861 山岸凉子「日出処の天子」 [Oct 25, 2005]

「ひいづるところのてんし」と読む。当然のことながら、主人公は聖徳太子(厩戸皇子)である。1980年から、月刊LaLa連載。

作者の初期の作品である「アラベスク(第一部)」(りぼん連載)を読んで、バレエには大変詳しい人だな、とは思ったもののここまで人気作家になるとは想像もしなかった。

それが一気にブレイクしたのは系列の「花とゆめ」に移って、「アラベスク(第二部)」「妖精王」「メタモルフォセス伝」とヒット作品を連発してからである。同時に、確かセブンティーンだったと思うのだが、「グリーンカーネーション」など同性愛をテーマとした作品を描いていたのだが、それらが統合集約されたのがこの作品である。

この作品における厩戸皇子は、超能力者で、同性愛志向があり、かつ深層心理的にはマザコンである。そして、その皇子の超能力が効かない相手が、蘇我毛人(えみし)なのである。物語はこの2人を軸に、次期天皇の相続争い、物部氏との抗争、祟峻天皇の擁立と暗殺、推古天皇の擁立、遣隋使の構想あたりまでが展開されていく。

第一巻のはじめから、いきなり山岸ワールドである。皇子に百済伝来の弥勒像を渡しに行った毛人は、瞑想中の皇子に引き込まれて苦界大底の魑魅魍魎の世界に行ってしまう。

魑魅魍魎にやられてしまったはずの毛人が現実に世界に戻っても生きているのに驚いた皇子が「生玉、死反玉、足玉、みんな飛び散ったのに・・・そなた、そこに何を持っている?」と尋ねると、毛人が懐に入れてきた仏像が粉々にくだけてしまう、といったあたりはなかなか他の漫画家では味わえない世界である。

(ちなみに、生玉、死反玉、足玉=いくたま、まかるがえしのたま、たりたま=は古神道で使うとされる呪具)

最後は、毛人にも拒まれ結局誰にも受け入れられることのなかった皇子が孤高の世界へと向かってしまう、というところで終わっているのだが、実は、この物語には続編があって、それから30年近く経った時代、つまり山背大兄王や蘇我入鹿といった彼らの子供の世代が破滅に向かうという作品(馬屋古女王)がある。これは単独で読んでもあまり面白くはない(というより、訳がわからない)が、「日出処の天子」を読んだからには読まなくてはならない作品である。

全然話は違うが、ニジンスキーNijinskyⅡという競馬の世界で非常に有名な馬がいるのだが(1970年の、そしてセントレジャーの距離が変更されない限り、英国における最後の三冠馬)、この馬の命名の語源を知ったのはこの作者の「アラベスク」である。ちなみに、人間のニジンスキーは20世紀を代表するバレエ・ダンサーで、馬のNijinskyの父親はノーザン・ダンサーNorthern Dancerである。


りぼんでアラベスク第一部を載せていた頃には、これほど大成するとは思いませんでした。「艮(うしとら)の方より詣ず」ってどういう節で読むんだろうというのが、ずっと疑問です。

[Oct 25, 2005]