611 西原理恵子「ぼくんち」 [Nov 10, 2005]

「あたしンち」の次は、当然「ぼくんち」である。けらえいこが読売新聞なら、西原理恵子は毎日新聞という共通点もある(せりかさんに見事に読まれてしまいました。さすが最近ポーカーでも強いはずです)。

「ぼのぼの」全盛期のまんがくらぶ(4コマ専門月刊誌)に、「ゆんぼくん」が載ったのはかれこれ10年以上も前のことである。当時、決して有名作家という訳ではなかった西原であるが、この作品を読んだ時、その叙情性に驚いた。その後、「恨ミシュラン」のさし絵とかマージャンもの、冒険もの(鳥頭紀行とか)で人気が出てしまったが、そうした人気作よりも、「ゆんぼくん」は10倍すばらしい。

その「ゆんぼくん」の系譜に連なる作品が、「ぼくんち」である。これ以上ない貧しい境遇にある一太と二太の腹違いの兄弟、これまた腹違いのお姉さんかの子、彼らを置いて男と出て行ってしまった母、かれらを取り巻く例外なく貧しい人々を描いた作品である。

わが家では、近所の奥様方に「あたしンち」の単行本をよく貸しているので、ついでに「ぼくんち」もお奨めするように言ってあるのだが、あまり評判はよくないらしい。はっきり言って「ぼくんち」の方が作品として優れていると思う。一方で、そもそも「あたしンち」を好む読者層に「ぼくんち」が受け入れられるはずもないような気もするが。

この作品は観月ありさ主演で映画化もされているのだが、残念ながら原作には遠く及ばない。多分制作者に「貧乏」に対する考察が足りなかったせいであろう。岸部一徳なんて金持ちの顔をしているし、よゐこの浜口も売れすぎてるし。本当は、猫ひろしとかもっと貧乏そうな人を使えばよかったのにと思う。また、題名からも分かるようにこの作品の主人公は二太であるので、かの子を主役にしたことにも無理があったような気がする(設定もいろいろ変えてあるし)。

この物語のラストは二太がもらわれていくところなのだが、「こういうときは、笑うんや」というセリフが泣かせる。ゆんぼくんのラストもよかったのだが、ぼくんちのラストも最高にいい。西原は現在、毎日新聞に「毎日かあさん」を連載しているが、どちらかというと鳥頭紀行やアジアパー伝に連なる作品で、それはそれでいいのだがいわゆる内輪ネタなのがちょっと不満である。まだまだ余力はあるはずなので、ゆんぼくん、ぼくんちに続く叙情作品がいつか発表されることを祈ってやまない。


これは現代作品なので、表紙だけ。西原も一生分稼いだだろうけど、この作品やゆんぼくんみたいなのは、もう書けないと思う。貧乏じゃないから。

[Nov 10, 2005]