212 梨木香歩「からくりからくさ」 [Feb 25,2011]

昨年末に村上春樹訳の「ロング・グッドバイ」(レイモンド・チャンドラー)を読んで感激して、ハードボイルドをいくつか読んでみようと思ったのだけれど、新宿鮫シリーズを何冊か読んだところで早くもくじけてしまった。どうも個人的に、刃物や鈍器が飛び交う世界は苦手のようである(せいぜいボクシングまでである)。

気分転換に、児童向けの棚にあった「りかさん」を読んでみたところ、やっぱりこちらの方が性に合っているなあと改めて思った。「りかさん」は「からくりからくさ」のサイドストーリーになる。こちらの方は児童向けのところには普通置いていない。

古い日本家屋に共同生活する女子学生の物語なのだが、実はこの小説の主人公はその女子学生のうちの誰かという訳ではない。本当の主人公は「りかさん」という人形なのである。

最初は染物と織物の話かと読み進めていくと、そうではなくて異文化交流の話になり、少数民族の話になったかと思うと幕末時代の怪奇譚になる。そして伝説の能面師のルーツ探しへと展開は二転三転する。

夢枕獏の「陰陽師」で生成りは知っていたが、これと般若、蛇の面の関係は、とか、伝説の竜女の面とはというあたりから急転直下の結末へと向かうのだが、これ以上書いてしまうとネタバレになってしまうのでこのあたりで。

この作者のいいところは、ほとんど刃物や鈍器が出てこないことである。なにしろ、前半は植物染料の話で、化学薬品くらいで相当どぎつい印象になる。そして、長編小説なのに、途中を読んでも独立して読めるところ。また、結末の書き方に含みを持たせていて、どうなったのか読者の想像に任せてくれることである(これは、他の作品にも共通している)。

年齢的にも私と近い作家で、指をなくした能面師が打った鬼気迫る面などというと、私の年代だと「肉面」とか「火の鳥」を思い浮かべるかもしれない。他にも、今年の読売文学賞を取ったエッセイ「渡りの足跡」などいくつかの(それほど多くない)作品があるが、非常に整っていてそのうち国語の教科書に載るのではないかと思う。

ただ一点、この作品(からくりからくさ)で気になるのは「よき・こと・きく」のくだり。われわれの年代はこれを聞くと、どうしても佐清(すけきよ)が湖に逆さに突っ込まれているのを思い出してしまうことであろうか。

 

[Feb 25,2011]