610 さいとう・たかを「2万5千年の荒野」「蟷螂の斧」 [Mar 17,2011]

福島原子力発電所の事件で、ゴルゴ13の最高傑作の一つであるこの作品を連想した人は少なくないと思う。「2万5千年の荒野」ではカリフォルニアの原子力発電所の配管が壊れて内部の圧力が上昇。設計技師の依頼を受けたデューク東郷が、設計図を頼りに配管を打ち抜いてメルトダウンを防ぐというストーリーであった。

クライマックスで、蒸気で曇った建屋の中、配管をめがけて狙撃した後、技師が「何も起こらないじゃないか」と問い詰めるのに対してゴルゴ13のセリフが
「設計図は正確なのか?」
「私が作った設計図だ。寸分間違いない。」
「なら私の仕事は終わりだ」
次の瞬間、配管に穴が開いて水蒸気が噴出し炉内の気圧は下がり始めるのである。

このストーリーでは、原子炉が崩壊すれば風に乗って死の灰がカリフォルニア一帯に降り注ぎ、2万5千年は誰も近付くことのできない荒野になるという意味で、題名が付けられている(25000年とは、プルトニウムの半減期である)。避難命令により退避してきた住民が髪を切られてしまうところや、無人となった街で技師とゴルゴが銀行や銃器店で現金(ゴルゴへの報酬である)や狙撃用ライフルを調達するあたりは、昔の作品なのに非常にリアリティがある。

また、作品の中で「チェルノブイリは数百年は人が住めないと言われたが、そうなっていないではないか」という主張に対し、「チェルノブイリとこの原子炉では、規模が違う」というセリフがあったと思う。これは、今回の福島原発についても同様に言えることであろう。

もう一つ、放射能絡みのゴルゴ作品として、「蟷螂の斧」がある。この作品では、前作「穀物戦争」においてゴルゴ13の一撃により穀物倉庫を爆破され一敗地にまみれた日本人の商社マンが、決済代金である金を輸送中の国際貨物列車を、ゴルゴ13に依頼して核攻撃されたように偽装する。そして穀物市場の乱高下に乗じて大金を手にし、「これで補助金漬けでない、本物の農業をやるのだ」と立ち上がるまでを描いたストーリーである。

この作品の肝は、「金は何物にも溶かされないし変形しても価値は不変であるが、放射能汚染されてしまえば実質的に無価値」というところにある。不勉強なもので、汚染された金が本当にクリアにできないのかどうかは自信がないが、確かに放射能を撒き散らすことになれば資金決済には使えないと思われる。

このように、ゴルゴ13は非常に勉強になるとともに先見性に優れた作品なのであるが、そのことと今回の事故後の対応をみていると、こんなものでいいのだろうかという気がしてならない。

確かに、人々がパニックに陥って大混乱となるのは避けなければならないが、かといって、事故が起こった福島からそれほど遠くない東京で、みんなが普通に通勤し原発報道を他人事のように見ているというのは、どうかと思う。

西日本に疎開するまでしなくても(そうする人がもっといてもおかしくない)、通勤通学も含め、不要不急の外出は避けるよう推奨したり、交通機関や物流は最小限とし、電力や燃料は集中的に被災地へ投入するといったことがなぜ行われないのだろうか。

そうすると経済活動が停滞する(要するに、カネ儲けができない)ということが裏にあるらしいということは見当が付くし、プロ野球開幕問題も含めこのままうやむやになるだろうことは想像に難くないが、万が一カタストロフに陥った際には収拾不可能ということになる。

原発について最も楽観的なシナリオは、このまま原子炉崩壊とかにはならないものの、半年一年後には「放射能で巨大化した○○」というような特集が週刊誌に載る。そして、電力不足は長期間にわたり経済に影響を及ぼすというあたりで、これ以上悪い方に傾かないよう祈るばかりである。


ゴルゴがリアルタイムで生きていたら、2015年現在で、少なくとも70歳にはなっていることになるのですが。

[Mar 17,2011]