917 野付半島と北方領土 [Aug 22, 2012]

この間ギリヤークを見に行った次の日、根室から道東をドライブしてきた。

道東の中でも野付半島は非常に好きなところで、もう何回も行っている。とはいっても、最後に行ったのは子供の小さい頃なので、十何年か前のことだ。多少は変わったかなと思っていたら、全然変わっていなかった。むしろ寂れてしまったのではないかと思われるくらいだった。

根室の先にある日本最東端のノサップ岬と、道東のシンボルともいえる知床半島。野付半島はこの2つのちょうど中間点にある。北方領土の国後島とはわずか16kmの距離にあり、はるか昔江戸時代の終り頃には、野付半島と国後島との間に航路があった。

その渡し船が出ていたのは「アラハマワンド」という場所で、今は漁協管理で潮干狩の場所として使われているようだ。その砂浜には、かつて港にあった建物の残骸が埋まっていて、よく探すと家財道具やら食器やらが出てくるということである。行ってみたい所なのだが、残念ながら1日がかりになってしまうのであきらめる。

代わりに訪問したのが別海町の道の駅「おだいとう」である。ここは近年できた施設で、展望台からは16km先の国後島がよく見える。北方領土に関連する資料も多く掲示されているほか、返還に向けた署名簿も置かれている。

北方領土問題は私が北海道に行き始めた40年前には相当盛り上がっていたが、いまや竹島や尖閣諸島に押されて全国的な扱いは決して大きくはない。とはいえ北海道には戦前に北方領土に住んでいた人も多く、先祖の墓地も残されているため、今なお喫緊の課題となっている。

北方領土問題のウェイトが下がったのは私のみるところ2つの要因が大きい。一つは、高度成長期が終わりバブルも崩壊して、日本の経済力が低下したことである。かつて日本は世界第二位の経済大国であり、日本・ソ連間に平和条約が締結されれば、多大な経済援助が期待できた。いまやそうしたメリットはあまり期待できない。むしろ経済水域を縮小することはロシアにとって大きなデメリットとなる。

もう一つは、やはり「ムネオ問題」であろう。北方領土はおそらく帰ってこない。しかし、帰ってくる可能性があると言い続けることによって、それを商売にする人がいる。誰が考えてもうさんくさい話だが、そこに鈴木宗男が絡むとさらにうさんくさい。実際に便宜を図ったり利益を得ていたのであるから、北方領土問題自体、うさんくさい話にされてしまった。

それに、もしいま北方四島が返還されても、インフラも整備されていない島に帰る人がどれだけいるのだろうか。仕事はあるのだろうか。それにいま現在、北方四島に住んでいるロシアの人たちはどうするのだろうか。そうしたことを考えると、北方領土問題を解決する環境は、40年前と比べて相当に厳しくなっているような気がした。

 

北海道の根室、稚内あたりでは、今なお北方領土問題が喫緊の課題となっている。道の駅にある「叫び」と題された像は、親子三代が16m先の四本の柱に向かって戻るように叫んでいる。16mは国後島との距離16kmにちなむとのことだ。


野付半島からは、国後島がはっきり見える。南部にある泊山(うっすらと写っている)はもちろん、なんとか北部の爺々岳(ちゃちゃだけ)も見ることができる。

 

野付半島にとってもう一つ指摘される問題は、かつてその代名詞でもあったトドワラが、いまやほとんどなくなってしまったことである。

野付半島はオホーツク海に突き出た砂嘴(さし)で、簡単にいうと両側を海に挟まれた土地である。もっとも狭いところでは道路のすぐ外側が右も左も海というすごい状況になっている。しかし、もともとはもう少し陸地の方が広かったところに、段々と海が浸入しているのである。

だから、かつてトド松の林であったところに海水が入ってきて、これが立ち枯れしてしまったのがトドワラである。立ち枯れしたトド松は白く脱色し、次々と倒れていく荒涼たる景色であった。このトドワラが有名だったのが高度成長期、以来数十年が経過し、かつてのトドワラはほとんど全部が倒れてしまった。

海の浸入はいまも続いていて、かつてのトドワラがこうであったろうと思われるのがナラワラである。ここは、ミズナラの林の中に海水が入ってきて立ち枯れているもので、下の写真に見られるようにまだまだ数多くの木を確認することができる。しかし、こちらも年々減ってきていることは間違いない。

観光資源という点で考えた場合、いずれトドワラ、ナラワラがなくなってしまうことにより野付半島のネームバリューはかなり下がってしまうことになると思われる。もちろん、北方領土に一番近いという地理的優位性は続くとしても、海抜0メートルからだけではそれほど迫力ある景色という訳ではない。

そうなった場合に、いまでさえ少ない野付半島を訪れる人がますます少なくなるのかどうか、そうなったとして、それはいいことなのかよくないことなのか、つらつら考えてしまう。個人的には、歩くことができる程度に遊歩道が整備されていれば、かえって人が少ない方がいいのだが。

ちなみに、ここ特産の北海しまえびは美味。私のおすすめは、素揚げにして頭から食べてしまう食べ方である。

さて、トドワラ入口にあるネイチャーセンターから1kmほど進むと、そこからは一般車立入禁止区域である。人が入ってはいけないとは書いていないので、数百メートル先の竜神崎まで歩く。藪の中に、紅色のハマナス、黄色のエゾカンゾウ、藍色のノハナショウブがそれぞれ満開で、目を楽しませてくれる。

何十年も前から北海道各地に原生花園はあるのだが、観光地化されるとあまり面白くない。その大きな要因は、花を見に来たのか人を見に来たのか分からないというところにある。だから、こうやって人の来ないところで野生の花たちを見るのはとてもうれしい。人が来なさすぎて、車のすぐ横までエゾシカが近づいてきたのにはちょっとびっくりしたが。


かつてのトドワラがこうであったと思われるナラワラ。立ち枯れた白い幹が、荒涼たる風景を形作っている。


野付半島の先端にある竜神崎。一般車両はここまで入れないので、交通手段は徒歩だけとなる。

[Aug 22, 2012]