921 旭岳自然探勝路[Jul 28, 2014]

今回の北海道では、旭岳ロープウェイに乗ってみることにした。旭岳は大雪山系の主峰であり最も標高が高いことで知られているが、もう一つ、例のトムラウシ遭難の際、アミューズトラベルの一行がここのロープウェイから出発したのである。時期的にも7月上旬と同じであり、将来自分も歩いてみたいと思うコースでもあることから、いろいろ参考にできるはずである。

旭川から平坦な道を東川というところまで進み、そこから山道になる。人家もないが、ドライブインなどの観光施設もない。追越し禁止のカーブが続く道で標高を上げていくと、突然左右にこぎれいな建物が現れる。旭岳温泉街である。温泉街といっても、みやげ物店や食べ物屋がある訳ではなく、ひたすらホテルと旅館が続く。ロープウェイの駅は、温泉街の一番奥にある。

ロープウェイは15分に一本の運転で、駅はたいへんきれいである。往復で3000円近くかかるのにはたいへん驚いたが、こんな山奥にこれだけの施設を維持するのだから、やむを得ないのかも知れない。山麓から中腹の姿見駅まで、およそ10分。眼下に人工物が何もない原生林の上をゴンドラが進んで行く。

このロープウェイ、始発は午前7時頃で、旭岳からさらに奥に向かう登山客で一杯になるのだそうだ。例のアミューズ一行もそうしてトムラウシに向かった。姿見駅より先、40km以上の行程には、避難小屋しかない。年寄りが歩くには、厳しいコースである。そして、エスケープルートがほとんどなく、歩き始めたら終点まで行くかスタートに引き返すしかない。

私もいつか行きたいとは思うけれど、一番ネックになるのは道中にまともなトイレがないらしいという点である。一泊なら何とか耐えるけれど、二泊はどうなのか 。荷物の重さやヒグマも心配だけれど、今のところトイレ問題が最大のネックである。もともとキャパシティ以上に入れ込むことが問題なのだから(少人数なら目立たないところでとか)、入山料を取ってきちんとトイレを設置するのが本筋だと思う。

さて、ロープウェイを下りると、目の前は早くも雪渓である。あたりは濃い霧で、長袖がちょうどいいくらいの肌寒さである。姿見駅は標高1600mくらい、稜線にあがると1900から2000m位になるから、さらに寒くなる。大雨でずぶ濡れになり、さらに強風の吹きさらしに長時間いたというパーティーが、低体温症に陥ったのも無理はないのであった。

さて、ロープウェイ駅から右に進路をとり、姿見の池を通って旭岳に向かうのが登山客用ルートであるが、観光客用には高低差があまりない自然探勝路が用意されている。このルートは駅から左、双子池から噴気口を通って姿見の池に出て、そこからロープウェイ駅に戻る1時間半ほどのコースで、登山用の装備がなくても特に危険がないように整備されている。

まだ雪渓は残っているものの、その下からは雪解け水の流れる音が聞こえる。遠くからは低いエンジン音のような音も聞こえるが、これは噴気口から吹き出す蒸気の音であった。

 


7月上旬の旭岳は、ロープウェイ駅付近ですでに雪渓がある。向こうに見えるのは噴気孔。蒸気の吹き出す音が響いています。


この時期は、チングルマ、メアカンキンバイ、エゾコザクラなど高山植物が開花して、白、黄、ピンクのかわいい花を咲かせています。が、ガスって見晴しはあまりよくない。

 

さて、旭岳ロープウェイは日本で唯一、森林限界の上まで走っているロープウェイだそうで、姿見駅を下りるとハイマツなどの低木と高山植物しかない。まだ観光シーズンにはちょっと早いので、この日は自然監視員の人達も何人か登ってきていて、ベンチの状況とか雪の解け具合を見ていたようだった。

