111 金沙娯楽場(サンズカジノ) [Jun 30, 2005]

マカオにおけるサンズカジノの登場は、大げさに言えば世界のカシノ市場におけるコペルニクス的転回(この言い回しも古いか)となる可能性がある。そのくらい大きな影響を与えたできごとであり、現在もその余震は確実に続いている。

サンズカジノはフェリーターミナル(港澳碼頭)から歩いて7~8分、香港から到着する際にその金色の巨大な姿が間近に迫ってくる。無料のシャトルバスも出ているが、雨さえ降っていなければフローティングカジノ、マカオパレス(皇宮娯楽場)の前を歩いていく方が気持ちがいい。

右手にゴールデンドラゴン(金龍娯楽場)をみて、工事中のマカオ・フィッシャーマンズ・ワーフ(澳門漁人碼頭)を過ぎると、もうサンズの前庭である。エントランス側の壁面もやはり金色で、大画面ディスプレイが配されている。これまでマカオにはネオンサインはあったが、大画面ディスプレイは初めてで、ここがマカオであるということを忘れてしまいそうな風景である。

中に入ると、巨大な吹き抜け空間である。1階は当初は案内と会員サービスだったが、オープン後しばらくして陸側にカシノフロアが増設された。長いエスカレーターを上ると、これまた巨大なカシノフロアである。バカラを中心にブラックジャック、大小、ルーレット、カリビアンスタッド、ファンタン、三公百家楽など300以上のゲームテーブルが置かれている。そのほかにスロット類もあるが、あまり人気はないようだ。

食事はカシノと同フロアに麺粥屋があり、さらにエスカレーターを上がると世界一といわれる広さのバフェ、ステーキハウス、広東料理店などがあるので、その気になれば一日中サンズの中で過ごすことは可能である。ただし、たいがいの人はその気にならないと思われる。混み方が尋常ではないし、大音量のBGMやライブを1日中やっているので、うるさくて仕方がないからである。

マカオにおけるサンズの最大の功績は、カシノを「やらせてやる」ものから「やっていただくもの」に変えたというところにある。サンズ以前のマカオに行った人は誰でも、ディーラーの横柄かつ無愛想な態度、クレームすら許さない強制的なチップの徴収、需要に対して供給が極端に少ないことによる慢性的混雑、といったことに理不尽な思いをしてきた。サンズの登場は、これらを一気に改善し、本来あるべきサービスという観点をマカオのカシノ業界に持ち込んだのである。

 


金龍前歩道橋からのサンズカシノ。

 

サンズカジノの2つ目の功績は、新しい形のカシノのスタンダードを示した、ということである。狭義では、ローカルルール満載のマカオに世界標準ルールを持ち込んだという意味であるが、より広い意味で、世界に対してカシノのありうべきイメージを提案した、ということである。

世界のカシノマーケットの主要顧客としては、ヨーロッパの王侯貴族、アメリカの大金持ち達と並んで、というかそれ以上のウェイトを中国系顧客が占めるのはたぶん間違いのないところであろう。欧米の顧客が好んできたルーレット、ポーカー、BJといったゲームに代わり、サンズではバカラが中心となっている。それも圧倒的なシェアである。多分、足して9というのは中国系賭人にとって最もしっくりくるのではないだろうか。

バカラの中でも、従来その中心を占めてきたビックバックと呼ばれる14~16ボックスを2~3人のディーラーでさばくという大バカラ卓ではなく、1人のディーラーが8ボックス程度をさばくミディバカラと呼ばれる卓がそのほとんどを占めている。マカオ以外ではミディバカラの場合、ディーラーオープンかつノンコミッション(バンカーの5%コミッションなし。ただし6で勝った場合のみ配当は1:2。全然ノンコミッションではない)が普通であるのに、絞りあり、コミッションは通常である。

地理的にも中国系顧客を最大のターゲットとするマカオにおいて、バカラ中心の戦略は当然のことともいえる。今後、世界のカシノは、ポーカートーナメントを中心に据えていくものと、サンズをモデルにしたようなバカラ中心のものとが、増えていくのではないかと思う。その意味で、サンズはまさに世界の最先端をいくカシノのビジネスモデルである、といえるのではないか。

もう一点サンズの功績を付け加えると、24時間営業の本当の良さを感じさせてくれるということである。サンズ以前のマカオのカシノも、もちろん24時間営業だったのだが、正直なところリスボア近辺は身の危険こそ感じないものの風紀がよろしいとはいいにくいところがあり、真夜中にカシノをはしごする、といったことはしにくかった。

ところが、サンズからギャラクシー、ゴールデンドラゴン、カーサリアルに至る一角は、真夜中でも人通りが絶えることはなく、カシノ内でなくても24時間営業の食堂も近くにあり、まさに夜中じゅう遊ぶことができ、かつツイてない時には河岸を変えることも容易である。最近、上野(東京都、当たり前か)で徹夜明けに朝食を食べられるところを探したがどこにもなかったのと比べると、ずいぶん便利である。

今後、ウィンマカオ、グランドリスボア、ハイアット別館、ベネチアンなどマカオには大型カシノの計画が目白押しであり、あと5年もすれば、マカオがラスベガスに肩を並べることも夢ではない。繰り返しになるが、その意味でサンズの登場は世界のカシノマーケットにおいて大事件ということができるのである。

実際に、2008年にはマカオのカシノ売上はラスベガスを上回っている。

[Jun 30, 2005]