565 小林まこと「1・2の三四郎」 [Oct 30,2007]

昭和53年から少年マガジン連載。アントニオ猪木をこよなく尊敬しブレンバスターを得意技とする東三四郎(あずま さんしろう)が、プロレス界で活躍するまでを描くスポーツ漫画である。

本編は3つの部分に分かれており、不本意な形でラグビー部を追われた三四郎が、親友の南小路虎吉、西上馬之助らとともに格闘部を立ち上げ、校内試合でラグビー部を破るまでが第一部、そのメンバーに参豪辰巳を加えて県の高校柔道界を制覇するまでが第二部、上京してプロレス界に身を投じ、空手日本一の鳴海頁二と組んで若手世界一を決めるタッグトーナメント戦で優勝するまでが第三部である。なお、続編である「1・2の三四郎2」ではファミレス店長から復帰した三四郎が、総合格闘技日本一になるまでを描いている。

作者の小林まことは、この中でも特に柔道には思い入れが強いようで、後に「柔道部物語」という作品も書いている。柔道時代の「エビ」「カニ」などの特訓や、「有効は何回取られても一本にはならない」というようなディテールは専門的である。ただ、「柔道部物語」には主人公や登場人物のカリスマ性がなく、分かるんだけれどもそれほど面白くないという印象があるのに対し、三四郎にはカリスマ性があり、そこがこの作品の最大の特徴になっている。

つまり、それまでの少年スポーツ漫画というのは多かれ少なかれ梶原一騎の影響を受けていて、「巨人の星」「あしたのジョー」に代表されるように、「男たるものスポーツは命がけでやらなくてはならない」「努力を積み重ねれば天才を上回る」というコンセプトがあったのに対して、三四郎の体現していたのは「常に本気を出す必要はない」「才能は努力を上回る」という、梶原一騎的哲学とは全く逆の方向性なのであった。

そのことを端的に示していたのが、プロレス編で三四郎の師匠となるプロレスラー桜五郎である(彼の名言が「格闘技に番狂わせなし」である)。桜五郎は京浜東北線鶴見近郊で「ひまわり保育園」を経営するかたわら悪役レスラーとしてリング復帰を志しているのだが、そのトレーニングたるや、平気な顔をして古巣である新東京プロレスよりハードトレーニングをこなすのである。そして、この作品に出てくる対決のほとんどで、努力を重ねるキャラクターは天才三四郎や馬之助の前に敗れ去ることになる。

おそらく高度成長時代には努力はいつか報われると考えても大きな間違いではなかったが、オイルショック後の世界では背伸びをし過ぎることはいつの日か破綻を招くということが明らかになり、天才がそのまま能力を発揮するという物語の方が現実に近いものと認識されるようになったと私はとらえている。

難しい理屈はともかく、三四郎がラグビー界から始まって、柔道界、プロレス界、総合格闘技界を制覇してしまうストーリーは何度読んでも楽しい。気が滅入った時にはぜひお勧めしたい作品である。


第二部では、総合格闘技でブレンバスターを決めてしまう三四郎。その後はまたファミレスの店長に戻ったのだのだろうか。

[Oct 30,2007]