ほぼ平坦とはいっても若干のアップダウンはあり、足下がほとんど岩でできた散策路を登って行くと、いくつか展望台が用意されている。あいにく、この日は霧の中で見通しがほとんど利かない上、時々すごい勢いで白い霧のかたまりが押し寄せてきて数メートル先さえ見えなくなる。大雪山系では道迷いの遭難が多いのだが、なるほどこういう状況なのかと思った。

(十数年前に、地面に「SOS」の形に倒木を並べたまま行方不明になった事件があったが、ここの近くである。)

散策路の周辺には雪渓が残り、雪のなくなったあたりは高山植物が花盛りである。白のチングルマ、黄色のメアカンキンバイ、ピンクのエゾコザクラ、エゾノツガザクラが草原に広がっている。ガーデニングされた庭園もきれいだけれど、こうした自然のままの姿もいいものである。まだ人が少ないせいか、散策路の足下、岩の間のわずかな隙間に咲いている花もかわいらしかった。

自然探勝路は、夫婦池と呼ばれる第一の池群落まで進み、90度折れて姿見の池方向に向かう。折れずにそのまま進んでしまうと、登山道に入ってしまうので、「ここからは登山装備が必要です」と看板が立っている。それ以上に「この先クマ出没注意」の看板も強烈なので、なかなか進む人もいないだろうけれど。

姿見の池に向かう途中に、噴気孔がある。ここからは硫黄分を含む蒸気が勢いよく噴出している。ロープウェイ駅のあたりからエンジン音のような重低音が響いていたのが、実はこの音だったのである。すぐ近くまで行けるので、噴気孔が黄色く染まっているのも見えるし、硫黄臭も感じられる。しかし深い霧が近づくと、わずか十数m先なのに見えなくなってしまうのだ。

このあたりからはすでに姿見の池が見えている。池のほとりには旭岳石室と、鐘(かね)が置かれている。この鐘は、以前ここで学生さんの大量遭難があった際に建てられたものだそうで、何人かロープを引いて鐘を鳴らしていた。北海道のクマ生息地にはこういう鐘が多く置かれており、少なくともクマ除けにはなるものと思われる。

旭岳石室は非常時専用で、普段は使用することはできない。使用を無制限に認めてしまうと、ロープウェイの最終便で上がってきてここに泊まる連中も出てくるだろう。中には十人程度しか入れない上にトイレがないから、原則使用禁止もやむを得ないと思われる。造りは頑丈で、相当の突風にも耐えられる。

ここから先、旭岳頂上を経てトムラウシ方面の登山道に進むと、少なくとも二泊三日かかる行程に対して、建物はこの石室と似たり寄ったりのものが2、3あるだけ。キャンプ指定地はあるけれどトイレはなく、水場は煮沸要のところだけなのである。相当山慣れたパーティーが少人数で行くならばともかく、商業目的のツアーが大人数連れて行くところでないことは明らかである。

深田さんという人が「日本百名山」に選んでしまったからみんな来てしまうのだけれど、繰り返しになるがオーバーキャパシティがすべての原因なのだから、入山料をとってきちんと整備するというのが本筋だろう。いまはヘリが使えるのだから、シーズン始めにトイレを設置してシーズン終わりに撤去することも可能なはずだし、ある程度の物資は上で買えるようにした方がいい。

p.s. 帰ってからWEBをいろいろ調べてみると、大雪山の上の方では、地元山岳会らしき人達が我が物顔で振る舞っていて、数少ない避難小屋でそういう人がいるとあまり気分がよくないという情報があった。丹沢や奥多摩でもそうだけれど、回数を多く来ているだけで人を見下すような連中がいることも確かである。ただし、この日私が出会った自然監視員の方々は、とても感じがよかったことを付け加えておきます。


7月はじめの姿見の池には、まだ雪が残っていました。池の向こうにはかすかに、旭岳に向かう登山客の姿が見えます。


姿見の池に建つ、旭岳石室。避難専用なので、通常時は使うことはできません。

[Jul 28, 2014]