564 業田良家「自虐の詩」 [Jan 31, 2006]

昔「週刊宝石」という週刊誌があった。いまでいうと「週刊現代」と「アサヒ芸能」の間くらいの柔らかさ(グラビアとか)だけど、比較的上品なというか、しっかりした文章を書く雑誌だったような記憶があるが、この雑誌に昭和60年から5年間連載されていたのがこの作品である。ストーリー4コママンガというジャンルがあるとすれば、その草分けであり代表的な作品と言っていい名作である。

主人公の「幸江」(ゆきえ)さんは名前とは裏腹に幸福とは縁遠い生活を送っている。客が来ると押入れに寝なければならないような狭いアパートに住み、仕事はラーメン屋のパート、だがそれ以上に問題なのは元ヤクザの夫「イサオ」が定職もなく、競馬や麻雀で毎日を送っている「生活破綻者」であるということであった。

連載の初めの頃には、このイサオが生活が苦しいにもかかわらず、「でーい!」と星一徹ばりに盛大にちゃぶ台をひっくり返すというだけの作品であったが、話が幸江さんの子供時代に遡ると一気に盛り上がることとなった。母親に逃げられて父親ひとりに育てられた彼女は、当然のように甲斐性のない父親のために、内職をし新聞配達をし借金取りの相手をし、米を「合」単位で買う。それがすべて4コママンガで展開されるのである。

彼女が中学に進み、同じように貧しい「熊本さん」が登場することによって、ストーリーは最高潮に達する。病気の親と小さい兄弟を抱えた彼女は、学校の備品を盗み池の鯉も盗み街灯の電球も盗んでしまうのだが、それでも胸を張って生きている。そういう熊本さんをみんなは仲間はずれにし、幸江も熊本さんを裏切ってしまうのだが、甲斐性のない父親が銀行強盗をすることにより、今度は彼女自身が仲間はずれにされてしまうのである。

この作品が連載された昭和60年頃は、「NTT株公開」や「昭和天皇在位六十年記念金貨」の騒ぎがあり、バブルがいよいよ最高潮に達しようかという時期であった。まだまだ、幸江さんが小さい頃住んでいたような長屋や熊本さんが住んでいた川の上に建てられた家も、多くの人の記憶に残っていた時代である。あれからすでに20年が経過しているが、今読んでも「泣ける」作品ではないかと思う。

ちなみに、作者業田良家はSapioに政治風刺マンガ(当時から書いていた)を連載するなどいまだに活躍中であるが、「自虐の詩」がやはり他を圧倒してすばらしい。あと「執念の刑事」が個人的には好きですが。


週刊宝石なんて知る人も少なくなりましたが、この作品は最近になって、阿部寛のイサオで映画化されました。

[Jan 31, 2006]