562 CLAMP「ちょびっツ」 [May 9, 2006]

突如として趣きを変えて、最近の作品から。実はこの作品非常に気に入っていて、おそらく21世紀の作品の中で、私にとってこれを上回るものは出ないのではないかとさえ思っている。2000-02年ヤングマガジン連載。

人型パソコン全盛の時代、パソコンにも通信にも全く疎い貧乏バイト学生の本須和秀樹(もとすわ・ひでき)がゴミ捨て場で人型パソコンを拾ってきたことから話が始まる。秀樹によって「ちぃ」と名付けられたパソコンは、実は桁違いの性能と他のパソコンが持っていない”ある要素”を持った、伝説のパソコンだったのである。

テーマは”アタシだけのひと”。感情とは何か、人間と「人間でないもの」との感情の交流は可能なのか、といった疑問を深く掘り下げた作品である。従来からこういうテーマのものはいくつかあって、私が一番印象に残っているのは森川裕美の「荒野のペンギン」。高橋留美子の「うる星やつら」やあしべゆうほの「悪魔の花嫁」もシチュエーションこそ違うけれど同様のテーマであり、さらにはディズニーの「ピノキオ」にまで遡るように思う(ある意味、第二部以降のターミネーターもそう)。

子供の頃は、人間の脳と同じことをコンピュータでやろうとすると丸ビル(昔の)何棟分とかいっていたが、近年のデバイスの小型化・軽量化によって、コンピュータとしての人型パソコンは技術的には難しいものではなくなった。一方、ロボットとしてはまだまだASIMO君程度だけれども、これも近い将来、人間に相当程度近いものができることは想像に難くない。

そうなった場合、人間とどう区別するのか?また作者は、「感情とは、プログラムのようなものだ」という意見に近く、さらに「感情の交流とは、究極的には自分がどう感じるか」ということを示唆しているので、ある種哲学的というか、考えさせられる作品となっている。(全然話は違うけれども、大学の哲学の講義で、われわれが体験していると思っていることは実は洞窟の中から外を見ているだけのことで、自分自身の他には確かに存在するものはない、という考え方を聞いたことがある)最後のところに出てくる「ロボット3原則」はちょっと余計な解釈のような気がするが。

ちぃだけでなく、ノートパソコン(小型の人型パソコン)のすももや琴子などなど、ロリコンアニメおたくにぴったり照準を合わせた絵柄は女性蔑視との批判を受けてもやむを得ないところが多分にあるけれども、私はこの作品の真価をかなり高く評価しており、繰り返すが21世紀最高の作品の一つではないかと思っている。


これは現代作品なので、表紙だけ。その昔「荒野のペンギン」という作品がありましたが、それとはちょっとニュアンスが違うかかもしれない。

[May 9, 2006]