165 筒井康隆「筒井順慶」 [Jul 11, 2005]

前に、中学・高校の時には推理小説に行くかSF小説に行くか、二つに分かれたという話をしたことがあるが、推理小説に行った私でも、SFは全く読まなかったという訳ではない。星新一や小松左京、レイ・ブラッドベリなどを少しは読んだが、あまり熱心に読み進もうとは思わなかった。ただ一人の例外が、筒井康隆である。

筒井康隆がSF作家かという議論は昔からあるが、実際SFマガジンへの掲載が多かったのでSF作家なのだろう。「カメロイド文部省」や「活性アポロイド」などは、宇宙もの、科学もの、といえなくもない。ただ、直木賞候補にもなった「ベトナム観光公社」「アフリカの爆弾」をみると、明らかにSFの範疇を超えている。ちなみに、短編で私の好きな作品は病原菌もの(あはは)の「コレラ」である(実際はカミュの「ペスト」のパロディー)。

さて、筒井作品でひとつ薦めよといわれれば、私はこの作品をあげる。ちなみに、氏は大和の戦国武将筒井順慶の子孫だそうで、作品に出てくる「順慶会」というのも実際に存在するらしい。

二つの出版社から順慶をテーマに「SF的歴史観」で一作書いてほしいと依頼を受けた作中の「俺」は、一族の反対で遺産相続や親戚付き合いが難しくなりそうだ、と断りを入れにいく。そこに居たのは時代小説の大御所。脇で話を聞いていた大御所はステッキを振り上げるや、テーブルにあったガラスの灰皿を叩き割って一喝。「小説家とは天涯孤独。貴様のような奴がいるから、文学の質が低下するのだ!」

その後、取材を続ける中で、どちらの出版社に渡すのか、一族の変わった人達の登場、睡眠薬の飲みすぎによる過去と現実とのシンクロなど、例によっての筒井ワールドが展開される訳だが、年取ってからの「文学部唯野教授」のような重厚さはない代わりに、軽くて展開が速い。どちらかというと最後収拾がつかなくなって終わることが多い氏の作品にあって、終わり方もまともである(週刊文春連載だそうだから、そんなことも影響しているのかもしれない)。

最初に氏の作品を読んだ頃は、NHKで「時をかける少女」がドラマ化されたことは知っていたが、ここまでメジャーになるとは思っていなかった。先日深キョンが主演した「富豪刑事」も氏の作品である(原作は男だが)。ファンなら周知のことだが、メジャーになってからより、初期の作品をぜひ読んでほしい。あれだけの量の作品をかなりの質(どういう質だという問題はある)で発表し続けた氏の才能はやはり素晴らしいということが実感できるだろう。

 

[Jul 11, 2005]