署につきあたる。右に折れれば市役所に行く。左に折れて下れば海岸沿いの道である。さてここからはよく分からないが、川沿いに海岸方向に下りて行く路地に飲み屋の店名が数多く掲げられている一画があったので、そこを入ってみる。

昼日中なので誰も通っていない。だが夜になればにぎやかになるかというと、おそらくそういうこともないような気がする。典型的な地方都市の飲み屋街である。社内旅行や官官接待がなくなって、寂れたまま今日に至っているようだ。左右を見ながら進むと、モルタルに昔の遊郭の名前(つたや)が薄く残っている例の写真の建物に出た。

「ワンダーJAPAN」には一般住宅になっていると書かれていたが、あたりが飲み屋街、それもおば(あ)さんママが一人でやっているような店の雰囲気なので、少なくとも普通の住宅には見えない。掃除機の音が聞こえるところをみると人は住んでいるようだ。あるいは、格安家賃でボンビーガールが住んでいるのだろうか。

ひと通りがないので、写真は気兼ねせずに撮ることができた。モルタルに浮彫りになっている「千笑」、字が消えかけている「つたや」など、ワンダーJAPANに載っていた遺構はごくごく近くの一角にある。ただしよく見ると、新しくモルタルを吹き直している建物も多く、かつてはそれらしい装飾だったのではないかと思われた。

ものの5分も経たないうちに見学終了。かつては数十軒もの遊郭がひしめいていたということだが、いまでは歴史の中に忘れ去られかけている地域である。もう一度バブルが来るならば、間違いなく再開発されてしまうだろう。しかし、しばらくはバブルは来ないし、日本の人口は減少しつつある。あるいはこのまま朽ちていくのかもしれないと思うと、ちょっと寂しかったりする。

 


名高い熱海赤線跡の「千笑」。建築後60年以上を経過し、いまでは飲食店の経営も行っていないようです。


右のスナック亜(つたや跡)の家紋や、左ピンクの建物のレリーフも、当時のものということです。

[Jun 20, 2014]