762 古谷三敏「BARレモンハート」 [Dec 19,2006]

年の瀬である。気がついてみると今年も残すところ2週間を切った。昔と違って正月も普段の日もあまり変わらないようになってきたのだが、そこはやはり正月。お盆がただの夏期休暇になってしまった今でも年末年始というのはまた格別の感慨がある。そして年末といえば紅白歌合戦。かつては紅白の価値は今と比べ物にならないくらい高くて、大晦日に紅白を見ないなんてことは考えられなかった。そんな時代背景とともに思い出すのは、この長期連載作品である。

作者の古谷三敏は赤塚不二夫のアシスタント出身で、出世作「ダメおやじ」はまさに赤塚チックなのだが、1980年代後半から漫画アクションに連載されたこの作品は、打って変わってのうんちくマンガである。BAR「レモンハート」は冴えないマスターが一人でやっている場末の酒場なのだが、和洋中問わず何の酒を頼んでも出てくるという信じられないBARなのである(一度、「カストリはないだろう」と言ってきた地上げ屋に、「それがあるんです。カストリの味がわかるお客さんが来るのを待っていたんです」と返した場面は印象的だった)。

そのレモンハートに来る客の中で、「泣きの反」こと反流行(そり りゅうこう)というドサ回りの演歌歌手がいる。確か持ち歌が「涙の連絡船」で、歌っているうちに感極まって涙を流すのが有名なのだが、その反が奥さんに、「俺も長いこと歌手をやってきたが、いっぺん紅白に出てみたいもんだなあ」という場面がある。

一緒にいたマネージャー兼務のかみさんが、「何いってんだい。丈夫で一年歌って来れたんだから何よりだよ」と言ったのに続いて「それよりあんた。事務所から”涙の連絡船”が売れたからって、ボーナスが出たよ。3月たまってた家賃を払って、バンマスに借りてた5万も返して、今年はもう借金がないよ。どうだいおまいさん、寿司でも食べていかないかい?」「そいつは豪勢だね」というやり取りがある。いかにも年の瀬という会話で、なんとも言いようのない風情を感じた。

そして、その年の紅白は麻薬騒動などで辞退者が相次ぎ、なんと反にNHKから電話が入るのだが・・・、という話で、いまでもたいていのマンガ喫茶にはある作品なので、続きはぜひそちらで。他にも作品には「リレミト!」「ルーラ!」とか言い合ってるドラクエ2の頃のものとか(なんせその頃はホイミとべホイミくらいしか復活呪文がないのだ)ある。BARのマンガだけあって作品ごとに一つの酒が題材となっているのだが、泣きの反の回は「杏露酒」、ドラクエはなんだったかな~?「まほうのすず」の形のウィスキーなんだけど・・・。(メーカーズ・マーク)

そういえば、「いちばんドライなマティーニは」なんてメガネさんが講釈を垂れる回もあったなあ。二番目は「ベルモットの瓶をちらっと見てジンだけ飲む」、一番は「ベルモットの瓶を思い浮かべながらジンだけ飲む」だそうです。こういう話だと止まらなかったりして。


「美味しんぼ」が食の薀蓄をCOMICSに持ち込んだ時期に、この作品が酒の薀蓄を取り入れました。でも雁屋哲とは違って、自然保護より人情という作品です。

[Dec 19,2006]