160 ヴァン・ダイン「カナリヤ殺人事件」 [May 17, 2005]

いまの中学生は塾通いで忙しいし、あいている時間はテレビゲームと相場が決まっているが、私の頃はもう少し世の中がのどかで、中学生の男子はミステリーを読むかSFを読むか、はたまた部活動に熱中するかのいずれかだった。

ミステリーの分野でも江戸川乱歩など国内作家を好む組と海外作家を好む組とに分かれたが、私はというと後者に属したので、エラリー・クイーンやアガサ・クリスティ、クロフツ、ディクスン・カーなどの作品を読みあさったものであった。今ではほとんど内容を忘れてしまったが、いまだに強烈な印象を残しているのがヴァン・ダインのこの作品である。

なにしろ、主人公である探偵のファイロ・ヴァンスは多方面の芸術に通暁している上にギャンブルも好きだという「好事家」である。この作品でも、トリックの要が「ベートーベンのアンダンテ」なのだが、70~80年前のことだからトリックの古さは措くとして、発見に至るまでの能書きの多さは推理小説としての枠組みを超えているものがあった。

また、犯人を特定する手掛かりとなるのは、容疑者たちと探偵が行うカードゲーム(ポーカーだったと思う)なのである。ポーカーが強いからといって特定されてしまう犯人も気の毒だが。ちなみに、ヴァン・ダインの長編作品「○○殺人事件」は全部で12あるが、後期の作品の中にカシノを舞台とした「カシノ殺人事件」がある。カシノファンとしては、一読して損のない作品群であると思う(ただし、いま残っているのは文庫だけのため、老眼にはきびしい)。

ヴァン・ダインはペンネームで、本職は評論家である。大方の作家は多くの作品を発表する中で名作といわれるものがときたま出てくるのだが、ヴァン・ダインの場合はほぼ最初の4作品がベストで、後期の作品はそれほど評価が高くない。作者自身もそれが分かっていたためか、12作品を発表してあとはミステリーの執筆を止めている。「カナリヤ」は2作目の作品で、代表作といわれる3作目「グリーン家」4作目「僧正」に次いで評価の高い作品である。

因みに、当時この手の海外ミステリーは、創元推理文庫に頼るしかなく、大体の本屋にはかなりの量の創元推理文庫の本が置かれていた。たいていの作品はそれで手に入ったが、版権の関係でアガサ・クリスティの名作「そして誰もいなくなった」がハヤカワミステリで出たので、わざわざその本を探しに神保町まで行ったことを覚えている。

 

[May 17, 2005]