111 斎藤美奈子「紅一点論」 [Oct 2, 2013]

最近は読む本がだんだんなくなってきて、同じ作者の本を何回も読んだり、あげくの果ては自分で書いた文章を読んでいる。これでは視野が狭くなってしまうので、何とか新しい作者を探そうと思うのだが、なかなかうまく行かない。そんなところで見つけたのがこの本。1956年生まれというから私と同年輩。あまりなじみのないフェミニズム系である。

何冊か読んでみて、それほど違和感がない。男尊女卑や伝統的家族制度に批判的であることは文章の端々に見受けられるが、かといって女があまりでしゃばるのもよくないのではというためらいも伺われる。中でも読ませると思ったのがこの本。童話やアニメ、伝記など古今の題材から、紅一点って何だろうと考察したものである。

中でも感心したのが、1970年代から90年代を代表するアニメが、それぞれ時代背景と作者の隠れた願望を表現しているというあたりである。それによると、70年代の「宇宙戦艦ヤマト」は形を変えた高校野球部の物語で、80年代の「ガンダム」は大学全共闘、90年代の「エヴァンゲリオン」は壊れた家族の物語なのだそうだ。

確かに長年CMなどを見ていると、作品はその時代の動きそのものを反映しているのではなく、その時代に”決定権を与えられた世代”が、”自分達がなしえなかった理想”を表現しているような気がする。(最近のBGMには1970年代ミュージックが流れていることが多い。われわれの若い頃はジャズが多かった)

世の中にある雑多なものを、ある評価軸を提案することによって整然と見せることができるのは、作者の才能である。その評価軸が独りよがりだったり、政治的宗教的バイアスがかかっていたりすることが多いのだけれど、この作者の場合はなかなか鋭い。

もう一つ秀逸だったのは、伝記の世界で幅をきかせている女性の偉人の考察である。作者によると、わが国の伝記で広く採り上げられている女性はナイチンゲール、キュリー夫人、ヘレン・ケラーの3人しかおらず、いずれも外国人(しかも白人!)で、マリー・キュリーだけに「夫人」が付いて、ヘレン・ケラーだけ名前が付く点はわが国独自の風習だそうだ。

さらに、なぜ彼女たちが(特に日本で!)代表的な偉人とされるのかというと、ナイチンゲールは「ナウシカ」で、キュリー夫人は「セーラームーン」で、ヘレン・ケラーは「もののけ姫」だからなんだそうだ。このあたりの分析は非常に面白いので、興味のある方にはぜひお薦めしたい。

それぞれの偉人の実態はというと、ナイチンゲールは「名誉男性」で女性の社会参加に冷淡だったし、キュリー夫人は田舎出のガリ勉娘で家事能力ゼロ、ヘレン・ケラーは出たがりのおばさんなんてことも書いてある。ちなみに、キュリー夫人がセーラームーンなのは、タキシード仮面さま(夫のピエール)がいて幻の銀水晶(ラジウム)があるからだとか。


この作者の作品をいろいろ読みましたが、切れ味ではこの本が一番のような気がします。

[Oct 2, 2013]