161 高橋大輔「漂流の島」 [Feb 6, 2017]

同名のフィギュア・スケート選手が有名だが、こちらは探検家の高橋大輔。ロビンソン・クルーソーのモデルとなったアレクサンダー・セルカークの住居跡を発見した。その著者が、ジョン万次郎はじめ江戸時代に数々の漂流潭の舞台となった鳥島をリサーチした作品。

八丈島の南にある青ヶ島から小笠原諸島に至る南北約600kmの海域に、人が住める島は鳥島しかない。そして、江戸幕府は鎖国政策をとっていたから、長距離を航行できる船舶を作ることは禁じられていた。ひとたび海が荒れ帆や舵が壊れて航行不能になれば、船と乗組員は潮の流れと風向きのまま、太平洋の彼方に流されるのである。

その中で、たまたま鳥島に流れ着いた漂流民が何組かいて、そのまま帰れなかった者も多数いたのだが、中には運よく助け出されたり、船を補修・製造して脱出した者もいた。最も有名なのはアメリカの捕鯨船に助けられたジョン万次郎ということになるが、それらの漁民たちの足取り、真水もなく火もない中で最長19年も島でどうやって過ごしたのかを考察した本である。

著者は山階鳥類研究所の実施する現地の土木工事に、地熱調査の助手として参加することとなり、鳥島を実査することになる。あくまで助手の仕事が主なので行動は自由ではなかったが、かつて「漂流里」と呼ばれた江戸時代の漂流民の洞窟跡や上陸地を実際に見る。鳥島は明治・昭和の2度の大噴火により地形が大きく変わっており、目的とする洞窟は見当たらない。

唯一、島の西側にある溶岩地帯の崖に、防空壕の跡とされている2つの洞穴を見つける。中に入ってみると江戸時代の記録と似た部分もある。一方でかなり人の手が入った形跡もある。短時間では結論は出せないものの(結局、島には5日位しかいられなかった)、さらに調査すれば何か分かるのではないか、というところで島から引き揚げる日となる。

その後、東京都に対して調査申請をするのだが、かつて土木工事隊に入って鳥島を訪問していることが担当者の心証を害し、申請は門前払いとなり再度の鳥島訪問の目途は立たないというところでこの本は終わる。鳥島は島自体が天然記念物であり、アホウドリ保護以外の目的での入島は認められないというのが都の立場なのだ。

土木工事隊にはテレビのバラエティ番組も同行していたというから、著者にそれなりのコネか知名度があれば、おそらく何らかの形で認められたのだと思うが、それが日本なのである。誰か上の人が強い圧力をかければ芸人だって島に入れるし、そうでなければいくら意義を説明したところでどうにもならない。悲しいことであるが仕方がない。

天皇陵を調査すれば日本古代史が大きく書き換わることは間違いないのに、宮内庁は天皇陵の調査を一切認めない。現代の研究では本当に天皇陵かどうか疑問視されているのにそうなのだから、江戸時代の庶民が漂流して住んでいたのがどこかといった程度では、担当者が頑ななのも仕方のないことなのかもしれない。

あとは巨額の資金があれば、無許可で上陸するという手段はある。 実際、この本の中でも、天然記念物保護の原則から都が立入を認めなくとも、中国の漁船はこの近海に多数出没しており、台風や船の故障で避難したいと申し入れがあれば断ることはできないだろうと書かれている。とはいえ、たとえそうやって上陸できたとしても、その成果をおおっぴらにするのは難しい。

本筋とは別に驚いたのは、寛政時代に漂流して島に閉じ込められ、12年後に後から漂流してきた連中と船を作って脱出した土佐の「無人島」長平は、出航したのが赤岡で、墓はごめん・なはり線の香我美にあるということである。実は先日の四国遍路で、赤岡も通ったし、香我美の駅まで歩いてごめん・なはり線に乗ったのだった。事前に読んでいれば、ぜひ墓参りしたかったものである。


本筋の鳥島探究の話とは別に日本の役所の頑なさ、下に強く上に弱い体質を考えさせられる本でした。

[Feb 6, 2017]