023 小田島隆「地雷を踏む勇気」 [Oct 30,2013]

「日経ビジネスオンライン」連載のコラムをまとめた本で、この作者もなかなか面白い。やはり私と同年配(1956年生まれ)で、大学卒業後就職先を1年未満で退職、その後引きこもり、30代にはアル中になっていたというたいへんなお人である。小石川高校の同級生・電通CMプランナーの岡康道との対談本もあるが、単独の本も相当面白い。

この本で鋭いと思ったのは以下の記述。大震災時の原発再開に伴う九州電力のやらせメール事件に関する記事である。

—————–(引用はじめ)—————————-

これは、昨日今日の付け焼刃の無能ではない。
きちんと筋金の入った、十分に訓練の行き届いた無能だ。
単純な浅慮や無神経で、ここまでの無能さは達成できない。
つまり、無能であることが求められ、無能であることが評価される機構がシステムとして維持されている場所でなければ、これほどあからさまな無能は生まれ得ないということだ。

—————–(引用おわり)—————————-

わが国の大企業と呼ばれる会社に勤めて、こういった感想を持たない人はほとんどいないといっていいのではないか。とはいっても、このようにクリアカットな文章で本質をまとめることができる人はほとんどいない。それができるからコラムニストをやっていられるとしても、これはすごい。

「無能であることが求められ、無能であることが評価される機構がシステムとして維持されている場所」すばらしい!得てして企業の中にいると、「なぜああいう人間ばかりが偉くなるんだろう。」「それに引き替え、なぜ自分の評価は低いのだろう。」「どいつもこいつもバカばっかりだ。」などと査定・評価が公正であるべきと思ってしまうが、実は方向性が逆だったのである。

例えばこの間、JR北海道が線路幅が規定より広がっていることを検査で見つけていたにもかかわらず、何の対応もしないまま放っておいた事件があった。サラリーマンを長くやっていると、ああいう事件がどうやって起こったかはほぼ見当が付く。保守担当が重要視されていないからに違いない。(その後のニュースで、運転ミスをごまかそうとしてATSをわざと壊した運転手が異動させられたのが保守担当だった。やっぱりね。)

どこの会社でも、提供している製品・サービスの品質維持は最も神経を使わなければならないはずだ。それは、万一何か起こった時にダメージが計り知れないほど大きく、会社の存亡に関わるからである。にもかかわらず、こうしたポジションをまじめに勤めることは会社では評価されない。これは作者ではなく私が言っていることであるが。

これが行きつく先はどうなるのか。正直よく分からない。多分、ろくな事にはならないだろうと思う。それならどうするのかにも、明確な処方箋はなさそうだ。われわれに分かるのは、別にそんなに人を出し抜こうとしなくても、普通に暮らせば人生はそれなりに楽しいということくらいだろう。

他にも、ナンバーワンとかオンリーワンとか言っているけれど、現代というのは競争(ナンバーワン)からも個性(オンリーワン)からも下りている状況なんじゃないですか、とか。気分は必ずしも晴れないけれど、自分が言いたいことか言葉で表現されるのは楽しいものである。

「火事場でもないのに馬鹿力を出すのはただの馬鹿。」「人材は木材と似ている。樹木から皮をはぎ、形を整えて木材とするように、人間から角をとりへこませて規格化すると人材になる。」というフレーズも結構好きです。

[Oct 30,2013]