019 岩井志麻子「ぼっけぇ きょうてぇ」 [May 25, 2005]

作者は最近では「自分自身」を売り物にする路線に転向してしまったようで、それはそれで結構なことなのだが、デビュー作(出世作というべきか)のこの作品集を読んだときは、これはすごい民俗伝奇小説家が出てきたと感激した。

表題作「ぼっけぇ きょうてぇ」とは、岡山弁で「すごく、怖い」という意味だそうで、舞台は明治時代の岡山の遊郭、あまり売れない遊女の寝物語から始まる。夢か現実か区別のつかないような物語の結末で明らかになる彼女の秘密とは・・。と、短編であることからあらすじを説明するとネタバレになってしまうのだが、基本的には岡山各地を舞台とした伝奇小説集である。

作品自体がおどろおどろしいだけに、作者はあまり表に出てこないか、あるいは作品とは全く異なるもの静かな人であったら面白かったのだが、残念ながらというか、作者のイメージは作品のとおりである。また、作者自身の露出に反比例して、作品のパワーはやや衰えてしまった感は否めない。柳田国男や南方熊楠を期待してしまう私が悪いのかもしれないが。

民俗というジャンルは学問とするには体系立っていないし、フィクションとノンフィクションの狭間のようなところがあるから文学作品としても難しい位置づけにある。しかしそこには、人間社会の原点というかエッセンスのようなものがあり、その多くは現代では失われてしまったように思う。日本中の人間がヨーカドーやジャスコの服を着て、TVやインターネットで同時に同じ情報を共有している、そういう社会が望ましいものであるのかどうか、などと考えさせられる。

その意味で、この作者の醸し出す世界は非常に興味深いものがある。テレビその他で作者をみて食傷気味の人も、この作品集だけは読んで損はない。他の作品の中では、やはり岡山県山間部で起こった津山事件を題材にした「夜啼きの森」も味わい深い。もっとも、横溝正史「八つ墓村」をはじめ、津山事件を題材にするとたいてい読み応えのある作品にはなるのだが。

(津山事件については、こちらのページから「事件」というところで検索すると詳しいです)

 

[May 25, 2005]